* * * 獄寺隼人のリボーンさん観察日記 * * *
リボーンさんは小さい。
赤ん坊なのだから仕方ないのだろうけれど、とにかく小さい。
オレの見たところリンゴ五つ分の身長にリンゴ三つ分の体重なのではなかろうか。
リボーンさは可愛らしい。
リボーンさん本人はやはり男の子だからかそう言われると複雑な顔をするけれど、やっぱり可愛らしい。
あの渋い口調も声代わりしてない高い声なら格好良いというよりはやはり可愛らしく感じてしまう。
とはいえ、外見こそ可愛らしいリボーンさんも中身は本当に格好良い。
折り紙付きの実力に思慮深い考え。
オレは教師と聞くとあまりいい思い出はなかったから今までそういう人種に懐くことはなかったけど、リボーンさんなら尊敬出来た。
そんなリボーンさんは今10代目の隣でコーヒーを飲んでいます。
…あ。今リボーンさんと目が合いました。オレがにっこりと微笑んで返すとリボーンさんは目を反らしました。
むぅ。
リボーンさんはオレのことがお嫌いみたいです。
リボーンさんはオレのどこが嫌いなのでしょう?
オレはこんなにもリボーンさんのことが大好きなのに!
「…おい…」
そりゃあオレだって自分がリボーンさんと釣り合ってるだなんて思っていませんとも。
でも少しぐらいは構ってくれてもいいと思いませんか?
「……おい、獄寺、」
バカ! リボーンさんのバカ! バカバカ!!
「…獄寺、」
リボーンさんのバカ! リボーンさんの変態! リボーンさんのドS! リボーンさんの放置プレイ好き! リボーンさんの南国パイナップルーーー!!!
「誰が六道骸だゴラァ!!!」
「リボーンさっきから一人でうるさい」
…あ。リボーンさんが10代目にしばかれました。
ああ、テーブルに額を打ち付けられたリボーンさんも魅力的で可愛らしいです☆
(………おい、リボーン…)
(…なんだ……)
(獄寺くんどうしちゃったわけ? 何であんなに怒ってるの?)
(やっぱりあれは怒っているのか…)
(どう見ても怒ってるだろ…いや、まぁ確かに一見にこにこ笑ってるけど…目とか笑ってないし)
「怒ってませんよー♪」
「一見軽やかな口調だけど声にドスが効いてて台無しだからね獄寺くん。あと一応オレたち内緒話してたんだけどよく聞こえたね?」
「すいません。オレ、耳が良いんです☆」
(………ほら、普段の獄寺くんなら言葉尻に記号とか付けないよ!? なのに今回付けまくりだよ!? 何があったか知らないけど尋常じゃないぐらい怒ってるよ!?)
(うわああああああああ…)
(ああもうリボーン! のた打ち回らない!!)
「のた打ち回るリボーンさんも素敵です☆」
「獄寺くんはノートに何か書かない!!」
(すまなかった…獄寺…)
(ああもう…リボーンは一体獄寺くんに何したのさ)
(何したって言うか…だな)
(うん)
(この間、オレイタリアに飛んだだろ?)
(うん)
(…その日…実はオレは獄寺と会う約束をしててだな…)
(…もう予想付いたけど、それで?)
(……イタリアへの呼び出しが急な話でな?)
(うん)
(オレにとってボンゴレの命令は絶対でな?)
(うん)
(携帯も忘れてな?)
(うん)
(…獄寺との約束に気付いたのが……イタリアでの用事が終わってからだった………)
(うわぁ……気付いてから連絡は?)
(……………)
(…ん?)
(…………………)
(おい…まさか)
「…リボーンさんは…」
「ん?」
「リボーンさんはオレのことがお嫌いですから」
「………」
「ですから連絡もありませんでした」
「………」
「いつまで経ってもありませんでした」
「………」
「オレから電話を掛けても繋がりませんでした」
「……………」
「…リボーンさんの、バカ」
「うん。リボーンの馬鹿」
「ツナにまで言われた!?」
「当たり前だよ何だよこの展開。初志貫徹でリボーンが悪いんじゃないかよ」
「そこまで言うか!?」
「言うよそこまで言うよ。電話の一本でも掛けてあげろよこのヘタレ!!」
「誰がヘタレだ!!」
「 お 前 だ よ 」
「だってお前こんなときなんて言えばいいんだ!?」
「普通に急に仕事が入った、ごめん。とかでいいじゃん」
「駄目だ! 獄寺はあの日をとても楽しみにしていたんだ!!」
「だからって連絡なしは最悪だろ!? 現に今最悪だろ!?」
「そうだ最悪だ! ツナ、オレどうすればいい!?」
「仮にも教師が生徒に相談するな!!! ええいとりあえず謝れとにかく謝れ!!!」
………10代目がリボーンさんをオレの前に置きました。リボーンさんはどこか表情を硬くしていらっしゃいます。
「………獄寺」
「…はい」
…どきどきと心音が高鳴っていくのが分かった。もしかしてこのまま別れ話でも持ちかけられてしまうのだろうか?
…そうだよな…オレさっきまでノリと勢いに任せてリボーンさんに沢山失礼なこと言ってきたし…仕方ないよな……
だって…だって! リボーンさんと二人っきりで(二人っきりで!!)出掛けるだなんて本当に久々だったのにオレ楽しみにしてたのにリボーンさんは来なくて連絡なくて!!
もしかして何かあったのかと思ってオレ心配で10代目に聞いても姉貴に聞いても分からなくて…!!
「何故泣く!?」
「なんでもないです!!!」
オレの前のリボーンさんがなんだかあわあわしているように見えますが、きっと気のせいです。リボーンさんはそんな人じゃありませんから!
「ああもう、これやるから機嫌直せ!!」
と、リボーンさんの投げた小さな箱がオレの後頭部に直撃します。
「え…? リボーンさん、これ……」
「…約束…破って悪かったな。代わりっつったら何だが…土産だ」
「―――リボーンさん!!」
「な、何だ!? 言っとくがオレだって好きでイタリアに飛んだわけじゃ…」
「ありがとうございます! 大好きです!!!」
と、オレは思わずリボーンさんをぎゅ―っと抱きしめた。
オレの胸の中でリボーンさんがなんか慌てたようにじたばたしているような気もするけど、きっと気のせいだ。
だってほら、10代目だって笑ってる。
「本当、二人は些細なことで喧嘩したと思ったらすぐ仲直りするよね」
「だって10代目、リボーンさんがオレにプレゼントをしてくれたんですよ!? 初めてですよ!?」
「うんうん、よかったね獄寺くん」
「はい! ありがとうございます10代目!!」
オレは嬉しさのあまりにリボーンさんに頬ずりしました。
「じゃあリボーンさん、今度こそ絶対デートしましょうね! ………って、あれ? リボーンさん?」
「………獄寺くん獄寺くん。リボーンヘタレなんだからそこまで接触してると、なんだ、動かなくなるから」
…あれ?
リボーンさんは実はとっても照れ屋です。
とっても小さくて、可愛くて、でも中身はとても格好良いリボーンさんは実はとっても奥手なんです。
だからオレから行動を起こすしかないでしょう?
時々攻めすぎてリボーンさんが逃げてしまうときもあるけれど。
でも待っていると、戻ってきてくれるんです。
オレはそれがとっても嬉しくて。
今日はひときわ嬉しかったものだから、オレは思わずリボーンさんにキスをしました。
リボーンさんの小さな身体が弾かれたかのようにビクン! と痙攣したかと思うと、
「…リボーンさん?」
リボーンさんは、まるで電池が切れたおもちゃのように動かなくなりました。
「あー…獄寺くん獄寺くん。リボーンヘタレなんだからそんなことすると、なんだ、死ぬから」
………あれ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…リボーンさん? リボーンさんー!!