炸裂音がして、彼の胸元に赤い花弁が咲いた。
それが、最初の風景。
過ちは過去か現在か
弾け、流れる赤い熱。
それは彼の服を汚して。床に堕ちて。それでもなお止まる気配を見せない。
目の前の光景に、オレは息を呑みこんだ。
彼を撃ったのは、オレの家庭教師で。
彼の…獄寺くんの恋人で。
それを見て、オレの中の時計が動き出してくれた。
「ちょ…リボーン……! なにして」
言葉を遮って、更に銃声。
乾いた音と、獄寺くんの額に血飛沫が走ったのは、同時だった。
「一瞬の隙に何かしらアクションを起こさないでどうする。そのままむざむざやられてお前はどうするんだ?」
完璧なとどめ。しかし向けられた言葉は反省を促せるもので…
ということは…つまり。
「…すいませんリボーンさん」
うわ。獄寺くん血塗れで立ち上がったし。
シュールすぎるだろこの光景。
「反応が遅すぎるぞ獄寺。そんな腕でよく今まで前戦に立っていられたな」
「…面目ないです」
しゅんと項垂れる獄寺くん。その頭から。胸元から。変わらず赤いモノがだらだらだらだらだらだらと。
「ていうか、獄寺くん手当てとかしないで大丈夫なの!?」
「はい?」
と。今のオレの声でようやくオレに気付いてくれたのか獄寺くんの眼がオレを捕らえた。
「あ。10代目! お恥ずかしいところをお見せしてしまいまして…」
「いやだから…それどころじゃなくて…!」
「赤いのは血糊だぞ」
淡々と紡ぎ出された言葉に固まったのはオレ。
「…血糊?」
「血糊。なんだお前。オレが獄寺を殺すとでも思ったのか?」
思った。
なんて口が裂けても言えないし、心を読ませるわけにもいかないけど。
「…まぁいい。まぁ確かに最近の血糊はリアルに出来てるしな。本物と見分けが付かないぞ」
…技術班も変な所に力を発揮しているようで。しかし…本当に本物そっくりだ。
思わずまじまじと獄寺くんを見てしまう。あ。獄寺くんがちょっと照れた。
「つーか獄寺。今もまだ訓練中だ。余所見厳禁。よって減点」
パンと。またも破裂音。
放たれた弾丸は、獄寺くんの両足へ。
赤いモノが、また弾けて。飛んだ。
―――ああ、本当。本物の血とそっくりだ。
まるで見分けが付かない。
オレがそう思ったら。
獄寺くんが倒れた。
「いやぁ、びっくりですね。ペイント弾に本物が混じっていたなんて」
「ああ。そうだな」
恋人同士が晴れた日の道を歩いている。…正確には歩いているのはひとりだが。
「でも撃たれたのが足で助かりました。…いえ、でもこうしてリボーンさんの手を煩わせていますしオレも足手纏いになってしまったのですから逆に助かっていません?」
「そうかもな」
黒衣の少年が銀の青年を車椅子に乗せて、押していた。
「あちゃー…オレみんなの迷惑になるのなんて考えられないんですけど。どうでしょうリボーンさん。ここは一つオレを殺して下さっては」
「めんどくせーからお断りだぞ」
白の青年の足には、恋人に撃たれて出来た傷を隠すように白の包帯が巻かれていた。
「ええー。いいじゃないですか。リボーンさんなら簡単にオレを殺せるでしょう? それにオレ…その、死ぬなら好きな人の手でって夢見てるんですから」
「夢は夢のままで終わらせとけ」
ほんのり頬を染めながら物騒なことを言い放つ獄寺に、リボーンはあくまでも淡々と繰り返す。
「ちえー…っ」
「………」
残念そうに口を尖らせる獄寺。リボーンの表情は変わらない。
「…でも、リボーンさん」
「なんだ」
軽く問い掛けられる言葉に、無表情に返事を返すリボーン。
「実弾が混じってるって、気付いていましたよね」
「当然だぞ」
笑いながら問い掛けられる言葉に、やっぱり無表情で返事を返すリボーン。
「それでも撃ったのって。何でですか?」
「お前、撃ってほしかったんだろう?」
即答で返ってきた言葉に、獄寺は一瞬言葉を失って…
「―――だからリボーンさんってだいすきです!!」
すぐに、満面の笑みで言葉を返した。
「ペイント弾と実弾を取り替えたのもお前だな。最初から分かってたぞ」
「嗚呼…やっぱりです。オレの読みは当たってました。リボーンさんならきっと全部全部分かってくれるって信じてました!」
「そうか。期待に応えられたようでなによりだ」
「うーん、オレとしてはペイント弾の当たった所を実弾で撃ってほしかったんですけど」
確実に即死ルートだった。
「でも仕方ありませんよね」
獄寺はなんでもないように答える。
「リボーンさんはオレのこと嫌いですから」
にっこりと微笑んで、獄寺は恋人の想いを否定する。
「オレが本当に望むことまでは…意地悪でしては下さいませんよね」
分かってますと言わんばかりに静かに微笑む獄寺。一方リボーンは何も言わない。否定も肯定もしない。
しかし彼の名誉の為に言っておくとするならば、獄寺の言い分は外れもはずれ、大外れだ。
リボーンは獄寺の事を愛している。
ただ、その事を獄寺が信じてくれないだけで。
恋人というポジションに立っているのにも関わらず今でも…そう信じて。疑ってない。
どうやらその理由の一つが、その昔。リボーンが獄寺に冷たく当たっているたのに起因しているらしくて。
実はそれは本命である獄寺にだけつい素直になれなくて。真逆の対応をしてしまっていただけなのだが獄寺には通じてなかった。
「―――ね。リボーンさん」
獄寺は遥か遠くを見ながら、真後ろにいるリボーンに囁きかける。
「オレ、あなたが好きです」
ほんのり頬を赤く染めながらの告白。けれどリボーンの無表情は解かれることを知らない。
…次に言われることはもう、分かっているから。
「ね。だからリボーンさん。後生ですから」
獄寺がくるりと振り向いて。リボーンと向き合う。
「最後の時は、ちゃんとオレを殺して下さいね?」
そういう獄寺の瞳は。
「そうして下さったらオレは―――幸せですから」
既に…焦点が合ってなかった。
リボーンはため息を一つ吐いて。獄寺の目蓋の上に自分の手の平を乗せてその目を隠した。
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さてはて、どうする?