獄寺は走っていた。


青空の下、炎天下の中。大地を真っ直ぐに走っていた。


両手にはダイナマイト。火を点けては投げていく。


囲まれている。


遠くから、近くから。銃で撃たれる。地面を転がる。


頬を、こめかみを、腕を銃弾が掠る。ダイナマイトを投げる。爆発音が響く。吹き飛んだ腕が降ってくる。


息を落ち着かせる暇もなく、獄寺はまた走り出す。止まっていては絶好の標的になる。


敵は増援でもされているのか屠っても屠っても次々と沸いてくる。獄寺の眉間に皺が寄る。


いっそのこと自爆でもしてやろうか。なんて思う。敵ごとこの辺り一体を吹き飛ばしてやろうか。そんなことを思いながらダイナマイトを投げる。


爆発音と銃声が鳴り響く。獄寺は走る。


額を撃たれる。だが浅い。しかし血が流れ片目に入った。視界が狭くなる。


その一瞬の隙を突かれたのだろうか。


一際大きな銃声が響くと同時、獄寺の身体がつんのめった。


横腹が熱い。


痛みが走る。


撃たれたのだ。


獄寺は舌打ちをし、また走り出す。ダイナマイトを取り出す。火を点ける。投げる。


岩陰を見つけるが、隠れてなどいられない。今立ち止まったら最後、二度と動けなくなるだろう。


獄寺はひたすら走り続けた。


そして。


だんだん、身体が思うように動かなくなってきた。


ダイナマイトを持つ指先が震える。


身体が冷える。


頭がうまく働かない。


血を流しすぎた。


息が荒くなる。


呼吸が整えられない。


不味いな、と獄寺は嫌な汗を流す。敵の数は大分減ったが、それは獄寺の血と体力も同じである。


やっぱり自爆するか? と本気で考える。ダイナマイトの量もかなり減っているが、ここにいる全員を吹き飛ばすぐらいはあるだろう。


獄寺がそう思った、そのとき。


銃声が、響いた。


撃たれたか? と獄寺は思わず身を強ばらせるが、痛みはない。衝撃も。


誰か倒れる音。そちらを見れば岩陰から男が一人、血を流しながら倒れているのが見えた。


振り返る。


そこには黒衣に身を包んだ長身の男。


リボーンが立っていた。


それからは、リボーンの一人舞台だった。


最初に撃った男を皮切りに、次々と敵を倒していく。


まるで踊るように、舞うように敵を撃っていくリボーン。


獄寺はその様子を見ながら、ゆっくりと倒れた。


暫くして、辺りは静かになった。


獄寺の耳に誰かが歩いてくる音が響く。誰か。当然リボーンだ。


「酷い有様だな」


頭上から声が降ってくる。何故だか酷く、頭に響いた。


「ええ…よく、ここが分かりましたね」


獄寺も何とか声を返す。すぐ近くにいるはずのリボーンの姿が霞んで見える。


「血だ」


リボーンは短く言葉を返す。どうやら獄寺の流した血が地面に滴り、道標になったらしい。…リボーンにとっても敵にとっても。


リボーンがしゃがみ、獄寺の服に手を伸ばす。白かったシャツは血でべっとりと赤く汚れていた。リボーンは包帯を取り出す。


「…リボーンさん。オレ、もう、助からないと思うのですが」


「んなことは分かってる」


だがそういう問題じゃない。とリボーンは言う。


どうしたらお前が楽になるか。それが問題なんだ。とリボーンは言う。


止血され、傷口を塞がれると確かに少し楽になった。この人は手当てが上手い。


けれど、それもすぐに無駄に終わる。


寒い。


血を失いすぎて、体温が下がっている。


空はこんなにも晴れているのに、暑いはずなのに、汗ひとつ掻かない。掻けない。


死が近付いて来る。


けど、すぐ近くにリボーンがいる。いてくれてる。


看取ってくれる人がいる。幸福なことだ。


「…リボーンさん」


「ん?」


名前を呼べば、聞き返す声。その声の、なんと優しいこと。


太陽の日差しの眩しさに目を細めながら、獄寺は一言放つ。


「さようなら」


「ああ、じゃあな」


まるで「また明日」なんて言うような口振りに獄寺は思わず笑った。


笑ったまま、獄寺は死んだ。





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そして彼の物語は終わった。


リクエスト「死にネタ」
リクエストありがとうございました。