獄寺が真剣な表情でリボーンに話があると言った。
何の話なのかは既に察しが付いてる。そして結末も。
だからリボーンは内心でため息を吐いた。
無論誰にも知られることはない。
「オレ…その、あなたのことが……」
獄寺は言葉を詰まらせながらも紡いでいく。それは想いの言葉。
しかしもとより読心術の使えるリボーンだ。
獄寺の気持ちなど最初から知っている。
分かった上で、無視してた。
獄寺が傷付くのを見越した上で、冷たく当たっていた。
…それでも自分を諦めなかったのは、リボーンも計算外だったが。
リボーンは自分に告白する獄寺を黙って見ている。
ただ真っ直ぐに。
やがて獄寺は告白を終わらせる。顔は真っ赤だった。
返事は分かりきっているから要りませんと笑う獄寺に、リボーンは言葉を返す。
分かりきっているのならはっきりと言ってやる、と。
迷惑だ、と。
獄寺は踵を返しかけた足を止める。表情はリボーンには見えないが凍りついていた。
…まぁ、リボーンには見えなくとも予測は付いていたが。
リボーンの言葉は続く。
オレは男に興味はない。
そもそも、おまえ自身に興味がない。
オレはお前が嫌いだ。
お前がオレをどう思うかまでは勝手だが、それをオレに押し付けるな。
―――気持ち悪い。
リボーンが言葉を一つ放つ度に、獄寺の心が抉れていく。
リボーンはそれが分かった上で言葉を放っている。
リボーンはいつの間にやら帽子を目深く被り直していて、その表情は誰からも見えなかった。
やがて耐え切れなくなり、獄寺は謝罪の言葉を口にしながらその場を去った。声は涙声だった。
リボーンは獄寺が去ったあともその場を動かなかった。
帽子も目深く被り直したままで、直そうとしない。
リボーンは少し疲れたかのように壁に背を預けた。
結論から言えば、リボーンは先程投げつけた言葉の通りに獄寺が嫌いなわけではなかった。
…むしろ、逆なぐらいで。
けれど、リボーンは獄寺の想いに応えるわけにはいかないのだ。
アルコバレーノは人柱。
その身は既に人でなく。
アルコバレーノは呪われた者。
その身はいつ消えてもおかしくない。
立場は常に中立で。
誰かと特別な関係など持てるはずもなく。
せいぜい愛人が関の山。
本命など持ってはいけない。
持っていいはずがない。
想いなど、芽生えてはならない。
芽生えても、殺さなくてはならない。
たとえ相手を傷付けても。
愛する人を、泣かせても。
リボーンは壁に背を預けている。
その表情は俯いているのと、目深く被られた帽子で見ることは叶わない。
遠く離れた空の下、獄寺は泣いている。
リボーンの目は乾いている。
きっと明日、獄寺はリボーンと会ったら先程のことなどなかったかのように対応するだろう。
そして自分もまた、いつもと同じように素っ気無く対応するだろう。
お互い本当の気持ちを隠したまま。
想いはきっと一生繋がらない。
…繋げてはならない。
悲しいことに、あれだけ酷く傷付け、心を抉ったというのに獄寺はまだ自分を想ってくれるらしい。
その心に蓋をしても、二度と打ち明けないとしても。報われなくとも結ばれなくても。
それでもまだ、好きだと。
今後の愛する人の心情を考えて、リボーンは内心ため息を吐いた。
無論誰にも知られることはない。
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誰にも知られるわけにはいかない、この思い。