獄寺が目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。
「………?」
まったく見覚えのない場所に、獄寺は少し戸惑う。
はて。ここは一体どこだろうか。目を覚ます前までの記憶がどうにも曖昧でうまく思い出せない。
と、
「目が覚めたようだね」
「?」
ふと、声を掛けられた。声に心当たりは…あるようなないような。
現れた影はかなり小さかった。子供…というよりは赤ん坊。その姿は獄寺の教師を思い出させる。だが声がまるで違う。
獄寺は頭を高速回転させて現れた人物を探る。どこかで一瞬会ったことがあるような。…そうだ、あいつだ。確か名前は…
「…ヴェルデ…だったか」
「覚えてくれていたとはな。そういう奴は嫌いじゃない」
緑の髪に白衣。眼鏡。それとワニ。現れたのはアルコバレーノの一人、ヴェルデだった。
「ここはどこだ? どうしてオレはここにいる?」
「ここはマーモンの隠れアジトの一つだ。キミはスカルに拉致られてここにいる」
言われて獄寺は混乱する。マーモン。スカル。どちらもアルコバレーノの名だ。
何故三人ものアルコバレーノがこうも地味に生きてる自分に関わってくるというのか。
というか、拉致…?
「…どういうことだ」
「キミは我々に利用される為にここにいる、ということだ」
「利用…?」
どうにも理解に苦しむ。利用? 何に。自分が一体何の役に立つというのだ。
「そうとも。我らが憎きリボーンをぎゃふんと言わせるためにキミという存在がどうしても必要だったのだ」
「………」
獄寺は思った。今日日ぎゃふんはないだろう、と。
突っ込むべきか、そのままにしておくべきか悩んだが結局何も言い出せなかった。
「リボーンめ…今日こそぎゃふんと言わせてやる…!!」
やめて! ぎゃふんやめて!! 二回も言わないで!!
獄寺は内心で悶えた。
「…って、オレなんかとっ捕まえてもリボーンさんは特に何にも思わないと思うんだが…」
「私の計算に間違いはない。リボーンの身辺の人間を調べた結果、引っ捕まえて最も効果のある人物は…獄寺隼人。キミだ」
びしっと獄寺に指を差し格好付けるヴェルデ。
しかしそう言われてもやはり獄寺には納得出来ない。自分で言うのもなんだが、自分はリボーンにさほど愛着を持たれているとは思わないのだ。
「獄寺は目を覚ましたのか? コラ」
と、唐突に現れたのはコロネロだ。その後ろには風と、更にはユニまでいる。アルコバレーノ大集合だった。
「コロネロ…? まさかお前もヴェルデの計画に参加しているのか?」
コロネロはそういうタイプに見えなかったので獄寺は少し意外だった。しかしコロネロは首を横に振る。
「いや、オレは傍観者だ。面白そうだったからな」
「私もです。面白そうなので」
「同じく。面白そうだから」
ニコニコ笑顔で答える三人を見て獄寺は思った。
リボーンさん、人望がねぇ…!!
まさかアルコバレーノ全員に見限られるとは。獄寺は少しリボーンに同情した。余計なお世話だろうが。
「それで…オレをどうするつもりだ」
利用、というからには何かしらされるのだろう。嫌な予感が獄寺を駆ける。
「ふむ…ぶっちゃけキミにはここにいてくれるだけで目的の大半を果たしているのだがね。だがどうしてもというのならこの薬品の実験体にでもなってもらうか…」
と、ヴェルデは懐から緑色の怪しげな液体の入ったビンを取り出す。それはどことなくポイズンクッキングを彷彿とさせ獄寺は顔色を悪くさせる。
絶対に飲みたくねぇーあれ。
獄寺は口元を抑えながらそう思った。
どうにか話題を変えようと、獄寺は思考を巡らせる。
「…って、なんでそんなにリボーンさんを憎んでいるんだ?」
「ふん…知れたこと」
言いつつヴェルデは薬品を懐に仕舞う。獄寺は思惑が上手くいって内心でガッツポーズを作る。
「奴は…私よりモテるのだ!!」
「…はぁ?」
予想だにしない回答に獄寺は思わず言葉を返す。だがヴェルデには聞こえてないようだ。
「いつ思い出しても腹の立つ…!! いつも私は奴の引き立て役、奴さえいなければ私が一番モテるというのに…!!」
馬鹿だ。馬鹿がいる。
獄寺は表情を変えずそう思った。出来れば指差しながら発言したかったが我慢した。
「同志スカルも同じ理由だ」
うわあ。
「同志マーモンは貸した金を踏み倒されたからだそうだ」
それはリボーンさんが悪い。
獄寺は少しマーモン側についた。
ともあれ、と獄寺は気持ちを切り替える。
ともあれ、こんな下らない理由で束縛されては堪らない。どうにか逃げ出さなければ。
とはいえ、立ち塞がるはあのアルコバレーノ。傍観者三人、非力な科学者一人とはいえ一筋縄でいくとは思えない。
手持ちのボムで足りるかなあ。力押しでいけるかなあ。煙幕あったかなあ。獄寺はぐるぐると思考を巡らせる。
と、
ちゅどーん、と爆発音が聞こえた。
「!?」
「来たか…」
「え?」
来たって何が? 誰が? 獄寺は混乱する。
いや、この状況で誰が来るって一人いるけど。どうにもそうとは思えない。
いや、だって。あの人が自分のために。なんて。
ないない。ありえない。起こり得ないよそんなこと。
と、扉が大きく開け放たれた。
そこから現れたのは、リボーンだった。
うわあおマジかよ。
獄寺は目を疑った。
本当に来たよリボーンさん。うわあありえねー。
リボーンは室内を見渡し、獄寺に視線を向ける。そして。
「…獄寺」
と、かなりドスを聞かせた声を獄寺に浴びせた。獄寺は思わず背筋をぴっと伸ばす。
「な、なんでしょうかリボーンさん!!」
「てめぇ…三丁目のケーキ屋の限定モンブランはどうした」
「………はい?」
三丁目の限定モンブラン。獄寺は胸の内で反復するが心当たりはまったくない。
「…すいませんリボーンさん。オレここに来る前の記憶が曖昧で…なんのことだかさっぱりです」
「なに?」
リボーンがギロリと眼光を光らせる。獄寺は身を縮こませる。
「お前が今日のおやつに限定モンブランを買って来るっつっから待ってたのに全然こねーから探しに来てやったんだろうが」
なんと。獄寺は驚愕した。慌てて当たりを見渡すもモンブランの姿は見えない。
ヴェルデの姿を見ればヴェルデはどこか満足そうにほくそ笑んでいた。
「…ざまぁ」
まさかリボーンさんをぎゃふんと言わせるって、これだけなのか!?
獄寺は更に驚愕した。
「てか、お前甘いものには興味はないんじゃなかったのか、コラ」
「あそこのモンブランは別だ」
コロネロの茶々に、リボーンは即答する。
どうやら三丁目の限定モンブランはリボーンの余程のお気に入りらしい。それを買い忘れた自分…やばい。獄寺は独りごちる。
「ヴェルデ…てめーなんつーことを…!!」
獄寺は思わずヴェルデの首を絞めた。
「ぐお…!! ま、待て…!! ギブギブ!!」
結論。ヴェルデはアルコバレーノでも普通に弱かった。
「まったく…お前は自分で言った買い物も満足に出来んのか」
「す…すいません……」
「楽しみにしていたというのに」
「すいません…」
「まったく…」
「………」
あれから。
リボーンは(傍観者三人を含む)アルコバレーノをしばき倒し、ついでにマーモンの隠れアジトも壊滅して獄寺と外に出た。獄寺は更にマーモンに同情した。
そして、それでもなお腹の虫が収まらないのかリボーンはプリプリと怒り獄寺に文句を浴びせている。獄寺は謝るしかない。
「本当すいません…あの、明日買ってきます…」
「…ああ。今度こそ頼んだぞ」
「は、はい…!!」
ようやくお許しらしきものを貰い、獄寺はほっと息を吐く。明日買おう。なにがなんでも買おう。そうしないと殺される。
「…まぁ、お前に言っても始まらんか。悪いのはヴェルデたちだ。今度会ったら100回ぐらい殴っておこう」
それやったら死ぬんじゃなかろうか。と獄寺は半ば本気で考えた。
それからは二人は沈黙したが、それは別に意心地の悪いものというわけでもなく自然に受け入れられた。
それから獄寺はリボーンを肩に乗せたまま帰路へと急いだのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
明日こそは限定モンブラン買ってきます!!
リクエスト「ギャグ系ほのぼのでハーレムな感じが個人的に好きです」
リクエストありがとうございました。