その思いがいつからあったかなんて聞かれても、


この想いがいつ頃芽生えたかなんて聞かれても。



正直なところ、よく覚えていない。



ひょっとしたら、実は最初からなのかも知れないし、


もしかしたら、案外つい最近の事なのかも知れない。



それが分からないほどオレは、ずっとあなたの事を考えていた。



それほどオレは、(たとえその念が友愛であったとしても)ずっとあなたの傍にいたし、


それほどオレは、(たとえその念が敬愛であったとしても)ずっとあなたを思っていた。



どのような感情であれ、オレはあなたのことが好きでした。



あなたと話せると嬉しくて。


あなたと会えると顔が綻び。


あなたに褒められると心が躍り。


あなたに認められると誇らしく。


あなたの指導は忘れることなく。


あなたの隣に立てれば、怖いものなんてなかった。



あなたほど頼もしい方はおらず。


あなたほど信頼出来る方はおらず。


あなたほど尊敬出来る方はおらず。



だから、あなたはオレの憧れで、目標でした。



…だから。


あなたが、オレを見てくれたときは、本当に、本当に、本当に―――





「―――ん…」


意識が覚醒し、薄目を開ける。


「………」


見慣れた天井。休憩室の一室。そういえばオレは仮眠を取っていたのだった。


ぼんやりとする思考。しかしそれを纏めることはせず、先ほどまで見ていた夢の余韻に浸る。


すると。





「いい夢でも見たか?」





なんて。


夢で見た、あなたの、声が。


「―――」


視線を動かし、声のした方を見れば、椅子に座り頬杖を付き、優しい顔で微笑みながらオレを見る、リボーンさんの姿―――


オレはガバっと身体を起き上がらせ、思わずリボーンさんから距離を取る。


「な、な、な、な、な…」


「な?」


「なんでリボーンさんがここに!?」


「ご挨拶だな。オレがボンゴレにいちゃそんなにおかしいか?」


「そ、そうではなく…リボーンさんは今任務に出てて、今ここにいるわけが…!!」


「任務完了して帰ってきたに決まってるだろう」


そんなあっさり完了出来るような任務じゃなかったでしょう!?


なんて言葉が喉元から出掛けたが、堪えた。この人が終わったといえば終わったんだ。しかも完璧に。


「で、でしたら連絡してくださればお迎えをしましたのに…!」


「それはそれでいいんだが、今日は驚くお前が見たかったものでな」


なんてお方だ。


「しかも今日はお前の寝顔まで見れた。きっとオレの日頃の行いがいいからだな」


なんて自信過剰な。


「まったく…あなたという人は……」


「惚れ直したか?」


「呆れてるんです」


といいますか、今の会話のどこに惚れる要素がありましたか。


リボーンさんが近付いてくる。オレを捕まえる。


「ただいま」


短い声と長い手がオレに差し伸べられる。


「…お帰りなさい」


オレも声を返し、その手を掴んだ。





「ほら」


なんて。二人部屋に入ると同時にリボーンさんは小さな包みをオレに渡した。


「これは…」


「土産だ」


土産…リボーンさんがオレに……珍しい。


「あ…ありがとうございます。……開けてみても?」


そう聞いてみれば、リボーンさんは好きにしろ。なんて素っ気なく言葉を紡ぐ。


ペーパーナイフを使って丁寧に包みを剥がし(リボーンさんには適当に破れと言われた)、現れた箱を開けてみれば……そこにはシルバーアクセサリー。


……やばい…超カッコいい…


「任務で行った地の雑貨屋で見つけた。お前が好きそうだから買ってきたんだが…」


「とっても素敵です!」


手に取り重みを確かめ模様をなぞり恍惚な表情でオレは言った。むしろ叫んだ。


「どちらの店で買ってきたんですか!? こんなに渋いデザイン見たことありません、よもや手作り!? それを見つけてくるリボーンさんの目も素敵です!!」


「そ、そうか…」


気付いたらリボーンさんが若干引いていた。


「…あ、その、これは……」


「いや、いい。そこまで喜んでくれたら、オレも嬉しいさ」


正気に戻ったオレを見て、リボーンさんは笑う。


「なら、今度の休みはそれを買った店に行くか」


「い、いいんですか?」


オレたちの休みはなかなか合うことはなく、今度の休みを逃したら次はいつ同じ日を過ごせるか分からない。


今だってリボーンさんが任務終わりの少しだけ空いた時間を(予定より早く帰ってきたのでそれだけ時間がある。すぐに別の仕事を割り当てられるだろうが)共有しているだけに過ぎない。


そんな貴重な時間をオレのために…なんて。


「いいんだよ」


オレの全てを見通しているかのように、リボーンさんは優しく言う。


「お前が嬉しいなら、オレはいいんだ」


「ですが…」


オレだけが楽しんでも、それじゃあ意味がない。


オレは、オレよりもリボーンさんに……


「いいから、お前はもっとオレに甘えろ」


そうしてくれたら嬉しいと、リボーンさんが言う。


「お前はいつも気を張って、気丈に振舞って…それ自体は別に構わないんだが、オレの前でぐらい気を緩めろ。素直になれ」


軽く抱き寄せられ、あなたの香りに包まれる。


ああ、もう、この人は。


あなたといるだけでオレは十二分に気が緩んで、素直になっているというのに。


これ以上、更に、なんて―――


「じゃあ、そろそろ時間だから…」


言って、オレを抱き寄せた手を離して、離れようとするリボーンさんの袖を…オレの手が掴んで止める。


「獄寺?」


「…もう少し、ここにいてくださいよ」


俯いて、小声で告げる。


だって、オレがこういうのは仕方ない。


だってあなたが甘えろなんて言うから。


そんなことを、そんな風に言われて、オレが自分を抑えられるわけないのだから。


と、オレの頭上で、ふっと微かに笑う気配。


続いて頭を撫でられる感触。


「じゃあ、ツナに報告は明日でいいか」


「いえ…流石にそれは……って、まだ済ませてなかったんですか!?」


「ああ。お前の寝顔見てたら、時間がなくなった」


「………」


リボーンさんのその言葉に呆れるやら、しかし嬉しいような、様々な感情が胸の内に巻き起こり…最後には10代目への謝罪が占めた。


「仕方ありません。明日10代目に怒られてください」


「仕方ないな。お前と過ごす時間のためだ」


ふたりで、まるで子供が悪戯を仕掛けるように笑って。


オレはそっと袖を掴んでいた指を離し、半歩リボーンさんに近付く。


リボーンさんがオレを抱きしめて。


長い時間そうやって、オレたちは今まで会えなかった分を補った。





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出来ることなら、このままずっと。朝までずっと。


リクエスト「甘々なリボ獄。リボ様元に戻った設定で10年後。」
リクエストありがとうございました。

現時点でコミック最終巻未だに読んでないんですけどこれでまさか赤子からやり直すとか何故か少年からスタートという神展開だったらもっかい書きます。