―――それは、何の変哲もないいつもの朝のはずだった。
昨日と同じ今日。今日と同じ明日。…いつものように、変わらず続くはずだった。
それが―――…
「リボーンさん!!」
一気に崩れた。
「一緒に遊園地へ行きましょう!!」
あの惨劇を回避するには…何が何でもここで断る必要があったのだが、それが出来なかったオレを一体誰が責めることが出来よう。
何の用事もない休日。恋人からの誘い。獄寺の縋るような瞳。惚れた弱み。
…どれを取っても断る選択肢など、出ては来なかったのだから。
「……遊園地?」
「はい!」
いつもオレの目の前では笑顔の獄寺だが、今日は更にいつもの約三割り増しぐらいの笑顔だった。
「オレとリボーンさんの休日が重なるなんて滅多にないんです。ね、ですから今日は遊園地でデートしましょうよ」
デートか…悪くない響きだが、だが何故にその場所が遊園地なんだ?
「…実はですね………オレ、恥ずかしながら遊園地…今まで行ったことないんですよ。ですから……」
行ってみたいと。やや照れたように言ってくる獄寺が可愛い。
「…ま、そういうことなら構わんが」
「本当ですか!? ありがとうございますリボーンさん!!!」
赤くなった頬を更に紅潮させて礼を言ってくる獄寺が可愛い。
「…だけど、別に遊園地に行きたければ一人で勝手に行って来ればよかったんじゃねぇのか?」
「………リボーンさん。オレ、今一体いくつだと思ってるんですか?」
「確か24だったな」
「あと少しで25になります。…とにかく、そんないい年した大人が、しかも男が一人で遊園地だなんて痛いにも程があります」
「そうか? お前の外見なら観光に来た外国人に見えるだろうから少しぐらい遊んでも大丈夫だと思うぞ。……まぁ、はしゃげば痛いかも知れないが」
「でしょう?」
簡単にそう言ってくるということは、つまりははしゃぐ気満々なのか。こいつ。
「ですので、リボーンさんがいて下されば安心なんですよ」
「なんでだ?」
「リボーンさん、今おいくつでしたっけ?」
「11だ」
「完璧です。はしゃいでも誰も文句を言いません。しかもリボーンさんでしたら恐らくもっと年下に見えると思いますし……身長的に」
失礼な。
「それに、リボーンさんだって遊園地なんて行ったことないでしょう?」
「そうだな。知識で知ってる程度だ」
「でしたら、きっといい経験になると思いますよ」
にっこりと微笑む獄寺。繋がれた手からも今日という日をどれだけこいつが楽しみにしていたかが伺えて。
…だから今日は出来るだけ、こいつに付き合おうと。
そう思った。
「もう帰る………」
遊園地に来てわずか15分。
オレは前言を撤回していた。
「リ、リボーンさん!? まだ一つのアトラクションに乗っただけですよ!?」
「帰る……」
本気で出口まで歩き出すオレを獄寺が本気で止める。
「リボーンさん! その…少し休憩しましょう!! オレ何か冷たいものでも買ってきますから!! ベンチに座って待ってて下さい!!」
半ば無理やりにオレをベンチに座らせ、獄寺はどこかへと走って行った。
………。
このまま本当に帰ってしまおうかという気持ちが出てくるが…何とか堪えた。
オレが獄寺に惚れてなかったら間違いなく絶対帰っていたけどな。
オレの目の前では先ほどオレと獄寺が乗ったアトラクションが変わらず起動している。キャーだのワーだの本気なのか本気じゃないのか分からない悲鳴が聞こえる。
………。
……………帰ろう。
思わずベンチから立って踵を返したところでオレの眼前に冷気が当る。
「お待たせしましたリボーンさん!! 一緒に飲みましょう」
現れたのは楽しそうにオレに満面の笑みとジュースを向けてくる獄寺。
「リ、リボーンさん? どうしました?」
「なんでもない…」
獄寺に促されて再びオレはベンチに戻った。流石に獄寺の前で帰るわけにはいかない。
「それにしても一体どうなされたんですか? いきなり帰るだなんて」
「……あんなのがあるなんて聞いてねぇぞ…」
「はい?」
獄寺はどれのことですか? と首を傾げている。
…本気で言ってるのか…?
「あの、時速云百キロで走行しつつ回転だの落下だのする物騒極まりない乗り物のことだ!!!」
「えーっと………ああ、ジェットコースターのことですか? そんなに怖かったですか?」
「お前は怖くなかったのか!?」
「カメラに向けて笑顔でピースしちゃいましたよ」
「マフィアが写真撮られてんじゃねぇよ…!!!」
「若干突っ込み所が違うような気もしますが…まぁ最初の落下で腰が浮いたのにはヒヤッとしましたけどね」
「オレは死ぬかと思った」
「またまたご冗談を。あの戦場では敵なしのリボーンさんがあんな子供騙しに引っかかるわけがないでしょう?」
あれが子供騙しであるものか…!
「それに銃だって取られたんだぞ!!」
「ええ、荷物は100円コインロッカーに預けましたね。だって飛ばされたら探すの一苦労ですよ?」
「あの乗り物の中で狙われたらどうするつもりだ!!」
「狙われなかったじゃないですか」
「オレはそんな結果論の話をしているわけじゃない!!」
「どっちにしろあの速度の中で狙われたら抵抗出来なかったんじゃないですか?」
「死は確定か! つかオレだって抵抗ぐらいするわ!!」
「またまたー、あんなに状況に付いていけてない顔をしていたくせに☆」
「てめー何人の顔じろじろ見てたんだよ!!!」
目の前に集中してろ! 恥ずかしいだろうが!! てかとにかく!!!
「あんなの人間の乗りもんじゃねぇ!!!」
「いえ、人間以外の乗り物じゃないんですけど」
「んなわけあるか!!!」
「そうは言われましたも…あ、目の前ではほら。ジェットコースターに群がる順番待ちでいっぱいです」
「あいつらは馬鹿なのか…? 何故、あんな物騒極まりないものに乗ろうと並ぶ!?」
「ほらほらリボーンさん。子供が身長制限に引っかかって乗れないと泣いてますよ」
「何故そこで安堵のため息を吐かない!!」
「…そういう奴は多分遊園地に来ませんから」
ええい、理解不能だ!! オレには未知の領域だ! なんだ遊園地って! 魔境か!?
「…あー、見てたらなんだかもう一回乗りたくなってきましたね! ね、リボーンさん…」
「帰る」
「わー! 冗談ですリボーンさん!! 他のに乗りましょう! 他のなら大丈夫ですよね!?」
「………回転しないか? 時速云百キロ出ないか?」
「しません。出ません。ね? ですから行きましょう?」
獄寺は微笑みながらオレに手を差し出す。オレはその手を……受け取る。
あとはもう、獄寺に引っ張られるがままだった。
「じゃあリボーンさん! 次はあれです! 蜘蛛男見に行きましょう蜘蛛男!!」
「蜘蛛男…?」
「ええ。大人気らしいですよ?」
「蜘蛛が…?」
「蜘蛛が」
………?
施設の前ではなるほど、大人気といわれるだけあって人だかりが出来ていた。
どれくらい待つんだ…?
「ふっふっふ。リボーンさんご安心を。オレたちが持ってるチケットは特別待遇版なので最優先で乗れるんですよ!!」
「そうなのか」
そういえばさっきのもそんなに待たなかったな。
「というわけで行きましょうリボーンさん!!」
そんなわけでオレはハイテンションな獄寺に引き摺られながら施設の中に入っていった…
順番待ちの奴等への配慮なのか、行く先には様々な小道具やデモムービーが流れている……
「リボーンさん!!」
「なんだ。どうした」
「とりあえずあのパイプを這いずり上がって、仁王立ちして高らかに笑いつつ『オレが家庭教師ヒットマンリボーンだ!!』と順番待ちの奴等に自己紹介して下さい!!」
「何故!?」
「リボーンさんなら出来るでしょう!?」
「出来るかボケが!!!」
「えっ……?」
「んな本気で期待を裏切られた表情をするな!!」
「リボーンさん!!」
「なんだ。どうした」
「あそこに新聞紙が山積みになってます! ここは一つあれを順番待ちの奴等にばら撒いて記念品にしてもらいましょう!!」
「お前がしろよ」
「オレは他人の振りをしてますから」
「死ね。氏ねじゃなくて死ね!!」
「リボーンさん!!」
「………どうした」
「あの大道具の写真の中に入ってVサインしてきて下さい! 写真に合わせてアメリカンチックな笑み付きで!!」
「物理的に不可能だ!!」
「更に難易度を上げてあっちの白黒写真でもいいですよ!!」
「どうやって彩度を落とせと!?」
「リボーンさん、リボーンさんーv」
………。
オレはもう返事をするのも億劫だった。
なんだ…今日の獄寺のテンションは。
おかしすぎるぞ。色々と。
「…あれ? リボーンさん何を見て………ああ、説明ムービーですか?」
「………なんでアメリカンアニメの笑顔ってあんなにも胡散臭く感じるんだろうな…」
「さぁ…」
と、オレたちがブラウン管を見つめる中。この施設の社長という設定の中年親父がこちらに向かってバチリとウインクをした。
「「キメェ…!!」」
気分は最悪になった。
…客を不快に感じさせるものを作るな○SJ!!!
そんなものを見ながらやっと乗り物まで付いた…
ちなみに獄寺はあのあともなにやらわけの分からないことを言ってきたのでオレが笑顔で一発思いっきりぶん殴ったら多少静かになった。
…あくまで多少、だが。
さて問題のアトラクション…だが。
まぁ獄寺が言うにはもうスピードも回転もないのだと言っていたから、大丈夫だろう。
オレは獄寺を信じた。
………。
「楽しかったですねリボーンさん!!」
「………」
「リボーンさん?」
「帰る……」
「わー!? リ、リボーンさん!?」
「帰る…」
「どうか落ち着いて下さい! 一体何があったんですか!?」
「何がもなにも、あんな…!!」
「…っ!! な…涙目のリボーンさんがオレを上目遣いしている…!!! か、可愛いですリボーンさん! 素敵です愛おしいです愛してます! 抱きついてもいいですか!?」
「お前が落ち付けぇええええ!!!」
オレは人目もはばからず抱きついてこようとする獄寺をぶん殴る。
…まぁ、どうせ周りの奴が見てもオレと獄寺の性別と年の差で勝手に兄弟か親戚同士がじゃれあっているんだと誤解してくれるんだろうけどな。
………だが獄寺は本気なんだ。この一見オーバーリアクションに見える振りも本気なんだ。…恐ろしいことに。
「デジカメデジカメ。写真写真」
「撮るな!!!」
「それで、一体どうされたんですか? まさか何か怖いところでもありました?」
「お前は怖くなかったのか?」
「蜘蛛男が写真を撮るときうっかり笑顔でVサインしてしまいましたよ」
「またか! つかだからマフィアが写真なんて撮られてんじゃねぇよ!!」
「係員に「素敵な笑顔ですね」って言われました」
「しかも顔覚えられてるし!!」
「リボーンさんも映ってらっしゃいましたよ? 程よく放心状態のが」
「…今から施設ぶっ壊してその写真消してくる……」
「まぁまぁ。もう消されてますから」
「本当か…?」
「ええ。あんなに可愛らしいリボーンさんを誰にも渡すものですか! オレにだけ焼いてもらってあとは消してもらいました! 他の客には一切渡ってません!!」
「お前持ってんのかよ!!」
「帰ったらアルバムに張ります!!」
「やめんか!!」
「まぁまぁまぁまぁ。そう怒らず。楽しかったでしょ?」
「今までの会話の中でどうしてそんな展開になる!!」
「楽しくなかったんですか?」
「楽しめるか! 死にかけたんだぞ!!」
「………はい?」
「変な化け物は出てくるし幻覚でもないのに触れないのに飛んでくる熱気や水は本物だし車はビルの屋上から地上へと落ちかけるし!!!」
「いやあの…それ3Dって奴ですよ。変な眼鏡掛けられたでしょ? それと乗り物の揺れを巧く重ねた目の錯覚ですけど」
「あの眼鏡は暗視眼鏡だって聞いた!!」
「………」
ポン、と獄寺は両手をオレの方に置いた。
「…な、なんだ…?」
「リボーンさん…お願いですから、いつまでもそのままのあなたでいて下さい…!!!」
「…はぁ?」
何言ってんだこいつ…
「リボーンさん! 次はあっちに行きましょう!!」
「あ…ああ」
オレは既にふらふらだったが、獄寺は元気いっぱいだった。オレの手を取り颯爽と歩いている。
…もう揺れたりしないだろうな……
「大丈夫ですよ。今度のは映画とショーを組み合わせたみたいなもんですから」
「そう…なのか?」
それなら安全か……? とか思いつつ向った先ではなにやら女が声を張り上げていた。
「…じゃあそこの黒スーツで格好付けてるお坊ちゃん。どこからいらしたのかしら?」
…ああ、それにしても疲れた……まだ来てあまり時間も経ってないというのにどうしてこんなに疲れてんだオレは…
「…無視ですかー。それとも日本語が分からないのかしら? 祖国へ帰れ」
………って今オレ無駄に毒舌喰らわなかったか!? え!? 何!?
「ははは。リボーンさんそんなに緊張してたんですか?」
「してねぇよ!!」
ちょっと気を抜いただけでなんて言われようだ……!
その後説明らしいムービーが流れ始め…
………。
「って、おい獄寺!」
「はい? 何でしょうリボーンさん」
「なんか画面が乗っ取られてるんだが!!」
「中の奴五分以内に逃げろって言ってますねー。ははは、無理だっての」
「お、おい、これは大丈夫なのか獄寺!?」
「はい! 大丈夫です!! いざというときはオレがあなたをお守りしますから!!」
「それ大丈夫って言わねー!!」
「大丈夫ですって! 種明かしをするとこれら全ては組み込まれてることですから!」
「本当か…?」
「本当です!!」
「………」
ならいいか…
しかしメカとかやけにリアルなんだが…
だ、だだだ大丈夫だよな…?
「大丈夫です! なんでしたら手でも握りましょうか?」
「……………頼む」
「はい。お任せ下さい」
獄寺の手がオレの手を握る…
これはこれで嬉しいが……ああ、オレのヘタレ…! ヘタレなオレのアホー!!
「ほらリボーンさん! 始まりますよ!」
「あ? ああ…」
獄寺に促されて見てみれば……あー、確かに。映画だなこれは……
………。
『―――死にたくなかったら、オレに着いて来い』
…は、格好付けやがって…
「し、渋い…!」
何ー!?
獄寺ー!?
ちょ、お前何少し心ときめいてるんだよ!!
「あんな台詞、リボーンさんに言ってほしいですよね!!」
オレが!? あれを!?
……………;
「ご…獄寺」
「はい?」
「し…死にたくなかったら…だな…、」
「はい」
「オレに……」
「………」
って、手を握ってもらいながら言う台詞じゃねー!!!
「リ、リボーンさん落ち込まないで下さい!!」
オ、オレは好きな奴の望む言葉すら言ってやれないのか…!
「リボーンさん!」
しくしくしくしく…
「リボーンさんー!」
「うー…」
「ああ、リボーンさんがぐったりと。おぶりましょうか?」
「…流石に要らねぇ…」
つか、また3Dかよ…!!
「直前になってから気付いたんですか? 眼鏡渡したでしょ?」
「お前がさり気なく渡すから気付かなかったんだよ馬鹿!!」
「ああ…涙目なリボーンさん可愛いです…写真写真」
「撮るな!!」
つか、もう、帰る…オレ帰る……orz
「…そうだ。リボーンさん分かりました。今から食事にしましょう!」
「…? 確かに昼時だが…何が分かったんだ?」
「リボーンさんきっとお腹が空いてるんですよ。だからそんなにもカリカリぴりぴりして怒鳴ってるんです。一度落ち着きましょう!!」
まずお前が落ち着け。
そう出かかった言葉を何とか堪えた。
「別にオレは腹なんて…」
「そうですか? でしたら次に行きましょうか! 次のはですね…」
「よし獄寺。飯にするか」
「はい」
もう何も乗りたくない…
遊園地怖ぇえ…
もうあれだ。ゆっくり食って少しでも時間を稼ごう…
「リボーンさん何食べます?」
「とりあえず量のあるものを…」
「そうですね。まだ時間はたっぷりありますし、今後に備えて体力を付けましょう!」
にっこりと微笑む獄寺にオレのしていることはもしかして無駄なのだろうか…と心配になる。
「あ、リボーンさんあそこ。雲雀がいますよ」
「ん? ………ああ、鳥の雲雀か」
「群れてますねー」
「…群れてるな」
「あ。リボーンさんあれあれ。あの女が食ってる奴」
「ん…? パイナップルのアイスか? それが?」
「骸ですよ骸ー」
「…骸?」
「ええ。あの房の部分が顔で、葉の部分が髪です。あー、骸の生首が齧られてる齧られてる…」
「………物騒な表現をするな」
てか、こいつ…一度落ち着いたかと思ったがもしかしてそうでもない…?
「っと、料理が来ました。………はいリボーンさん、あーん」
オレの眼前に獄寺が自分の料理を運んでくる。
………信じよう。
オレは身を乗り出してフォークに絡まれたパスタを食った。
「…美味しいですか? 10代目」
「―――ゴフ、ガハッ!!」
し…信じたのに! 言わないと信じたのに!!!
「ツナパスタで10代目パスター…なんちゃって☆」
「お前本当にツナに忠誠誓ってんだろうな!? もしかして嘘なんじゃないのか!?」
「何言ってるんですか。あの時身を呈して庇ってくれた10代目のこと…! オレは忘れません!!」
「……………」
「それとオレに怪我がなくてほっと安堵の息を吐いたリボーンさんも忘れてませんよ」
「…あれは…オレが心配したのはツナの方でな……」
ああ、違うだろオレ。何でそんな天邪鬼になる。
オレがあの時ヒヤッとしたのは…獄寺が大怪我を負うかも知れないって思って…
「あと、翌日リボーンさんがオレを学校の隠れ部屋に案内してくれて色々心配して下さったことも忘れません」
「いや、だからあれは…」
「でも、すいません…あの時オレはまだガキだったのでてっきりまだ半人前だから目を掛けて頂いていたのだと思ってました」
「……………実際、半人前だっただろ」
「そうですね。リボーンさんの気持ちに気付けないほど…半人前でした」
「………」
苦い思い出だ。
10年程前の話だ。オレは一目惚れで…初恋だった獄寺何かと構おうとした。
だが、獄寺にとってはそれは束縛に感じられたみたいで……
リボーンさん。
オレ…あなたに日本に呼んで頂けて、本当に感謝してます。
あなたのおかげで…10代目に会えたから。
だけど。
その…オレが隣にいてほしいのはあなたでなく10代目なんです。
だから……
―――――オレに、構わないで頂けますか?
獄寺が日本に来て僅か二日目。
慣れない日本で何かと不自由してないかと心配したオレは獄寺を呼んだのだが…そう言われて終わった。
獄寺はオレを見ず、ツナばかり見ていた。
オレはその後もどうにか獄寺と交流を持とうとしたが…あいつは必要最低限の関係は持とうとしなかった……
「………」
「リ、リボーンさん!! 沈まないで下さいすいませんでした本当すいませんでした!!!」
「その…なんだ。すまなかったな…山本を気に入っている振りをして実は山本の上からずっとお前を見てたんだ……」
「いえ、ですから謝るのはオレの方ですから!! てか今更そんな告白しないで大丈夫ですから!!」
「雲雀とか了平とかなぁ…あと女子供とかには懐かれたんだけどお前だけにはどうしても距離を置かれたなぁ…」
「リボーンさん遠くを見ないで下さい! オレを見て下さいって!!」
「…ヴァリアーが来たときとか未来に飛んだときとか、な…本当はオレがお前を世話したかったんだけどな……もしお前に拒否されたらと思うと…っ」
「リボーンさん!!!」
はっと正気に戻ると、獄寺に肩を掴まれていた。いつの間に席を移動したのかオレのすぐ隣に獄寺がいる。
「…もう、リボーンさん……」
「獄寺…」
「変えられない過去をどうこう言うのは止めて下さい…なんだか恥ずかしいし、居た堪れないです…」
「ああ…すまない」
けれど…そんな過去があったからこそ今目の前の現実の有り難味が分かるというものだ。
………てかこれ、もしかして夢じゃねぇだろうな…起きたらそこはまだ10年前で…獄寺はオレに冷たくて……
「ってリボーンさんまたオレを見てないー! 過去を見ず今のオレを見て下さいってばリボーンさん!!!」
はっと正気に返ると、獄寺はオレの腕を掴み進んでいた。食事は既に終わっていたらしい。
「…まぁ、そこまでリボーンさんに想われているのですから、オレもリボーンさんに喜んで頂けるようエスコートしたいと思います」
「エスコートってお前…まるで女に使うような言葉をオレに言うなよ」
「失礼。でも、次のはリボーンさんも気に入って頂けると思うんですよ」
「そうなのか? どこに行くんだ?」
オレが聞くと獄寺はまた満面の笑みで振り向いて。
「ショーを見に行きましょう!」
と言った。
「ショーなら揺れないし回転もしませんし3Dもないし落ちたりもしませんからね!!」
…余計なお世話だ。
しかしなるほど、獄寺が薦めてくるだけあってショーは面白いものだった。
こういうのばかりならいいんだ。うん。
「楽しんで頂けましたか?」
「そうだな。悪くない」
「よかったです。…じゃあリボーンさん!! 次は恐竜に会いに行きましょうか!!」
「恐竜!?」
…いや、落ち着けオレ! 恐竜なんてそんな、現代にいるわけがない! 作り物だ紛い物だそうに決まっている!! 現にさっきのショーの墓の住人たちも人間だったじゃないか!!!
「じゃあはい、リボーンさんこれ着て下さいv」
「…なんだこれ。…レインコート?」
見れば獄寺もレインコートを着ていた。オレに渡されたのは黒。獄寺が着込んでいるのは白。
「濡れるそうですから、カッパを着た方がいいらしいですよ」
濡れるってなんだ!?
不意の単語に思わず慄くと、フラッシュが焚かれた。その正体は獄寺の持ってるデジカメ。
「ああ…やっぱりリボーンさんにはそのレインコートがよく似合います! オレ頑張って探したんですよ!? 褒めて下さい!!」
何で褒めなくちゃいけないんだ…
「リボーンさんのは黒兎イメージのレインコートなんですよ!」
「そうかそうか、オレの為に黒兎のレインコートを………って。待て」
思わずストップし、フードをよく触ってみる。………細長い、変なのを掴んだ。
「!!! じ、自分のうさぎの耳を掴むリボーンさん!! 激写です激写!!!」
「撮るな! つかなんだこの無駄としか思えない耳は! これに一体何の機能美がある!?」
「そんなの外見の可愛さ以外に意味も必要ありません!!!」
こいつ言い切りやがった…!!!
「頑張ってリボーンさんイメージで探してきました」
「オレのイメージはうさぎなのか……」
「うさぎは復活のシンボルなんですよ」
マジか。
「まぁ…そうだな、ありがとうな…」
「いいえ、どういたしまして」
まぁ、獄寺が喜んでいるから………いいか。
しかしここは一体どんな施設なんだ……? 獄寺は恐竜がどうこうって言ってたが…
とか思っていたら順番待ちを退屈させないためかこのアトラクションに付いての説明をしているテレビが飾ってあった。
『この施設では恐竜のDNAからその再生に成功し今では数匹の恐竜がここで住んでいます』
………。
マジか!?
『携帯電話や帽子が食べられないように事前にスタッフに預けて置いて下さいね!!』
帽子!?
「リボーンさんどうしたんですか? 急に帽子を押さえ込んで」
「…なんでもない」
いやだだだ大丈夫大丈夫…大丈夫だオレ…! 本当に恐竜がいたらこんな風に皆落ち着いているわけがない! 仮にいるのだとしても充分躾けられて……
「…あ。リボーンさん聞きましたか? 恐竜が脱走したそうですよ!!」
脱走!?
い、いや大丈夫だ! そんなの嘘だでたらめだ! 獄寺だって落ち着いているからな!!!
「ああ、オレはリボーンさんを信用してますから」
「…あ?」
「オレがどんな危ない目にあっても、リボーンさんならきっと守ってくれますよね!!」
オレ責任重大か!?
つか、え? マジで恐竜…いるのか? いや、嘘………だよな? あああ…なんか、何故だか昔の記憶とか見えるんだが。
…走馬灯か? コレ。
そう…懐かしいな。いつだったか獄寺がオレに時計を…贈ってくれたことがあって…
そのお返しといってはなんなんだが……オレは獄寺に金の十字架をやって…そのときの獄寺といったらもう可愛くてだな……
…まぁそれはそれとして、オレは獄寺に金の十字架をやったんだ。そしてそれと対になる銀のプレートをオレが持っていて…
これはガーディアンプレートネックレスといってだな…お互いがお互いを守れるようにという願掛けを込めた代物で…オレは常に肌身離さず持っていて……
……………。
いつしかオレの手はそのガーディアンプレートネックレスを握り締めていた。
「リボーンさん?」
「来てくれ、オレを助けに来てくれ獄寺…!!!」
「え…えぇ!? リボーンさん!? オレここにいますけど!?」
このオレをここまで危機的状況に追いやったのは他の誰でもないお前なんだが、それでも…いや、だからこそオレを助けてくれ、獄寺…!!!
「獄寺ー!!」
「リボーンさんー!?」
『…えー、お客様にご連絡を致します。ただいま一名様分の空席が御座いますので、先着順にてアトラクションがご利用頂けます……』
「あ、そうなの…? じゃあリボーンさんなんか壊れたし…オレ行って来ようかn」
「待ってくれ! 行かないでくれ獄寺!!!」
「わ、リボーンさん!! 帰ってきて下さったんですね!!」
「行くな獄寺! オレの傍にいてくれ!!」
「はい! お任せ下さいリボーンさん! オレはずっとあなたのお傍にいますよ!!」
本当か…? こいつさっきどこかへ行きかけてたような…
「気のせいです!!」
そうか気のせいか…よかったよかった。
「つか、だ、大丈夫だよな…恐竜なんて本当に…いるわけが……」
「…アルコバレーノに呪いに10年バズーカ。死ぬ気弾に匣に死ぬ気の炎…その他もろもろ容認しといて恐竜再現は完全否定ですか」
う……
そこを突かれると弱いんだが…
つか、オレと恐竜は同格扱いかよ…
………。
…同格のオレがいるということは、まさか本当にいるのか!? 恐竜!?
「あ、リボーンさん船が来ましたよ。さぁ乗りましょう!!」
乗るのか!? マジで!?
「大丈夫ですって! ほらリボーンさん怯えないで! 戦場じゃ無敵のヒットマンが形無しですよ! マジで!!」
最後のが無駄に傷付くわ!!
係員の説明では安全地帯をコースで進んでいくから平気らしい……
まぁ、本当に危険なものをアトラクションにするわけがないよな。冷静に考えて。
オレは無理やりそう思い込んで船に乗り込んだ。
……………。
…なんだ。作り物じゃないか。やっぱりな。
「リボーンさん、何をそんな勝ち誇ったかのような顔をしてるんですか?」
「いや? 別に?」
船は緩やかに決まった順のコースを流れていく。その途中見かけるのは作り物の恐竜たち。ははは。全然怖くない。
と、急に船が波に乗りコースを逸れ………
何故かデンジャーとか何とか書かれている門の方へ………
「お、おい獄寺! 大丈夫なのか!?」
「いざというときは背中を頼みます! リボーンさん!!」
頼むからオレを安心させる努力をしてくれ獄寺!!!
門の先には沈んだ船やら残骸やらが浮いている……
やがて船は波に流され何かの施設のような場所へ。
………ガゴン。
「―――!!!」
思わず、身が固まった。
これは…!
…ガゴン、ガゴン、ガゴン…
「お、おい獄寺!!」
「? どうなされましたかリボーンさん?」
「お前、時速云百キロで移動したり回転したり落ちたりするのはもうないって言ったよな!? これ最初に乗ったのと同じじゃないか!!」
「…とりあえず"落ちない"までは言ってませんが……」
「だ、騙したのかオレを!?」
「そんな、恋人に騙された人みたいな顔をしないで下さいよ……………って、あ…」
…? 獄寺は一体何を見て………
眼前には巨大なティラノザウルスがいた。
「―――――!!!」
オレは思わず懐に仕舞ってあった銃を抜き撃った。乾いた音が鳴り響く!
…が、ティラノザウルスは変わらずそこに立っていた。つか、まぁこれ本物の銃じゃねぇしな! モデルガンだしな! 空砲だしな!!
だからオレは本物の銃を持ってきたかったんだよ! だけど獄寺が「夢の国に銃など無粋です!」と変に力説して…!! 渋々妥協したらこれだ!!
じ、じゃなくてどうするどうすればいいオレ!? このままだと喰われるぞ!?
「リボーンさん!?」
獄寺の驚いた声が聞こえたとき、オレたちの乗った船は急降下して落ちて行った……
そして水飛沫。
「!?」
「………はぁ…楽しかった…最後の恐竜はリアルでしたねリボーンさん!!」
……ああ、そうか……ここまでが全部組み込まれたアトラクション……な。何、分かってた、分かってたさ……
と、そうまとめたいが獄寺が笑いながらこっちを見ている……ああ、もうなんとでも言うがいいさ。
「リボーンさん」
「…なんだ」
「ありがとうございました」
「…あ?」
「最後、身を挺してオレを庇ってくれましたよね」
「! ………い、いや、あれは…なんだ、」
「オレ、嬉しかったです」
「………あ…あっちに土産屋があるぞ獄寺! 寄っていくぞ!!」
「はい」
オレは背を向けていたが、後ろの獄寺の微笑んでいる気配がありありと感じられた……
「じゃあ次はあれです! スクアーロに会いに行きましょう!」
「は…?」
「ジョーズです」
ああ…鮫か。鮫な。
………。
「恐竜よりは怖くありませんよね!」
図らずともオレが思ったことと同じことを言うな獄寺!!
「ほら、リボーンさん行きましょう!!」
獄寺が嬉々としながらオレの手を引っ張っていく…
こいつ…何がそんなに楽しいんだ?
「おー、セット凝ってますね」
「そうだな……」
ああ、イタリアのカプリを思い出すようだ……
…久しいな、本当…
……海辺がオレを呼んでいる…
「あ、リボーンさん見て下さいよあれ。あのマネキンの頭色々有り得ない物が……って、リボーンさん? あれ? リボーンさんどちらに……」
「………」
「って、リボーンさん何一人黄昏てるんですか!? てかそこ一般人立ち入り禁止地区ですー!!」
…オレ、一般人じゃねぇし。泣く子も黙るマフィアで、呪われしアルコバレーノだし…
「リボーンさんそういう問題じゃないです! そこは関係者以外入っちゃ駄目ですー!!」
「…オレ、さ…こう見えて戦場じゃ敵無しなんだぜ…? 数多くの任務をこなしてきたんだぜ…?」
「リボーンさんお話ならオレがあとでいくらでも聞きますから! だからひとまず戻ってきて下さい…!!」
オレ…そりゃ見た目は遊園地が似合う年頃のガキかも知れないが……だけどその実態は…
オレは水面に映る自分の姿を見た。
うさぎのフードを被った子供がそこにいた。
「ああ、リボーンさんが突っ伏した!!」
オレレインコート着っぱなしかよ!!
「ああ、リボーンさんが自分の姿に気付いた!!」
「お前も分かってるなら突っ込めよ!!」
「すいません! うさぎ姿のリボーンさんがあまりにも可愛かったもので、つい!」
つい! じゃねぇ!!
なんかさっきから視線が感じるなと思ったらこれか! 皆オレの馬鹿さ加減を笑っていたのか!!
「殺せ! いっそオレを殺せ獄寺!!」
「はい! 不肖獄寺隼人、愛するリボーンさんの頼みであらば何でも叶えたい心意気ですが残念ながらそれは不可能です! 実力的に!!」
実力が伴えばこいつはオレを殺すのか。
…こいつを前に下手なこと言えねぇな……
「まぁそれはそうと、はいはいリボーンさん列に戻りますよー。いつまでもそっちにいたら周りの迷惑になりますからねー」
獄寺がオレを立たせようとするが、オレはもう脱力してそれも出来なかった。
「あれ…。リボーンさん? …もう、仕方のない人ですね。…失礼します。リボーンさん」
ひょい、と獄寺はオレを抱きかかえた。
オレにはもう抵抗する力も残ってなかった…
ああ、なんかもうどうでもよくなってきた……
「…? リボーンさん? 如何なされましたか? オレの髪なんて触って」
「お前の髪はさらさらで気持ちいいな…」
「リボーンさん!?」
「さらさら〜、さらさら〜」
「リボーンさん、リボーンさん!! …どうしよう、リボーンさんが壊れた…!!」
「ははは、はは…」
「ああ、リボーンさんの目が最早焦点すら合ってません! リボーンさん! どうか正気に返って…!!」
正気? ははは何を言ってるんだ獄寺は。オレは正気だとも。その証拠にどこに何があるのかもちゃんと把握して……
………。
(ビクッ)
「リボーンさん?」
「ちょ、鮫! 鮫がいるぞ獄寺!!」
「え…? あれは剥製ですけど……ってリボーンさんが正気に戻った!? グッジョブ鮫の剥製!!」
グッジョブじゃねー!!
「武器、武器、武器ー!!」
丸腰だと喰われる!!!
「ああ、リボーンさん! セットの斧取ろうとしちゃ駄目です!!」
「硝子が、硝子がオレの邪魔をする!!」
カリッカリカリカリカリッ!!!
「ガラスを引っかくリボーンさん可愛い!! …ああ、レインコート…うさぎよりも猫の方がよかったかも!!」
「本気で悩むな!!」
「それはともかく、リボーンさん大丈夫ですから! 落ち着いて下さい!!」
落ち着けるか!!
「全部仕掛けですから! 作り物ですから! 安全ですから大丈夫です!!」
「本当か!? 本当だろうな!?」
「本当です!!」
「…よし、信じた。信じたからな獄寺!!」
「はい! お任せ下さい!!」
何を任せたのかよく分からないがとにかくお互い変なテンションのままボートに乗り込んだ…
いや、割と最初からお互い変なテンションだったか……
「お、おい獄寺!」
「はい? なんでしょう」
「あの案内役にさっき入った通信! なんか鮫に襲われたとか言ってるぞ!!」
「芝居です!」
「そうか! …って、あっちに船の残骸が浮いてるぞ!!」
「仕込みです!」
「そうか! …って! なんか馬鹿でっかいヒレが! こっちに! ―――獄寺!!」
「大丈夫です! あれは………っ!」
「…獄寺? あれは…?」
「……………うわ、リアルッ」
「獄寺ーーー!!」
信じたのに…信じたのにーーー!!
「あ、すいませんリボーンさん! もちろんあれは…あれは……うわー…見れば見るほどリアルだなー…本物じゃね?」
「お前はオレを怯えさせて楽しいのか!?」
「ちょっと楽しいです! じゃなくて!! えっとあれは………もちろん偽者ですよ? 決まってるじゃナイデスカ」
「目が泳いでるぞ獄寺ー!!」
「すいません! オレに嘘はちょっと厳しかったみたいです!!」
それ逆説的に本当のこと言ったってことだよな!? お前はあの鮫を本物だって思ったってことだよな!? ちょ、武器、武器ーーー!!
「銃さえあれば…鮫の一匹や二匹…!!」
ああ、モデルガン一丁で一体何が出来るっつーんだよ! どうする! どうすればいいオレ!!
「リ、リボーンさん…どうか落ち着いて…」
「お前が落ち着かなせなくさせたんだろうが…!!」
って…獄寺の懐に見えるものはもしかしなくてもチャカ! なんだお前もなんだかんだで持ってきてたのか!!
「獄寺それ寄越せ!!」
「え…? リボーンさんそれは…」
獄寺が何か言ってるが気にせず引き金を引く! …が……飛び出たのは銃弾ではなく…
「火…?」
「それオレのライターですー! 返して下さいリボーンさん! それがないとオレ煙草が吸えませんー!!」
「って、紛らわしいもん持って来てんじゃねー!!!」
オレは銃型ライターの柄で思いっきり獄寺の頭を殴った。
「ぃ…! いった…!! 痛いです痛いリボーンさん…ちょ、マジで痛いこれ……っ!!」
自業自得だ。馬鹿。
…と、ボートの中に水飛沫が飛んできた。それと熱気が。
後ろを見てみれば、一体何があったのか妙にリアルな鮫が血達磨になって沈んでいるところだった……
「やりましたー! とうとう鮫をやっつけましたよー!!」
案内役が嬉しそうにはしゃいでいた…
…案内役、すげー。
「じゃあ次は炎についてのガイダンスに行きましょう!!」
「揺れないか?」
「揺れません」
「回転しないか?」
「回転しません」
「落ちないか?」
「落ちません」
「3Dは?」
「ありません」
「本当か?」
「本当です」
「よしなら行くか…」
「ああ、リボーンさんがすっかり疑心暗鬼に…」
やかましい。
「つか、お前さっき土産屋で何買ってたんだ…?」
「ええ、リボーンさんを必要以上に怖がらせてしまったみたいなので。お詫びの品を…」
必要以上?
今必要以上って言ったかこいつ。
「じゃーん! 帽子です!!」
「…なんか変なのがくっついてるように見えるんだが…」
「ジョーズが喰いついてる帽子ですよー! はい、装着☆」
獄寺がオレのレインコートのフードを取ってオレの帽子を取って新たな帽子を被せた…
「リ、リボーンさんがジョーズに食べられてる!!」
「黙れ」
「伝説のヒットマン、ジョーズに敗れる…! 写真写真!!」
「だから撮るな! あと帽子返せ!!」
「こっちはオレが被ります」
だからお前は笑顔で被るなと…クソ、強く言えないじゃないか…!
「というわけで、次に行きましょうリボーンさん!」
「…もう好きにしたらいい…」
オレは獄寺にずるずると引き摺られて行った……
……………。
「あ、外涼しいー」
「………」
「それにしても勉強になりましたね! …って、リボーンさん?」
「火……」
「ひ?」
「火…怖い、火…ガクガク」
「リボーンさん!?」
「獄寺…ボンゴレに帰ったら全フロア火気物厳禁厳守にしよう。煙草、銃、ダイナマイト禁止。無論死ぬ気の炎もな」
「それオレの存在意義消えなくないですか!? つかそれ賛成するの雲雀と笹川兄ぐらいなもんだと思うんですけど!」
「あと消防車が来たら即行で道を譲ること。これ最優先事項にするからな」
「どれだけ優しいマフィアなんですかオレたちは!」
「獄寺…マフィアっつーもんはな、住民に優しいもんだぜ…」
「いや、そうかもしれませんけど…ああ、リボーンさん! リボーンさんせめて煙草は許して下さいー! ちゃんと火の始末しますからー!!」
珍しく獄寺の方が涙目になっていた。
「ううう、じゃあ、次行きますよ…? リボーンさんが嫌って言っても行きますよ?」
「嫌」
「はいはい、行きますよ?」
「聞けよ!」
「聞きませんー! リボーンさんのバカー!」
なんだこの言われよう。
「次はタイムトラベルです」
「はぁ…?」
「時空移動です」
「流石にそれは作り話だって分かるが……」
「本当ですよ?」
「は…?」
「ボヴィーノがここに10年バズーカを貸し出した結果、この施設は10年バズーカの全てを解析。結果としてタイムマシンを作り出しました」
………。
マジか!?
い、いやまさかそんな…仮にも極秘道具だぞ!? 組織の人間ならまだともかくそう簡単にこんな施設に…!!
「ちなみに貸し出しの理由は資金不足で。でだそうです」
……………。
ヤヴェ…有り得るっ!!
「と、言うわけで行きましょう」
「待て獄寺! まだ心の準備が…!!」
「はいはい、行きますよ?」
「だから聞けよ!!!」
「知りませんリボーンさんなんか。ぐすぐす…リボーンさんなんてタイムトラベルで事故に遭って、そのまま戻ってこなければいいんです!!」
事故ってなんだっ!?
こいつどこまで本気なんだ!?
「おい、ごくで…」
「リボーンさんの馬鹿!!」
頼むから聞く耳ぐらい持ってくれ!!
……………。
「意外と揺れましたねリボーンさん」
「…帰る……」
「ああ! またリボーンさんが元気ない!!」
「帰る………今度こそ何言われても帰る……」
「えー…楽しかったからオレはもう一回乗りt…」
「帰る」
「リボーンさん?」
「どんな仕事だってこなして見せるけど、タイムトラベルだけは勘弁な」
「リボーンさん!? お気を確かに!!」
「とにかく、帰る…オレは帰るぞ、獄寺…」
「…そうですね。もうあらかた乗り終わりましたし夜も深けてきましたし…そろそろ帰りましょうか!」
「え…? 何!? もうそんな時間なのか!?」
「はい! リボーンさん、今日は本当にありがとうございました。楽しかったです!」
「………あ…ああ…このぐらいお安い御用だ。獄寺」
「はい。…あ、でもあと食事だけしてから帰りませんか? オレお腹空いちゃいました」
「そう、だな…」
帰れる…
帰れる。
飯喰ったら、ボンゴレに帰れる…!!!
「もー、リボーンさん嬉しそうな顔しちゃって。そんなにお腹空いてたんですか?」
「違う! が、喰いに行くぞ! 早くしろ獄寺!!」
「はい」
生きてる。
オレは生きてる。
生きるために飯すら食ってる…!
「生きてるって素晴らしいな獄寺!!」
「いきなりどうしたんですかリボーンさん!?」
「ああ…美味いな獄寺。どうしてこんなにもハンバーグと卵は合うんだろうな?」
「だからリボーンさんどうしたんですか!? いや、確かに合うとは思いますけど!!」
「早く帰りたいんだよ! この魔の巣窟から!!」
「魔の巣窟って…遊園地は通称夢の国ですよ? ランボやイーピンなんか毎日来たいって言ってたぐらいです」
馬鹿な!!
あのランボが!? こんなところに!? 毎日!? あいつは生まれついての鉄砲玉か!?
「…ああ、ちなみに10年前からの話です」
マジで!?
命を大切にしろアホ牛! 無理してんじゃねぇ!!
「…そうそう、10年前は身長制限が足りないって言って。ジェットコースターの前で泣いていましたっけ……」
「だからなんであれに皆乗りたがるんだ!?」
「まぁ、いざ身長が足りる頃になったら今度は怖いって泣いてましたけどね」
「そりゃそうだろ当たり前の話だ。はぁ………獄寺飯は食い終わったか? 終わったな? なら帰るぞ」
「あ…ごめんなさいリボーンさん。あと少しだけ待って下さい! 10代目たちにお土産買わないと…」
「土産…か。仕方のない奴だなお前は」
「すいません」
まぁいい。特別に寄ってやる。土産屋は揺れないからな。
「土産を買ったらすぐ帰るからな」
「ええ。大丈夫です」
「そうか…なら行くぞ」
「はい」
獄寺は土産を一人では持ちきれないほど買っていた。
「はぁ…獄寺。少し貸せ。オレも持ってやる」
「ありがとうございます。じゃあリボーンさんはこれとこれを持って下さい…そしてこの人形を小脇に抱えて下さい!!」
何故最後のだけ指定入ってるんだ…
「ああ、リボーンさんがまるで遊園地を死ぬほど堪能して帰る子供みたいなことに…!! 激写激写!!」
「だから撮るなっつってんだろーが!!!」
そんなことがありつつも………今度こそ、本当にオレたちはゲートを後にした。
「さらば夢の国…!!」
「もう二度と来ねー…」
「また来ましょうね!!」
「お前はオレの話を聞け! 二度と来ないっつってんだろうが!!」
「まぁまぁそう言わず…今度はリボーンさんに合わせてショーばかりのプランを作りますから」
(ぴく)
………ショーのみ………か…
ショーは…まぁ、楽しかったな……
「それなら…そうだな、構わないが」
「ええ。お任せ下さい」
そういって微笑む獄寺はやっぱりオレが惚れるだけあって綺麗なものだった。
だが、その日からオレは不思議な悪夢にうなされるのだった…
「リボーン、最近元気ないみたいだけど、どうかしたの?」
「ツナか…いやな、実はここんところ毎日ジョーズに頭から喰われ続ける夢を見るんだが…これどういう意味だと思う?」
「……とりあえずそのジョーズが喰いついてる帽子を脱いだら?」
おお…これは予想外だった。
そして、それから数ヵ月後…
獄寺は本当にショーばかりのプランを作ってきてくれた。
それをまた休日に楽しんで…そして帰る直前に獄寺はやや顔を赤らめながらこう言って来た。
「あの、ですねリボーンさん……実は一つお願いが…」
「お願い? …なんだ。言ってみろ」
「あの、その…最後に、観覧車に乗りたいんですけど……」
「観覧車?」
「ええ。遊園地の締めは観覧車だと聞いて…でも前の遊園地では観覧車がなくて…でもずっと乗りたくて…」
「…別に、構わないぞ」
「本当ですか!?」
「ああ、本当だ」
観覧車は大きく揺れないし回転しないし落ちないからな。
「あ、ありがとうございます!!」
笑顔の獄寺に引っ張られてオレたちは観覧車に乗り込んで。
獄寺は外の景色を見てはしゃいでいた。
そして…それはオレたちの席が真上に来たときに起こった。
………機械が、止まった。
「…? 獄寺。なんだこれは。こういう趣向なのか?」
「え…? いえ、そういう類のものは聞いてませんけど、オレ…」
「何…?」
と、風に煽られてか揺れるゴンドラ。
「お、おい、獄寺…?」
「あー…もしかして」
「も…もしかして? なんだ?」
「今日風が強かったじゃないですか。だからそれの影響で…安全処置として一旦装置止めたんじゃないですかねー」
「………つまりどういうことだ?」
「え……?」
「つまりこの揺れは……仕掛けとか仕込みとかじゃないってことか……?」
「えっと……」
「………」
「………」
ゴォッ!!
「ぎゃー!?」
「リボーンさん!?」
風に煽られてゴンドラが大きく揺れた。
「ご…獄寺! どうにかしろ!!」
「大丈夫ですリボーンさん!!」
「!?」
「………死ぬときは、オレも一緒ですから!!」
「それ全然大丈夫じゃねー!!! ぎゃー死ぬ! 死ぬ! 死ぬ! 死ぬーーー!!!」
「リボーンさん落ち着いてー!?」
その後、オレの絶叫はゴンドラから降りるまで絶えず続いた…
「……ほら、リボーンさん地上ですよー」
「…ガクガクブルブル」
「リボーンさん…あの、いい加減動き辛いんでオレから離れて下さいませんか?」
「………ガタガタクブルブル」
「ああ…リボーンさんがすっかり怯えてらっしゃる…」
「遊園地怖い観覧車怖い怖い…」
「…えっとえっと………な、なんだかんだで結構楽しかったですよね! 過ぎ去ればいい思い出になりましたよね!! また来ましょうね! リボーンさん!!」
「誰が行くかーーー!!!」
―――命が惜しいのならば、遊園地に行くべきではない。
それが…オレの学んだ教訓だった……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
遊園地怖い。ガクガク。
空さまへ捧げさせて頂きます。