獄寺は廃墟の中で身を潜めていた。
冷や汗を流し、息を殺す。
ポケットをまさぐり、辺りを見渡し武器の確認。
ダイナマイト、手榴弾、煙幕、ナイフ。それから…
意識を少し回りに向けたところで、横に大きく跳ぶ。
直後、その場に銃弾の嵐が暴風雨のように殴り撃たれた。
物陰に隠れ、すぐに距離を取る。ダイナマイトを取り出し、火を点け、投げた。
爆発音が鳴り響き、爆風が吹き荒れる。コンクリートの欠片や硝子の破片が飛び散る。
それらを背に受けながら、獄寺は走る。ダイナマイトで吹き飛んでくれるほど『敵』は甘くない。
その証拠に煙の向こうから銃声が聞こえ、その弾はこちらに正確に飛んでくる。
銃弾が頬を掠める。脇腹を、髪を、腕を、足を掠めていく。
獄寺はダイナマイトをもう一つ取り出し、投げる。
しかしすぐに導火線を撃たれて無駄に終わる。『敵』に同じ手は通用しない。
ならばと獄寺はその場に煙幕を撒き散らす。獄寺を中心に煙が放たれ視界が一色に染まる。
獄寺はがむしゃらに走り、逃げ、『敵』と距離を取る。
ひとまず、前方の広間に出て―――
そう考える獄寺。
しかし獄寺は足を止める。
すると獄寺の一歩前。すぐ横の壁にナイフが突き刺さった。
横目でちらりと見れば、『敵』が煙幕から逃れナイフを投げた手とは逆の手で今まさに銃を撃とうとしていた。
獄寺は考えるよりも前にナイフを投げた。『敵』の銃口にナイフが入る。
そのまま撃ってくれたら楽だったのだが生憎そうはならなかった。
『敵』はあっさりと銃を捨て、また新しい銃を取り出す。
『敵』は獄寺が行動を移すよりも前に引き金を引く。
『敵』の思った通りに銃弾が目標物を貫き期待通りの効果をあげる。
銃弾は天井を抉り瓦礫は地面に崩れ落ち獄寺に降り注ぐ。
すぐに獄寺が瓦礫から這い出てくる。額を割ったのか、頭からは血が出ていた。
そんな獄寺に銃口が押し付けられる。
ピタリと動きを止める獄寺。
獄寺は顔を俯かせていて、『敵』からその表情は伺えない。
それをいいことに、獄寺はにやりと笑う。
直後に『敵』の背後が爆発した。
獄寺は『敵』と対峙したとき、迷うことなく煙幕を使って廃墟の中に逃げ出した。
廃墟の中で獄寺はトラップを作り仕掛けた。
それは目くらましであったり、地雷であったり。
…時間差で爆発する、時限爆弾だったり。
獄寺と『敵』との実力差は明らかだった。真っ向勝負でかなう相手では到底なかった。
だから獄寺は『敵』に勝つために隙を作らねばならなかった。そのためのトラップだった。
獄寺は『敵』の実力を計り、『敵』の強さを知り、『敵』の行動を予測した。
そうして、『敵』を罠に掛けて見せた。
そのときに生じた隙を見逃さず、獄寺は『敵』の喉元にナイフを突きつけた。
しかし同時に、頭に銃口を押さえつけられる。
一触即発。
獄寺の頬を緊張の汗が流れる。
そんな獄寺を前に、いつ死んでもおかしくない状況で、『敵』は飄々とした口調で言った。
「…まあ、ぎりぎり及第点だな」
「…オレ、結構命張って頑張ったんですけどね…」
額から血をだらだら流しながら獄寺。
「トラップを作るのが遅いし、動作も遅い。同じ手を使うな。常に相手の意表を突け」
「す、すみません…」
未だ銃とナイフを突き付けあいながら『敵』は、『リボーン』は反省会を行う。
今回のこの戦闘は訓練だった。殺す気でいくから、殺すつもりで掛かってこいと告げられた。その結果だった。
とりあえず獄寺は本当に殺されずに済んでよかったと心底安堵していた。リボーンはやると言ったら本当にやる。
とはいえ、結構本気で掛かったというのに難なくかわされ、更には駄目出しされて内心でかなりへこむ獄寺。
「まぁ、それでも思ったよりは動いていたがな」
呟くように吐かれた声は確かに獄寺の耳に入り、え。それもしかしてオレ褒められましたか。と少しだけ心を躍らせる。
そう思ったことは決して顔には出していなかったはずだが、リボーンは拳銃でコツコツと獄寺の額を叩く。
「調子に乗るなよ」
「はい…」
リボーンが獄寺から拳銃を外したことで獄寺もようやくナイフを仕舞う。緊張のあまりに身体が硬直していたようで、ナイフを指から引き剥がすのに苦労していた。
立ち上がり、服を叩いて埃を払う。
獄寺は割れた額から流れる血を袖で拭っている。血は止まることなくどんどん溢れ出てくる。
これ、もしかして少し危なくないか? と獄寺がやや危機感を持ったところで獄寺の視界が白く染まった。タオルのような布を投げられたのだと分かった。
獄寺の血を吸って一部が赤く染まったタオルを顔からはがせば「先に行くぞ」という声が聞こえ、リボーンが獄寺を通り過ぎた。
獄寺は乱暴に傷口を拭うと慌ててリボーンの後を追った。
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待ってください、リボーンさん!
リクエスト「cp無でも可。緊迫とした戦闘シーンお願いします!」
リクエストありがとうございました。