朝。


鳥の囀りを目覚まし代わりに、獄寺は目覚める。


ふっと香るは愛しい人の匂い。大好きな人の匂い。リボーンの匂い。


それもそのはずで、獄寺とリボーンは一緒に寝ている。しかも獄寺はリボーンに抱きしめられていた。


ふと上を見上げると穏やかな笑みをこぼしながら獄寺を見ているリボーンがいた。


「起きたか」


「はい…おはようございます、リボーンさん」


「ああ、おはよう」


寝惚け眼である獄寺とは対照的に、リボーンははっきりと起きていた。


「…いつから起きてたんですか?」


「今目覚めたばかりだ」


「嘘ばっかり」


「本当だ」


言いながら、笑いながら。リボーンは獄寺の額にキスを贈る。獄寺はくすぐったそうにしながらもそれを受け取る。


リボーンのキスが終わると、今度は獄寺からリボーンにキスをする。


唇に軽いキス。これで二人の朝が始まる。





朝食を軽く済ませ、まったりとした時間が流れる。


ソファに座り、本を読むリボーンに背後から忍び寄る影一つ。


洗い物を済ませた獄寺だ。


獄寺はリボーンの背中から抱きつく。


「リボーンさん」


「なんだ?」


「…呼んでみただけです」


「なんだそれ」


呆れた声を出しながらも、リボーンの口元には笑みがある。本に栞を挟み、閉じ、置く。片手を獄寺の手に重ね、もう片手を獄寺の頭に置いて撫でた。


「ふふ…」


欲しいもの、望むものが与えられて獄寺は思わず笑みをこぼした。


「…ねえ、リボーンさん」


リボーンの頬に頬を寄せながら獄寺は言う。


「なんだ?」


「お昼を食べたら、出掛けませんか?」


「…ああ、いいぞ」


「嬉しいです」


獄寺はにこやかに笑った。





昼食のナポリタンを食べ終え、二人は街へと繰り出す。


「で、どこに行くんだ?」


「花屋です」


「花屋?」


「はい」


繁華街に向いながら、獄寺は答える。


「沢田さん、志望校に受かったんですよね。お祝いに」


「いらんいらん」


リボーンは即答するが獄寺は聞いてない。ちなみに沢田とは家庭教師をしているリボーンの教え子の一人である。


「すごく頑張っていたじゃないですか。お祝いしてあげましょうよ。あ…それとも花よりもお菓子とかの方がいいでしょうか?」


「だからいらんと…まぁ、単純な奴だから何やっても喜ぶだろうよ」


「リボーンさんの意見も聞かせてくださいよ。やっぱり男性視点で見てもらった方がいいのが選べると思いますし…それにオレよりもリボーンさんの方が沢田さんのこと詳しいですし」


「…分かった分かった。オレも選んでやる。でもあいつはお前が選んだ奴の方が喜ぶと思うぞ」


「そうなんですか?」


「ああ」


リボーンの言葉にきょとんとした表情を浮かべる獄寺。実は話題に上っている沢田氏は獄寺氏の大ファンだったりする。リボーンに超ジェラシーだったりする。


「まあ、いい。さっさと行って用事を済ませるぞ」


「はい」


という訳で二人は街中の花屋に行き沢田への贈り物を選ぶ。


リボーンは文字通り速攻花を選んで獄寺に渡す。獄寺は花選びに長考し、悩んでいる。


「適当でいいって」


「いえ、そんなわけには…」


花をじっと見ながら獄寺は言う。リボーンは少しつまらない。


「どれで悩んでいるんだ?」


「ええ、この花とこの花なんですけど…」


「よし、二つとも買っちまえ」


獄寺が悩んでいた花をとって押し付ける。獄寺はなるほどと納得し会計に向かった。


「お待たせしました」


「ああ」


「リボーンさんのおかげでいい買い物が出来ました。ありがとうございました」


「そりゃよかった」


「…で、これはオレからリボーンさんにです」


と、獄寺は二輪の花をリボーンの胸ポケットに咲かす。


…先ほど、獄寺がどちらにしようか悩んでいた花だった。


「いつもありがとうございますリボーンさん」


「あ…ああ…」


予想外の出来事に面食らったリボーンだったが、すぐに持ち直して。


「ありがとうな」


と獄寺に礼を言った。





「ではリボーンさん、早速その花束を沢田さんに届けてください」


「お前は?」


「オレは夕食の買出しをしてきます!」


「なるほど」


リボーンはあっさりと納得して面倒と思いながらも素直に沢田の家まで向かった。


沢田は獄寺からの差し入れだと聞くとそれはそれは喜んだ。





そして夜。


夕食のシチューを食べ終え、再びまったりとした時間が流れる。ちなみにリボーンに贈られた花は花瓶に活けられている。


「獄寺」


「はい? なんですかリボーンさん」


リボーンは獄寺を呼ぶと、懐から小さな箱を取り出した。


「ほら。これやる」


「え?」


突然のプレゼントに獄寺は面食らう。


「花、くれたろ。その礼だ」


「え? え? オレ、そんなつもりじゃ…」


「オレの気持ちだ。受け取ってくれ」


「………はい」


リボーンに強く言われば受け取る他ない。獄寺は箱を両手で受け取る。


「…開けていいですか?」


「ああ」


獄寺が包みを開けると、出てきたのはシルバーリング。ひっそりとシルバーアクセサリーを収集するのが趣味の獄寺にとって、嬉しい贈り物だった。


「わ…ありがとうございます、リボーンさん!」


「ああ…それはいいんだが、獄寺」


「はい?」


贈り物の嬉しさににぱっと笑い、早速リングを身に付けている獄寺とは対照的に真剣な表情をしているリボーン。釣られて獄寺の顔も真剣なものになる。


「な…なんでしょう」


「お前…大丈夫か?」


「はい?」


きょとんとした顔を作る獄寺に対し、あくまでリボーンは真剣だ。言葉を続ける。


「食事は残すし足取りも覚束無い。お前、具合が悪いんじゃないのか?」


「ああ…少し熱があるみたいで…でも平気ですよ」


「お前の平気は信用できん。明日病院に行ってこい」


「でも…」


獄寺はなおも渋るが、


「獄寺」


リボーンの気迫に言葉を失った。リボーンは獄寺のつむじをぐりぐりと押しながら、


「 い い か ら 行 っ て こ い 」


と言い放った。流石の獄寺も素直に頷く。


「は…はい」


「分かればいい。ちゃんと見てもらってこいよ」


「はい。分かりました、リボーンさん」


「なら、大事をとって今日は早めに寝るぞ」


「はい」


そうして二人は眠りについた。ひとつの布団に二つの枕。大きなベッドに二つの身体。二人は抱き合って眠る。





そして次の日。の夜。


「リボーンさんお帰りなさい」


「ああ。病院には行ってきたか?」


「はい」


仕事から帰ってきたリボーンを獄寺は出迎える。鞄を受け取る。


「どうだった?」


「………あの、ですね」


「?」


どこか歯切れの悪い獄寺。リボーンは疑問符を浮かべる。


「…一つ。報告があります」


「なんだ?」


まさか重い病気にでも掛かったのだろうか、とリボーンは心配する。しかし目の前にいる獄寺は顔が少し赤いだけでいつもと変わらないようにも見える。


「………ました」


「なに?」


獄寺の声が小さくてよく聞こえなかった。もう一度言うよう促す。


「あ………」


「あ?」


「赤ちゃんが…出来た、そうです…!!」


「―――」


あまりのことにリボーンは一瞬言葉を失い、


「わ…」


次の瞬間には、思わず獄寺を力いっぱい抱きしめていた。





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よくやった!!


リクエスト「幸せ夫婦なリボ獄」
リクエストありがとうございました。