真っ暗で、何も聞こえなくて、頭の中がぐちゃぐちゃで。
はて、オレは一体、どうなったんだっけか。
- あなたの為に逝くよ -
暗い、何も見えない世界の中。
頭の奥が嫌に痛くて、考えに集中出来ない。
ああ、と、ええと、あーと、何が、一体、どうなって、何で、オレは、ここに……
身体が、動かない。
動かないというか、感覚が薄いというか、
ここは、どこだ。
というか、ここにいる前は、どこにいた?
それすらも、思い出せない。
というか、ああ、もう、考えが、纏まらない。
ああ、もう、落ち着け、落ち着け。
落ち着いて、少しぐらい時間掛けていいから、落ち着いて、一つずつ、考えを纏めて、思い出せ。
獄寺、獄寺隼人。マフィア、ダイナマイト、10代目、右腕、任務、ボンゴレ、車、ファミリー、移動―――リボーンさん。
って、おや。この香りは。
あなたじゃないですか。
おお、少し、少しだけだけど、気持ちが、落ち着いた。
やっぱりこの方は凄いなあ。
あたたかいぬくもりが、ふれる。
この位置は、ここは、ああ、右腕か。お前そんなところにいたのか。
なら、オレは、ああと…
どうやら、横たわっているようだな。
さて、変わらず何も聞こえないが、どういう事だろうか。
この方は寡黙な方だから、恐らく眠っている状態であるオレに何も言わないのは、まあ分かるとしても。
何も、聞こえないのは、おかしい。
この方の足音も聞こえなかったのは、まあ、まだ、納得出来るとしても。
何の生活音も聞こえないのは―――無音なのは、おかしい。
ここがそれだけ閉鎖された空間なのか―――それとも、
オレの、耳が、おかしくなってるだけなのか。
オレの、耳というか………
オレの、身体が、おかしくなっているのか。
この方がオレに触れているという事は、まあ、恐らく―――最後の別れをしているのでなければ―――死んではいないとは、思うのだが。
しかし、それに近い、状況に、陥っているのでは、なかろうか。
………。
困ったことに、なっているな。
オレの身体は、一体、どうなっているのか。
ただ意識が身体に戻ってないだけなのか―――それとも、
身体が―――意識が戻れぬほど―――損傷しているのか。
……………。
可能性としては、そっちの方が、高いな。
職業が職業で、武器が武器だし。
感覚は薄く、身体は動かず、音は聞こえず、声も―――出ない。
声は、出ないのか、それとも聞こえてないだけなのか、口が動かないのか―――器官が壊れているのか。
一体、オレは、どうなっているのか。
頭の奥が、痛い。
痛みを強く感じるのは、この人がどこかに行ったからだろうか。
…一人になって、しまった。
やはりオレは、オレの身体は、死んでいて、まさか今今生の別れでもされたのだろうか。
…このまま火葬されたらどうしようなあ。
などとは思ったが、いつまで経ってもそれはされず。
代わりに、長い、時間の後―――
おや、この香りは。
また、来て下さったのですか。
と、いう事は、やはりオレは任務か何かで怪我を負い、意識が戻れぬ身体になったのか。
考えやすくなったのは、痛みが、和らいだからだ。
それは誰かが来てくれたからなのか、それともあなたが来てくれたからなのか。
そういえば、あなたの他に、誰も来ないというのも、おかしな気が。
ううむ…
考える間に、また痛みがオレを襲う。
あなたが、いなくなった。
考えに、集中出来ない……
…………………。
しかし長い時を過ぎる間に、オレはこの状態に次第に慣れていった。
視覚と聴覚―――耳がいいのは自慢だったのに!―――そして感覚の大半を失った代わりに、気配に敏感になった。
…こういう場合、残った臭覚が発達しそうだが―――恐らくはある程度発達したのだろうが―――気配察知の方が過敏になったようだ。あと味覚は、分らん。喰わされているのかどうかすら分からん。もういいやなくて。
最初は、誰かが来ても匂いが分かる場所まで来てくれないと分からなかったのに。
今は、この部屋に―――ここが室内であると仮定してだが―――入ったところから、もう分かるようになった。
まさかあなたを気配だけで察知出来るようになろうとは…ある意味感動ですよ。
そして、あなた以外にも沢山の人間が出入りしていたことが分かった。
知ってる気配も、知らない気配も沢山。
恐らく知ってる気配は見舞客で、知らない気配は医師や看護師だろう。
ということは、ここは医療施設か。
オレはやはり任務か何か―――はたまた暗殺でもされかけたか―――で怪我を負い、ここに運び込まれ、治療を受けている、と。
その治療の成果があってか、オレに多少の変化があった。
手の、右手の、感覚が少しだけ戻り―――そういえばあなたに触れられたと分かったのも右手だった―――少しだけ、動かせるようになった。
といっても、何かを握れるほどじゃない。本当に、多少、動かせるだけだ。
あなたが行こうとしたとき、その手を少しだけ握ったら、あなたが動揺したのを覚えている。
…まさかあなたが動揺するとは…是非ともその顔を見たかった。
どうやらオレは回復する見込みはほとんどなかったようだ。手が動かせるようになってから、人の出入り―――主に医師たちの方―――が頻繁になった。
そして、その甲斐あってか、オレの身体も少しずつ回復していった。………気がする。
しかし。
代わりに、
………疲れてきてるな。
オレではなく、周りが。
その声が聞こえずとも、その姿が見えなくても、気配だけで分かる。
日に日に、周りの疲労が蓄積されていってるのが分かる。
まるで周りの力を、オレが吸い取っているようだ。
その割には、オレの回復は、随分と遅いが。
…やれやれ。
困ったものだ。
さてはて、どうしたものか。
正直言えば、言っていいのなら、生きたいが。
回復出来るのなら、回復したいが。
その代償は、必要以上に、大きいようで。
その代償を周りに、この人に払わせてまで、生きたいのかと聞かれたら、問われたら、
オレは―――――
…………………………。
オレは、身体を動かすのを、やめる。
自分の、意識を、閉じる。
周りが、また、慌ただしくなる。
あなたの、気配も、感じる。
けれど、オレは、動かさない。
今の、今まで、周りがしてくれた事に対する、裏切りになるけれど。
でも、まあ、つらいんで。
頭の奥、痛いし。
あなたを、あなた方を、疲れさせるのも、忍びないし。
でも、まあ、仕方ないですよ。
オレの状態も、大体、分りましたし。
こんな身体で眼が醒めても―――なんて。
そう、思わせて下さいよ。
そうして、諦めさせて下さいよ。
そうやって、納得させて下さいよ。
オレに、理由を、下さいよ。
言い訳の一つぐらい、持たせて下さいよ。
あなたの為に、逝かせて下さいよ。
こんな、無理やり生かされている状態で、逝くのは、かなり厳しそうですが。
まあ、見てて下さい。
オレ、きちんと、やって見せますから。
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だから、ですから、出来たら、褒めて下さい……なんて。嘘ですよ、嘘。