獄寺が歩いていると、ふらふらと目の前を通り過ぎる影一つ。


リボーンだ。


その足取り、顔色一つ取ってどう見ても具合が悪そうだ。


「だ、大丈夫ですか? リボーンさん」


「ああ…」


そう言われるも声からは覇気が感じられない。


その姿は完全に病人のそれであった。


「気にすんな…ただのアルコ風邪だ」


「あ…アルコ風邪?」


聞きなれぬ単語に思わず聞き返す獄寺。


リボーンに聞いた事を纏めるとこうだ。



・アルコ風邪とはアルコバレーノのみがかかる病気である。

・病気といっても命に関わるものではない。

・症状は風邪と酷似している。

・アルコ風邪を避ける手段はなく、かかった場合は自己治癒で治すしかない。

・アルコ風邪に効く薬はなく、看病も意味をなさない。

・アルコ風邪かかるのは10年に一度である。



「…以上だ」


「…でしたら…横になられていた方が……」


リボーンは何か物言いたげに獄寺を見つめていたが、やがて。


「……………そうだな」


根負けしたようにつぶやいた。


「前回は軽かったから甘く見ていた…今日は…休むか……」


「そうして下さい。なんでしたら看病しますよ」


「さっき言っただろ…看病は意味がない…」


そう言われてもこんなに弱っているリボーンを放って置けるだろうか。いいや、置けまい。


「ですが…せめて、部屋まで送らせて下さい。そういえば熱はあるんですか?」


言って獄寺はリボーンの額に手をやる。少しだけ熱い。微熱だ。


「…熱はそんなにないようですね」


「お前が思ってる程重くはない」


そう言われてもあのリボーンが病気であるなどとその字面だけで肝が冷える。たとえ死なぬ病だとしても。


一人で戻ろうとし、しかしやはりふらつくリボーンを結局獄寺が支えながら帰った。





「―――悪かったな」


部屋に戻り、ベッドに入ったリボーンはうわごとのように呟いた。


「いえ、そんな…それより何か欲しいのありますか? 持ってきますよ、オレ」


言われて、暫しリボーンは重巡していたがやがて観念したかのように水を、と一言。


獄寺は頷く代わりに微笑んだ。リボーンに頼られるような、そんな日がまさか自分に訪れるとは。


早速行動を起こそうとする獄寺だが、しかし不意に動きを止める。


―――袖を、リボーンが握っていた。


「リボーンさん…?」


「獄寺……お前に一つ、言っておくことがある」


リボーンは身体を起こし、獄寺を見つめる。


「―――いつも、お前を見ていた」


「え…」


「お前が一人で修行して、傷だらけになって、でも上手くいかなくて、悩んでいることも、知ってた」


「………」


「まったく…少しは頼ってくれても良かったのに」


「それは…」


獄寺の顔が熱くなる。それは気恥ずかしさからか、自分の秘密がばれていたからか。


リボーンの手が、獄寺の頭に乗る。


「だが…まあ、頑張ったな」


「…っ!?」


獄寺の心を戸惑いが占める。


褒められた、認められたことに対する戸惑い。


何故だか、涙が出てしまった戸惑い。


「りぼ…」


声を出すが、リボーンは既に寝入っていた。


「………、」


冗談、とは思えなかった。


そのような声色でも態度でもなかった。


つまり本気で…本当にそう思って……そう言ったということで…


そう認識すると同時、獄寺の心が満たされたような、一気に傷が癒えたかのような、そんな心地よさを覚えた。


そしてまた、新たな涙が流れる。


見られてた、知られてた、分かられてた。


そして、認められた。


それだけだ。ただ、それだけ。


たったそれだけなのに、涙が止まらない。


もういい年した大人なのに。


子供の頃だって、こんなに泣いたことはない。


今日はまだ始まったばかりで、やることが沢山ある。


でも、今はまだ。


今だけは、落ち着くまでは、この場で、ただ泣かせて欲しかった。





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リボーンが言い忘れた歩こ風邪の症状。

・眠る寸前、思い浮かべた人物に最期の一言を伝えてしまう。(言った本人の記憶は残らない)