「獄寺!!」



バン! と扉を蹴破る勢いでリボーンさんが部屋に入ってきた。


そしてそのままダッシュしてきてオレに抱き付いてきた。



「だいじょうぶかぁああああああああああああ!!!」


「り、リボーンさん!?」


「獄寺死ぬな!! お前が死んだらオレも死ぬ!!」


「いやいやいやいや!! 落ち着いてくださいリボーンさん!!」



ああ…またリボーンさんが何か誤解している。



「何が誤解だ!! そんな怪我をして帰ってきて!!」


「いや、まぁ怪我はしましたけど…」



そりゃあ任務のあとなのだから怪我の一つや二つをする時だってあるだろう。


というか、無傷の時があるわけないというか。



「こんなのかすり傷ですよ」


「本当か!?」


「ええ…まぁ」



まぁ全治二週間とシャマルは言っていたが。


オレにとってはかすり傷だ。うん。



「………」



ビシッ!!



リボーンさんが無言でオレの傷口を突いた。


………痛い。


オレは思わず蹲ってしまった。



「この程度で痛がって何がかすり傷だ!!」



いや、多分今のは無傷で突かれてもそこそこダメージがあったと思いますよリボーンさん。


と突っ込もうと思ったが、リボーンさんの瞳に大粒の涙が溜まっていたのを見て…言葉を失ってしまった。



「…すいませんリボーンさん。ご心配をお掛けしました」


「分かればいい…獄寺。あまり無茶をしないでくれ」


「はい…」


「お前は弱いんだから、あまりでしゃばるんじゃないぞ」


「……………」



…今のはちょっと…ぐっさりと来ましたよリボーンさん……


いえ、まぁ確かにリボーンさんよりも弱いですけどね。オレは…


しかし自分より一回りも年下の女の子に言われるのはちょっと……



「どうした?」


「なんでもないです……」



しかし今の状態でここまでショックを受けられるとは…


実は明日また別件の任務に出るとは言えない雰囲気だ…



「暫く安静にしとけよお前!! 明日の任務なんて言語道断だ!!



即行でばれてた。


さすがリボーンさん情報が早い…じゃなくて。



「いや…でももう決まっていることですし」


「決まっているからって死地に向かって命を落とすのは馬鹿のすることだ!!」



オレが死ぬのは決定事項なんだろうか。


いや、オレだって抵抗…というか、一応死なない努力はするつもりなんですが……



「 分 か っ た な 獄 寺 」


「…はい」



ドスを効かせられ、睨みつけられてそう言われたと思ったら気付いたらオレは頷いていた。


…オレ弱ぇ……


しかしオレの返答に満足したのか、リボーンさんはようやく笑顔を見せてくれた。



「それならいいんだ。そうだ獄寺、腹減ってないか? 林檎を持ってきたぞ」


「あ…ありがとうございます」



リボーンさんは懐からナイフを取り出し、林檎の皮を剥き出した。


踊るようにリボーンさんの指先で舞う林檎。


…意外に料理とか上手なんだよなぁリボーンさん……



「ん? どうした獄寺。オレの可憐な姿に欲情でもしたか?」


「しませんよ!!!」


「なんだつまらん」



つまらんって…リボーンさん…


リボーンさんは結構本気で残念そうにため息を吐いて、オレに林檎を差し出した。(ちなみに林檎うさぎだった)


暫くすると、リボーンさんは任務に行かなければならないと言って席を立った。



「獄寺…すぐに戻ってくるからな。寂しくなったらいつでも電話していいからな!!


「しませんからね」



リボーンさんが立ち去ったのを見送り、念のため数分待ってからオレは10代目に電話を掛けた。



「獄寺です。明日の任務の件ですが……出ますので。ええ。ええ―――大丈夫です。はい。…あ、リボーンさんにはこの件は内密に…ええ、……では」



ピッと電話を切る。





…すみません、リボーンさん。


オレは弱いかも知れませんけど、それでもオレはボンゴレのファミリーで、10代目の右腕ですから。


一度任された任務には行きますよ。


リボーンさんを裏切ることになってしまうことに罪悪感を感じながら、オレは体力を回復させる為眠りに付いた。







ふと、目を覚ますと既に真夜中だった。


身を起こす…と、すぐ傍にあたたかな温もり。


そっと見れば、そこにはいつ来たのかリボーンさんの姿があった。


来て下さったのなら起こしてくれればよかったのに…いつも遠慮知らずなのに変なところで奥ゆかしいというかなんというか。


………。


明日の任務に出るのなら、朝まで待っていたら確実にリボーンさんに捕まってしまう。


出るなら…今か。


今なら見つかっても…まぁ、トイレとか言えば誤魔化せるだろうし。


オレはリボーンさんを起こさないようにそっとベッドから抜け出し、(そしてリボーンさんにそっと毛布を被せ、)病室から出た。


身体は多少軋むものの、我慢出来ないほどではない。大丈夫だ。


身体の動きを確かめつつ自室でスーツに着替える。


気配も足音も消し、アジトから出ようと玄関に移動する―――――と。





「こんな時間にどこに行くつもりだ? 獄寺」


「…………………………」





玄関には…何故かリボーンさんが、とてもとても冷たい目をして、待ち構えていた。



「……リボーンさん…一体いつ…」


「いつ気付いたか、か? 無論最初からだ。お前が出て行って嫌な予感がしたから、ここで待ってた」


「………」



相変わらず…この人には隙がない……というか。



「予感的中、か。…全然嬉くねぇな。おい獄寺。お前オレがここにいなかったら、どこに行ってたんだ?」


「それは…」


「予定通り任務に出ていたのか? 万全でもねぇくせに。お前は死にたいのか?」


「死ぬなんて、決まったわけじゃ……」


「ほお…」



リボーンさんの目が細まる。そして歩いてオレの方に向かってくる。オレは逃げることすら出来ない。


リボーンさんはオレの腕を掴み、そのまま突き進む。…行き先は病室だろうか。



「り、リボーンさん、離して下さい」


「オレの手も引き剥がせないようで任務に出れるか、馬鹿」



こちらを見向きもせずに、リボーンさん。


…怒ってる……完全に怒ってるリボーンさん……



「まったく…お前は言ったら分かってくれる奴だと信じてたんだけどな…」



リボーンさんのぼやきが聞こえる。


リボーンさんの手はオレの腕をしっかりと握り締め…その力は少しずつ強くなっていた。


痛い…が、それを訴えられるような立場でもない。


あっという間にオレは病室に逆戻りさせられ、ついでにベッドの上に投げ飛ばされた。


更にそれだけに留まらず、何故かリボーンさんに圧し掛かられた。


り…リボーン、さん…?



「あの…?」


「聞き分けのない悪い子には…お仕置きが必要だ。お前もそう思うだろう? 獄寺」


「いや、その…」



リボーンさんが笑う。


リボーンさんがオレの身体を見て…ふと右腕に目を留めた。


…何故だろう。嫌な予感がする。


リボーンさんは笑ったまま、オレの右腕に手を伸ばした。


そして、折った。



「ぃ……っ………」


「…声を出してもいいんだぞ獄寺。それぐらいの自由は与えてやる。オレは優しいからな」



リボーンさんが笑っているが、オレは痛みでそれどころではない。


やばい…リボーンさんが切れた……



「ああ…駄目だな。腕を折ったんじゃあまたお前は任務に行こうとするか。やっぱりここは足を折らねーとな」


「やめ…」



思わずそんな声を出してしまうが、リボーンさんは聞いてくれない。


腕から足まで一直線に指先を這わせ、右足に手を掛ける。



「いい声で鳴いてくれよ獄寺? 我慢しないでいい。……オレが聞きたいんだ。分かったな?」


「いっ……あ……」



身体の内側から鈍い音が聞こえた。痛い。


息が荒くなり、額には脂汗が溜まっている。だがリボーンさんは気にも留めない。



「…鳴いちゃくれねーか。そうだよな。お前はオレのお願いなんか聞いちゃくれねーよな。オレが行くなと言ったのに任務に行こうとするし」



リボーンさんが左足に手を掛ける。


痛みが身体を走る中、リボーンさんの手が触れたところだけが嫌に冷たく感じた。



「お前は片足が動いても行きそうだな? …両足とも折ったら、諦めてくれるか?」


「あぐ…っ」



リボーンさんの細い腕のどこにそこまでの力があるのだろうか。オレの骨があっという間に三本折れた。


唯一自由の利く左手が痛みを和らげようとあちこちを動き回る。


だが、その左手もリボーンさんに掴まれた。



「…こいつだけ動けて、仲間外れだな?」


「リボーン、さん…」


「仲間外れは可哀相だ。…お前もそう思うだろう? 獄寺」


「や……」



涙で視界が滲んでも、リボーンさんが笑っているのが分かる。


オレ…もしかしてこのままリボーンさんに殺されるんだろうか? などと思いながら、左腕に激痛を感じながら。オレの意識は沈んだ。







「獄寺、獄寺!!」



…誰かの声が聞こえる……


リボーン、さん…?


目を開けると、思った通りリボーンさんがいた。


…何故か涙声で、泣きながら。



「ああ…よかった獄寺、目が覚めて…!!」


「リボーンさん…」



何故リボーンさんは泣いているのだろう。


疑問に思いながら身を起こそうと腕に力を掛けると、そこから激痛がした。



「………!?」


「馬鹿! お前両腕足折れてんだぞ!!」



両、腕足…?


見ればオレの両腕と両足にギプスがはめられていた。


…一体何故に…


と、オレの脳裏に映像が流れた。


笑うリボーンさん。


オレの腕に、足に指を這わせて―――…


……………。


…思い出した…!!



「り、リボーンさん!?」


「なんだ!? 犯人でも思い出したか!?」


「…は、犯人…?」


「そうだ! お前をこんな目に遭わせた犯人だ!!」


「………」


「まったく、一体どこのどいつだオレの獄寺をこんな酷い目に遭わせたのは!! 見つけたらただじゃおかねぇ!!」


「……………」



リボーンさん…もしかして……覚えてらっしゃらない?



「どうした獄寺」


「いえ、その…あの、オレを見つけたのは…」


「オレだ…オレが起きたら既にお前は…うう、オレはお前が酷い目に遭わされているってのに暢気に寝てて!! オレは、オレはああああああああああ!!!


「り、リボーンさん落ち着いてください…」



………。


どうやらリボーンさんは…覚えてないようだ。


……………。


美しい誤解はそのままにしておいた方がいい。と有名な魔女も言ってるしな。


この事は…オレが墓穴まで持って行こう……



「お前が完治するまでオレが世話するからな!! またお前を狙う奴が来たらぶっ殺してやる!!」


「あはははははははは…ありがとうございます……」





絶対にばれないようにしなければ…とオレは乾いた笑いを零した。


教訓。リボーンさんは絶対に怒らせてはいけない。





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怒らせたらこうなるから。


リクエスト「リボーンちゃん」+「エロ風味」
リクエストありがとうございました。