獄寺が買い物に出ていると、その帰り道にリボーンとばったり出会った。


「あ……」


「ん?」


獄寺の声にリボーンが振り返り、二人の目が合う。


「「……………」」


二人は立ち止まり、無言で見つめ合う。


正確には、リボーンの方は固まっていた。


それに気付いているのかいないのか、獄寺はにっこりと微笑んだ。リボーンの頬を冷や汗が流れる。


「り―――」


獄寺が言葉を出そうとする。それに反応して、リボーンの身体が弓なりにしなんだ。


「じゃあな獄寺」


そう言って、リボーンは走り去る。取り残される獄寺。


「…ぼーんさん、奇遇ですね………って、いない」


獄寺は頭を掻き、暫し考え、結局帰った。


残念だけど仕方ない。


また次の機会に。





次の機会が訪れたのは、翌日。


購買まで昼食を買いに行こうと、角を曲がったすぐ傍にリボーンが歩いていた。


近い距離。リボーンは後ろを向いて、獄寺に気付いていない。


チャンス到来。


獄寺は前足に力を込め、走り出す。


「リボーンさん!!」


「!!」


獄寺の叫んだ声に、リボーンの身体がびくりと震える。


そして後ろを振り向くこともないままリボーンも走り出した。逃げ出した。


「待ってくださいリボーンさん!!」


「待てるか!!」


突如として始まった鬼ごっこ。


周りの生徒が驚きながら見ているが、二人はそれどころではない。


スタートダッシュで出遅れたとはいえ、猫のような俊敏さで逃げるリボーン。


それを長い腕を伸ばし、必死に捕まえようとする獄寺。


いかん。このままでは捕まる。リボーンは焦る。


と、リボーンの目の端がある人物を捉えた。リボーンは最後の力を振り絞りその人物の方へと向かう。


「―――ツナ!!」


「え?」


リボーンはまるで銃弾のようにツナに飛び込み、その胸に収まる。


「べ、弁当……忘れてたぞ」


「あ、ああ、うん、ありがと…」


「リボーンさん!!」


「!!」


ツナの腕の中のリボーンがまたびくりと震える。固まる。獄寺の動きも止まる。


「10代目! リボーンさんをこちらへ!!」


「ツナ! オレを連れて逃げろ!!」


「え? …ええ!?」


状況が全く呑み込めないツナ。


「お…落ち着いて二人共。まずはオレに状況の説明を……」


「10代目! いいですからリボーンさんをこちらへ!!」


「ツナ! いいからオレを連れて逃げろ!!」


「聞けよ人の話を!!」


ツナは怒鳴った。


ツナはまずリボーンを引き剥がそうとするが、リボーンはまるで母親から離れたくない赤子のようにツナの服を握って離さない。


「く…!! 10代目、羨ましいです」


「オレにとっては鬱陶しいだけだけどね」


獄寺は今にも飛び掛からんとしているが、流石に敬愛する10代目の手前自制しているらしい。


「獄寺くん、リボーンに話があるの?」


「そうです!!」


「リボーン、聞いてあげれば?」


「断る!!」


綺麗な平行線だった。


「…獄寺くん。なんか凄い熱気を感じるけど……どうしたの?」


「オレ……気付いたんです。…自分の、気持ちに」


ツナの腕の中のリボーンがびくびく震える。


「気持ち…?」


「ええ。オレは、リボーンさんが好きです!!」


大きな声で獄寺は言った。


まるでお兄さんが取り付いたみたいだ。とツナは思った。極限とか言い出さなければいいが。


「リボーンさん!! オレと付き合ってください!!」


「………リボーン、答えたげれば?」


「………」


リボーンはツナを見上げる。


その目は潤んでおり、その身体はかたかたと震えていた。


「………獄寺くん。リボーン、なんか、嫌がってるっぽい」


「!!」


「そうなんですか!? オレのどこが不満ですかリボーンさん! 直しますから言ってください!!」


「………、」


「…多分、落ち着きのなさ。だと思う」


リボーンではなくツナが答えた。


「…分かりました。落ち着きます。落ち着きますからリボーンさん、オレと…」


「ご、獄寺くん、あんまりしつこいと…嫌われる、かも……」


「!!!」


「………それは困りますね。分かりました。では…今日のところはこれで。失礼します」


獄寺はあっさりと引き下がり、踵を返し立ち去った。


あとに残るはツナとリボーンのみ。


しかし騒ぎは収まらなかった。ツナは胸部に振動を覚える。見れば、リボーンにぽかぽかと叩かれていた。


「…馬鹿野郎、ツナ、てめぇ獄寺が傷付いたらどうしてくれる」


「えぇー…」


ツナは力ない声を出した。リボーンのために行動したというのに、なんか、ダメだった。


「獄寺くんから逃げ回ってたくせに」


「それとこれとは話が別だ」


なんという我が儘。さすが俺様。


「獄寺くんが迷惑じゃなかったの?」


「そんなんじゃない。ただ、その、なんだ……照れて、困ってただけだ」


「…う、うん」


どうやらリボーンは獄寺から逃げてはいたが、嫌っているわけでもないらしい。


複雑なリボーン心だった。


「嫌ってないんだったら、付き合ってあげれば?」


「ば、馬鹿。つ、付き合うとか、そういうのは……大人になってからだ。オレたちにはまだ早い」


なんという純情。


「…今日日幼稚園児だって付き合ってる子いるよ」


「なんだと!?」


リボーンは本気で驚いていた。まあ、言っておいてなんだがツナもそれは早熟すぎると思わないでもない。


「…だが、オレは赤子だ」


「獄寺くんと年齢合わせて平均すれば七歳ぐらいだから大丈夫だよ」


「…なるほど」


リボーンは納得した。


リボーンは馬鹿だった。


「………よし」


暫し、リボーンは逡巡し…意を決して、ツナから降りる。


「どこ行くの?」


「聞いてくれるな」


そう呟いて、リボーンは獄寺が去った方角へと消えた。


あとには、弁当箱を持ったツナだけが取り残されていた。





新商品のパンを数点手にし、廊下を歩いているところで獄寺はふと振り返った。


何故だか知らないが、誰かがいるような気がして。


そして、振り返った先には先ほど別れたリボーンが立っていた。


「リボーンさん」


獄寺は感情が高ぶるままにまた行動しそうになり……押し留まる。先ほど落ち着くと約束したばかりだ。


「…どうか、しましたか?」


「お前の思いに、答えに来た」


獄寺の鼓動が高鳴る。思い。答える。身体が熱くなる。


「…オレも、お前が好きだ。……オレと、付き合ってくれ。獄寺」


気が付いたときには、獄寺はリボーンを思いっきり抱きしめていた。


いつの間に移動したのかまったく覚えていない。けれどそんなことはどうでもいい。


「…嬉しい、です。ありがとうございます、リボーンさん…」


獄寺の胸の中でリボーンはやはり固まっていた。


リボーンは純情で、清純で、そして超奥手だった。


そんなリボーンからの提案で、とりあえずふたりはまずは文通から始めることにしたのだった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

では、まずはオレから書きますね。