突然だが、ボンゴレアジトには中庭がある。


中庭には噴水があり、太陽に煌めき虹を映し出していた。


そんな綺麗な噴水の縁に彼女は、リボーンは腰掛けていた。


その表情は憂いに満ちており、いつもの明るさは影を潜めている。


らしくないリボーン。アジトの中では普段の彼女だが、この噴水広場に来るとどうしても落ち込んでしまう。


そんな彼女に。


「リボーンさん」


獄寺が近付く。


「…どうした」


「それはこっちの台詞です。元気がないようですが…どうかしたんですか?」


「…なんでもない」


「………」


素っ気なく言い放ち、そっぽを向くリボーン。それに対し獄寺は困った顔をする。


「…オレ、ここにいてもいいですか?」


「…好きにしろ」


そっぽを向いたままリボーンは呟く。獄寺はリボーンに立ち去られたらどうしようかと思ったが、リボーンはその場に留まってくれた。


「…こんなところにいて楽しいか?」


「楽しくないですね」


「………」


「リボーンさんが笑ってくれないと、楽しいなんて思えません」


「……………」


言葉を詰まらせるリボーンに、獄寺は優しく問い掛ける。


「………なにか、ありましたか?」


「…つまらないことだ」


リボーンはそっぽをむいたまま、囁くように呟く。


「夢を、見た」


「夢…ですか」


「ああ。…お前が、オレのせいで死ぬ夢だ」


「………」


それは夢。


あくまで、ただの夢。


けれど、実際に起こりうる可能性のある話。


アルコバレーノの呪い。


呪いに焼かれる自分。


駆け寄る獄寺。


すると呪いが獄寺にも手を伸ばして。


獄寺も、呪いに焼かれて―――


「オレもお前もマフィアだ。死ぬことに迷いはない。だが、味方を…お前を殺すことは………」


言葉の最後の方はほとんど声になってなかった。そんなリボーンの身体は震えていた。


「リボーンさん?」


「オレは、オレが…お前を殺すことになるなんて、オレは……」


「リボーンさん!!」


獄寺は慌ててリボーンと向き合う。リボーンは大きな目から大粒の涙をぽろぽろとこぼしていた。


「リボーンさん…」


「見るんじゃねぇ!!」


力なく、リボーンは獄寺を叩く。それを受けて獄寺はリボーンを抱きしめた。


「見えません。これであなたの表情は見えませんよ。リボーンさん」


「う…うぅ……」


獄寺の体温に触れたせいか、獄寺の匂いに包まれたせいかリボーンは堪えきれず嗚咽をこぼす。獄寺はただただリボーンを抱きしめていた。





やがて泣き疲れたのかリボーンは獄寺の胸の中で眠りについた。起きていた時の険しい表情はそこにはなく穏やかな顔付きだった。


獄寺としてもリボーンをこのまま寝かせてやりたかったのだが、無粋な冷たい風が吹いて二人の邪魔をする。


「…リボーンさん。起きて下さい。…自室で休みましょう」


獄寺がそう声掛けるも、リボーンは一向に目覚める気配がない。


「………」


困りに困った獄寺だったが、やがて意を決したかのような顔をして立ち上がる。リボーンをお姫様抱っこして。


「自室に行きますよ。リボーンさん」


獄寺はアジトに入り、道すがらファミリーに冷やかされ…リボーンの寝室に辿り着く。


「失礼します」


ドアを開け、リボーンをベッドに寝かせる。離れようとして、リボーンが獄寺の手をぎゅっと握り締めていることに気付いた。


「…リボーンさん…ほどいてください」


声掛け、手をぶらつかせるもリボーンは目を開けず、手を離さない。


「…リボーンさん…勘弁して下さい」


困ったようにそう言っても、リボーンは相変わらずだ。


「………」


獄寺は空いている片方の手で頭を掻き、ため息を吐いてその場に座り込んだ。尻を床、背をベッドに置く。


「…今日だけですよ。リボーンさん」


そう呟くと、リボーンの獄寺を握り締める手が少しだけ強まったような気がした。


その日。リボーンが悪夢にうなされることはなかった。





次の日。


「獄寺」


「なんでしょうリボーンさん」


「昨日は一緒に寝てくれてありがとうな!!」


「リボーンさん、誤解を招く言い方は控えて頂きたく。9代目に殺されます」


「今日も一緒に寝てくれ!!」


「駄目ですよ」


「でも見ないんだ!!」


「はい?」


「お前と一緒だと悪夢は見なかった! だから暫くオレと寝てくれ!!」


「え…えぇー…」


「それともお前はオレが悪夢にうなされてもいいと言うのか!!」


「いや、それは…」


「どうなんだ獄寺!!」


「…分かりました」


「獄寺!!」


「一人でも悪夢を見ない方法を考えましょう」


「何故だ! お前がオレと一緒に寝ればいいだけの話じゃないか!! お前はそんなにもオレと寝たくないのか!!」


「…ですから大声でそんな言葉叫ばないで下さいリボーンさん……」


「?」





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何も分からない、純粋なあなたが眩しすぎて見られない。