「………どうした?」
オレの声に、リボーンさんが怪訝な声を返してくる。
「オレ、そっちのポケットの中に行きたいです」
「そっち?」
オレが指さす先。
リボーンさんの、シャツの胸ポケット。
「………ここか?」
リボーンさんの言葉にオレはこくこくと頷く。
「…まぁ、構わんが」
リボーンさんはオレを胸ポケットに仕舞った。
おお、視界が全然違う。
「いい景色ですね」
「そうか?」
はしゃぐオレに、リボーンさんが苦笑する。
「元気だな」
「今まで寝ていたので」
「そうだった」
「ねえリボーンさん。お話しましょうよ」
「お話?」
「ええ。今日…ではなく、昨日は朝しかお話してませんから。オレはリボーンさんとお話がしたくてたまらないんですよ」
「そうか」
「あ、でも…リボーンさんはお疲れですよね。すみません、オレ…」
「いや、別に構わないさ」
リボーンさんの優しい声色にくすぐられる。オレは嬉しくなる。
それからオレたちは、様々な話をした。
それは他愛のない話。何でもない話。
幸せな時間、掛け替えのない時間が緩やかに流れていた。
ああ―――もうすぐ5時だ。
目覚まし機能は今日も無駄に終わりそうだ。一体いつになったらオレはリボーンさんを起こせるのだろう。
などと考えていると、
空気が、変わった。
身が切れるほど鋭く。息が凍るほど冷たく。
リボーンさんの雰囲気も変わる。あの、仕事の時の雰囲気だ。
「リボーンさん…」
「黙ってろ」
短く放たれる言葉。
その、声の鋭さに、冷たさに。身体が切り刻まれそう。
気付けば辺りに感じる、僅かな気配。そいつらから刺すような視線を感じる。
まるで異世界に迷い込んだ気分。先程までの時間が嘘のよう。
リボーンさんが身を低くして走り出す。同時に大きな乾いた音がして、リボーンさんがいた場所を小さく抉った。
リボーンさんもいつの間にか黒い何かを手にしていた。それから目にも止まらぬ速さで何かが発射される。
誰かの悲鳴。消える気配。
何かが倒れる音。地面を伝い、流れてくる赤い液体。
破裂音。倒れる音。破裂音。抉れる音。破裂音。血の臭い。破裂音破裂音破裂音―――
どれほどの、時間が経ったのか。
気付けば、何も聞こえなくなっていた。
オレはやっとの思いで息を吐き、強ばる身体の力を解いた。
ぎこちない身体をなんとか動かし、リボーンさんを見上げる。
リボーンさんは、悲しそうな目でオレを見ていた。
「…驚いたか?」
自嘲気味の笑みを浮かべながら、リボーンさんはそう言う。
「―――――…」
オレは口を開く。
けれど言葉を作るよりも前に、リボーンさんは視線を変えてオレを手で覆った。
辺りが真っ暗になる。
どこからか、乾いた音が聞こえた。
身体に衝撃が走る。
熱い液体が身体を覆う。
あ………?
なん…だ……?
ポケットの中に、オレの身体が散らばっている。
辺りは真っ赤で、ポケットには穴が空いていた。
ええと、ええと…ああ、そうか。
あの、乾いた音に、オレは抉られたんだ。
リボーンさんは守ろうとしてくれたけど、音はリボーンさんの手を貫いて、オレの身体を破壊したんだ。
「獄寺!」
リボーンさんが、呼んでいる。
「―――……」
声を出したいけれど、声が出ない。
言わなければ。
言わなければ、いけないのに。
先ほどのリボーンさんの問い。
自嘲する笑みを浮かべて、驚いたかと呟いた、その声に。
笑みを浮かべて、リボーンさんの目を見て。
驚きはしましたけれど、大丈夫ですって。
仕事中のリボーンさんも、素敵ですって。
オレはどんなあなたでも、大好きですって。
言いたいのに、言いたいのに。言わなきゃいけないのに、言いたいのに。
言葉がどうしても出てくれない。
時刻が午前5時になる。
それと同時に、オレの機能は完全停止して。
オレの時間は、刻むことをやめた。
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寝たくないけど、眠ります。
おやすみなさい、リボーンさん。