「ちゃおっス獄寺。どこに行くんだ?」
「ああリボーンさん。ええ、今から街に」
ある日の昼下がり。
リボーンは廊下で獄寺を見掛け、ご機嫌に話し掛けた。
「街か…オレも行っていいか?」
「え? ええ…構いませんけど…リボーンさんも何か買い物ですか?」
「いや」
「? では一体…」
獄寺の問い掛けにリボーンはよくぞ問い掛けてくれた! と言わんばかりに胸を張って答えた。
「獄寺とデートがしたいからに決まっているだろ!!」
「………えっと、オレの買い物時間が掛かるし、待たせるし、つまらないかと思いますので一人で行きますね。それでは」
獄寺はそう言うとそそくさと立ち去ってしまった。
リボーンはそんな獄寺を見送り、
「…ふ。そんなに照れることもないのにな…獄寺」
といつも通り超プラス思考な言葉を放った。
「…あら。リボーン、隼人は?」
「ちゃおっスビアンキ。獄寺なら街に出掛けたぞ」
リボーンの言葉に、ビアンキは少し顔を曇らせる。
「あら。…困ったわね」
「どうかしたのか?」
「大したことじゃないわ。隼人ってば傘を忘れて行っちゃったのよ…天気予報ではこれから雨だって言っていたのに…」
リボーンは窓の外を見る。快晴だった。獄寺が傘を置いていったのも無理はない。
それはそうと、このままでは獄寺は雨に打たれてしまう。
風邪を引いてしまうかもしれない。
それはいけない。
うむ。とリボーンはひとり頷いた。
「ビアンキ」
「なに? リボーン」
リボーンは満面の笑顔で、
「オレが傘を届けに行くぞ」
と言い放った。
ビアンキから傘を受け取り、リボーンはいざ街へと出掛ける。
さて、獄寺は一体どこに行ったのだろうか。出来れば雨が降る前に合流したいものだ。
まぁ、問題ないだろう。リボーンは根拠のない自信に満ち溢れていた。
さぁ、獄寺を探しに行こう。
リボーンは歩きだした。
数時間後。獄寺サイド。
「あー…雨か……」
買い物を済ませた獄寺は店を出て、降ってくる水滴に顔をしかめた。
出掛けるときはあんなに晴れていたのに…油断した。
どうしたものかと獄寺はため息を吐いた。何故なら買ったものがダイナマイトだからだ。
…湿気らせてはなんの意味もない。しかし雨が降やむ気配はない。
待つか。誰か呼ぶか。走るか…
考えを巡らせていると遠くから見慣れた影が見えた。
リボーンだった。
「獄寺ーーー!!」
「リ、リボーンさん?」
「探したぞ獄寺!!」
遠くからリボーンがダッシュしながらやってくる。その顔はもちろん満面の笑みだ。
「リボーンさん、どうなされたんですか?」
「お前に傘を持ってきた」
ほれ、と差し出された黒い傘に獄寺はその場にへたり込みそうになった。
あのリボーンに。傘を持ってこさせるなどと。なんて畏れ多い。
「す…すみません、リボーンさん…助かりました……」
「ああ、いいんだ。オレがやりたくてやったことだからな」
「ですが…って、リボーンさん少し濡れてるじゃないですか!!」
「ん? ああ、そういだな」
「そうだなじゃないですよ! 傘があるんだから差せばよかったのに!!」
「それもそうだな。雨が降ってきて早くお前に会わないとやベーって思って…走り回ってたら傘差すことも忘れてた」
「リボーンさん…」
相変わらずリボーンは猪のように一直線だった。
「まぁ、なんにしろだ。受け取れ獄寺」
「…はい。ありがとうございます」
獄寺はリボーンから傘を受け取り、開く。
「ん?」
「ん? じゃなくて、入って下さい」
「いいのか?」
「いいに決まってますよ!! 何言ってるんですか!!」
自分だけ傘を差しリボーンを、年下の女の子を雨の外に出すなんてそんなことしたらみんなに殺される。何より自分が許せない。
「相合傘だな」
「………いきなり何を言い出すんですか、あなたは…」
「そう照れんじゃねぇ」
「照れてません!!」
「まぁいいじゃねぇか」
「リボーンさん!!」
ずんずんと進んでいくリボーンのあとを獄寺は追う。
「リボーンさん、あまり離れると濡れてしまいます」
「おっとすまない。…こうだな」
「って、今度はくっつきすぎです!!」
「いや、これぐらいしないと濡れちまう。それじゃあ意味がねーだろ?」
「ですが…」
上機嫌に答えるリボーンに獄寺はぐぬぬと呻き声をあげる。
「それにしても獄寺が店を出る前に見つけられてよかった。ギリギリセーフだったな」
「…よくオレがあの店にいるって分かりましたね…」
「色んな奴に聞きまくってきたからな。そうだ、お前を探す途中にナンパもされたぞ?」
「ナンパ!?」
聞捨てならぬ単語に思わず獄寺は反応する。するとリボーンはしてやったりな顔を作ってみせる。
「嫉妬するか?」
「しませんけど…その、どう断ったんですか?」
「聞きたいか?」
「無理には聞きません」
「まぁそう言うな」
リボーンは物凄く言いたくて仕方がないらしい。
獄寺はなんだか嫌な予感がした。
「オレには獄寺隼人っていう超格好良くて渋くて優しい恋人がいるから駄目だ!! と言ったな」
「ぐあああああああっ」
獄寺は悶絶した。
予想通りだった。
「リボーンさん、嘘はいけませんよ…」
「嘘なんて付いてねーぞ。仮に嘘だったとしても、オレは将来本当にしてみせる自信がある」
きっぱりと言い放たれてしまい、獄寺は言葉を失う。
それでもなんとか言葉を探して、
「…お手柔らかにお願いします」
「ああ、任せろ」
獄寺にぴったりと寄り添いながら、やはり自信満々に答えるリボーン。
「雨の日も悪くないな。少し好きになった」
「オレは一気に嫌いになりました…」
「つれないな。だがそんなところも好きだぞ」
またもきっぱりとそう言われ、獄寺はまたも言葉を失った。
ああ、この人には天地がひっくり返っても勝てやしない。
獄寺は人知れずため息を吐いた。
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いつか折れそうで怖い。