ハヤトはアイドルです。
そしてママです。
可愛い可愛い子供たち。そして愛する旦那さま。ハヤトは今日も幸せです。
だけれど………。
「ぁう、ううう…リボーンさん…」
最近、ハヤトはちょっぴり淋しそうです。
ハヤトの気持ち
というのも、実はハヤトの愛しの旦那さまことリボーンさんが現在仕事で海外まで飛んでいるのでした。
旦那さまと会えない日々が何日も続いて。ハヤトの心は限界寸前です。
もちろん、ハヤトだってアイドル歴○○年です。ていうか三児の母です。しかもその内子供一人は結婚すらしました。
それでもハヤトの外見は変わりませんが中身も………不思議なことに変わりませんがそれでもハヤトは頑張りました。
ファンの応援もありました。子供たちも支えてくれました。雲雀やツナも気を遣ってくれます。時折ですがリボーンさんと電話のやり取りだってありました。
それで暫く持ち堪え、頑張っていたハヤトですが…それでも無理でした。
ある日の朝。ハヤトを起こしに部屋へと向かった雲雀ですが…部屋の中には毛布のお化けがいるだけでした。
毛布のお化けっていうか。厳密に言えば毛布を被ったハヤトでした。
「………ハヤト。何してるの…?」
「う…ううううぅいいぃいううう…きゅーきゅー!!」
「ハヤト…せめて人間の言葉話そうよ」
雲雀の言い分はもっともでしたが、ハヤトは聞きません。ていうか雲雀の言葉が届いているのかも怪しいです。
ハヤトは暫くリボーンさんと会えなくなるとこのようにストライキをしてくるのでした。寂しさと切なさと会いたい想いで仕事どころではなくなるのです。
「ううう…リボーンさん…リボーンさん、リボーンさんリボーンさんリボーンさんー!!!」
ハヤトは毛布の中でじたばた暴れてます。それだけなのにどこか癒し効果があるのは流石はハヤトだとしか言いようがありません。
しかし…いくらハヤトが駄々を捏ねようともそのリボーンさんは遠い海の向こう側です。
「きゅー…ううう、リボーンさん…」
こうなるとハヤトはもう動きません動けません。幸いにもその日は…というか、ハヤトが申請してオフだったので雲雀は部屋をあとにしたのでした。
結局その日はハヤトは泣いて過ごしました。子供たちが心配して様子を見に来ますがそれでもハヤトはしょんぼりしてました。雲雀が持ってきた食事にも手を付けてません。
ハヤトは一日中えぐえぐきゅーきゅー泣いていました。そして日も沈む頃泣き疲れて眠ってしまいました。
「…リボーンさん…」
夢の中で会っているのでしょうか。ハヤトは愛しの旦那さまの名前を呟き…そして目を開きました。乾ききってない涙がハヤトの頬を伝います。
…今日。この日は。どうしても…ハヤトはリボーンさんと過ごしたかったのです。
だから少し無理を言ってオフを今日貰ったのに…この日の為に、この日をお休みにするために頑張って仕事をこなしたというのに。
「………リボーン、さん…」
だって、この日は…今日という日は…
と、ハヤトが何かに気付いたかのように顔を上げます。そして急いで玄関へと足を運びます。
急に部屋から飛び出たハヤトに雲雀びっくりです。子供たちもびっくりです。今日は朝からハヤトは何も食べてないので多少ふらついていましたがそれでも走ります。
ハヤトは迷わず扉を開けると飛び込みました。そこに誰もいなかったら冷たい床に激突する所だったでしょう。
けれど扉の向こうには誰かがいて…突然出てきたハヤトに驚く事なく優しく抱きとめてくれました。その人こそ…
「リボーンさん! お帰りなさい!!!」
「ああ…戻ったぞ。ハヤト」
リボーンさんでした。ハヤトの旦那さまであり、子供たちのパパ。一家の大黒柱のリボーンさんです。
リボーンさんは飛び込んできたハヤトを抱きしめたまま我が家へと入ってきます。雲雀と子供たちが出迎えてくれました。
「あれ、お帰り。聞いてた帰国よりも随分と早いじゃない。…っていうかかなりお疲れみたいだけど」
「ツナの奴がな…いきなり仕事をキャンセルさせてしかもヘリを用意してて戻ってこいと言ってきやがってな。…おかげで予定が狂いっぱなしだ」
どうやらストライキを繰り出すハヤトにツナが暗躍したっぽいでした。リボーンさん災難です。けれど胸の中で幸せそうに寄り添ってくるハヤトを見てどうして文句を言うこと出来ましょう。
「…まぁ…お疲れ。ご飯にする? お風呂にする? それとも…」
雲雀。素で言ってのける辺り流石ですが、その台詞はハヤトのものです。
「………寝る」
素で反応を反す辺りリボーンさんも流石です。子供たちの頭を撫でながらリボーンさんは寝室へと足を運びました。
リボーンさんはハヤトを抱いたままベッドに崩れ落ちました。スーツを脱ぐ間も帽子を取る間もありません。
スーツを脱がせなければ皺になってしまいますがハヤトにそれが出来るだけの力はありません。
雲雀は子供たちの世話をしながらそのことが気になっていましたが夫婦の寝室にお邪魔するほど野暮でもありません。
ともあれ、ハヤトは時計を見ました。…23時50分。ぎりぎりです。でも嬉しいです。
「…リボーンさん、リボーンさん」
ハヤトが小さく声を掛けると、どうしたと目で訴えてきます。喋る気力はもうないみたいです。
「あのですね、あのですね!」
それでもハヤトは満面の笑みで。愛する旦那さまにお祝いの言葉を言うのでした。
「お誕生日、おめでとうございます!」
「―――」
ちょっとリボーンさん止まりました。
正直、リボーンさん本人は忘れてました。
けれど、これこそ。ハヤトが一日中うーうー呻きながらリボーンさんに会いたいと訴えていた理由だったのです。
「ハヤト…ハヤトはですね! リボーンさんに会えて本当に感謝してるんです!」
ハヤトの言葉は続きます。
「リボーンさんと初めて会ったとき…リボーンさんはハヤトを助けてくれましたね」
それは、本当に昔の話。
物置に閉じ込められ泣いていた、小さな女の子。その子を見つけたのが…リボーンさんでした。
「リボーンさんとまた会えてからも、ハヤトはリボーンさんに助けられっぱなしでした」
再開を果たしたのは、七年も経ってから。
お互いに最初は気付かなかった。ハヤトはリボーンの顔をよく覚えてなかったし、リボーンはまさかハヤトが自分を探しているなどとは夢にも思ってなかったから。
それに…7歳の小学生は14歳の中学生と変わっていて。とても分からなかった。
それから長い月日を共に過ごした。…アイドルと、マネージャーという関係で。
その関係が変わったのは…どれだけの歳月が流れてからだっただろうか。
想いを自覚して。行動に移したのは…いつだっただろうか。
「リボーンさん」
気が付くと、ハヤトが真っ直ぐに自分を見ていて。
「生まれてきてくれて、ありがとうございます」
本当に幸福そうに、微笑んでいて。
「ハヤトと出会ってくれて、ありがとうございます」
ぎゅっと。愛しい旦那さまに抱き付いて。
「リボーンさん」
自分の、心からの想いを―――
「だいすきです」
…告げた。
鐘が鳴る。鐘が鳴る。ぼーんぼーんと柱時計が日付の替わる合図を送っている。
ハヤトは言いたいことは言い終わったとばかりに沈黙して。その表情は満足げで。
嗚呼…出来ることなら今受けた言葉をそのまま返したいのに。疲れのせいか上手く口が動かない。それのなんと悔しいことか。
礼を言うべきはこちらの方なのに。…ハヤトには数え切れないほどの沢山の大切なものを与えられたというのに。
親も兄弟もいない自分に…初めて出来た、家族。
それまでの日々は…言ってしまえば仕事をするだけの、それだけの無機質で無彩色な物だった。
一人でいるのが当たり前だった。誰もいない部屋で過ごすのが日常だった。
それが…今となってはもう。考えられなくて。
今は毎日が楽しい。自分の頑張りがそのまま家族の為になっているようで。
今は帰るのが楽しみ。自分を待っててくれる彼女らがいるから。
…ああ、だと言うのに。それを伝えたいのに…目蓋は重く身体は動かず意識は今にも途切れそう。
仕方ない。謝辞は起きてから言うとして、今は体力回復に専念しよう。
リボーンは最後に感謝の意味を込めてハヤトの小さな身体を強く抱き締めると…そのまま深い眠りへと落ちていった。
…翌朝。リボーンは心地良い感覚に包まれながら目を開けた。
と。目の前には珍しくリボーンよりも早く起きているハヤト。…そのハヤトが、リボーンの頭を慈しみの目を向けながら撫でていて。
「………ハヤト」
「あ、リボーンさん…。起こしてしまいましたか?」
「いや…どうした?」
「リボーンさんがお疲れのご様子だったので…いつものお返しの意味も込めて、早く元気になりますようにと」
ハヤトは頭を撫でられるのが好きだ。だからリボーンはことあるごとにハヤトを撫でるのだが…まさか自分が受ける日が来ようとは。
「………このオレを撫でるなんて。お前ぐらいなもんだな」
「はい? 何か仰いました? リボーンさん」
「…いや、なんでもない。―――そろそろ起きるぞ、ハヤト」
「あ、はい………っとそうだ。リボーンさん」
「ん?」
「おはようございます」
ちゅっと音を立ててハヤトはリボーンの額に可愛らしくキスをしました。
「…ああ。おはよう。ハヤト」
ちゅっと音を立ててリボーンはハヤトの唇に優しくキスをしました。
―――二人の朝の、始まりでした。
「…それで、二人は?」
ツナに聞かれて雲雀と共にやってきた次女ちゃんは言いました。
「夫婦水入らずって奴です社長!」
「今日は休むって。…ていうか、元々オフ入ってたけど。あ、これリボーンの報告書」
ぱさりと紙の束を渡され、むぅっと顔をしかめるツナ。
なんと言うか…その。今日は………あれなのに。
「ああ、あと二人から伝言」
「え?」
「誕生日おめでとうございますだそうです。おめでとうございます! 社長!!」
次女ちゃんに伝言を告げられ祝福され。…何だか温かいものに満たされて思わず笑みを零すツナ。
「…ありがとね。よし、仕事しようか、雲雀」
「ワォ。キミが自分から仕事しようなんて珍しいね。何か企んでる?」
「とんでもない。たまにはそういう時だってオレにもあるの」
そうとも。何も企んでなんかない。
ただ…お昼は少し時間が取れるだろうから会社を抜け出して。あの二人を冷やかしに行こうかと思っているだけだ。
やっぱり祝福はその日の内に本人たちの言葉でほしい。
堪えきれない笑いを隠すように背を向けて、ツナはエレベーターに乗り込んだ。
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二人とも、待っててね?
ヒビキミトリ様へ捧げさせて頂きます。