あなたは死ぬ寸前、「キミはこれから自由に生きて」とオレに言いましたね。
オレはそんな言葉、ほしくはないというのに。
- あなたからの「自由」 -
「お前はどうするんだ?」
「…え?」
そうリボーンさんが声を掛けてきたのは、10代目が亡くなられてから暫く経ってから。
10代目を亡きものにした憎きファミリーを根絶やしにし、10代目の葬儀を終わらせたあとだった。
「どう、とは…」
「お前はここに残るのか、それとも去るのかと聞いているんだ」
「………」
10代目の亡き今、ボンゴレは揺れていた。
今まで通りボンゴレに残るもの。去るもの。故郷に帰るもの。
オレはというと、今この瞬間、リボーンさんに問われるまで考えたこともなかった。
10代目の亡き今ボンゴレに執着はない。帰る家もない。
リボーンさんは去るという。元々はフリーのヒットマンだ。むしろ今までよくいてくれたと思う。
オレは今リボーンさんの見送りをしているところで。そこで問われた言葉だった。
「オレは……」
呟くも、それ以上言葉が出てこない。
どうするかなんて、考えられない。
リボーンさんはため息を吐き、帽子を目深く被り直してオレに言った。
「なんなら、オレと来るか?」
「リボーンさん?」
「お前、目を離したらツナの後を追っちまいそうだからな」
これ以上生徒に死なれたらへこむ。とリボーンさんが呟く。
「………」
オレは思わず一歩足を踏み出していた。
「獄寺?」
「…その言葉が冗談でなければ。…着いていっても、いいですか?」
10代目という支えを失って、オレの心は壊れそうだった。
誰でもいいから、縋り付きたかった。
手なんて差し出されたら、掴むしかなかった。
…その手を振り払われたら、オレはきっとリボーンさんの予想通りに10代目の後を追うだろう。
リボーンさんの言ってしまったその未来に、オレは身を差し出すだろう。
だって、10代目のところに行けるだなんて。なんて幸せ。
もう一度10代目と会えるなら、オレは何だってするだろう。
何だって……
「こら」
リボーンさんの声で正気に返る。
見ればリボーンさんに睨みつけられていた。
「今、何を考えていた?」
「いえ…」
「ったく」
呆れた声を出してリボーンさんは背を向ける。オレはそれを見送る。
数歩歩いて、リボーンさんが振り向く。
「来ないのか?」
「え?」
オレは呆けた声を出してしまって、リボーンさんを見返してしまう。
………もしかして。
本当に…着いていって、いいのだろうか。
リボーンさんはそんなオレを見てまたため息を吐いた。
「準備がいるってんなら待っててやるから、早くしろ」
「は、はい!!」
こうして、この日。
オレはリボーンさんと共にボンゴレから旅立った。
それからオレは、リボーンさんに弟子入りした。
10年前は叶わなかった、リボーンさん直々の指導。
あの頃はオレだけリボーンさんに指導されなくて、それが少しだけ不満だったけど。あの頃のオレがこれに耐えられたとは思えない。10代目はよく耐えられたものだ。
激しく、厳しい。少しのミスで罵声が飛び、拳が飛び、銃弾が飛んでくる。
オレはそれに着いていくのに精一杯で。
いつも気を失うように眠ってた。
夢も見ないほど深い眠り。
考える暇もないほど忙しい生活。
もしかしたら、それはあなたなりの気遣いで、優しさだったのかも知れませんね。
あなたが隣にいてくれたときは、息を吐く間もないほどの訓練を受けていたときは。10代目のことを思い出さずに済みましたから。
時間が経つにつれ、いつしかオレはあなたに依存していきました。
まるで10代目の代わりにするように。
だから、きっと罰が当たったんですね。
ある日、起きたらあなたはどこにもいませんでした。
「お前はもう大丈夫だ。自由に生きろ」なんて置き手紙を残して。
要らない。
あなたからの「自由」なんて要らない。
オレが求めるのは、あなたからの「束縛」
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自由なんて言って、オレを突き放さないで。
オレはただ、好きな人の傍にいたいだけなんです。