もう少し、あと少し。
ほんの少しで手が届く―――
- ほんの 少し・・・ -
オレの名前は獄寺隼人。
オレには夢が二つあります。
一つは叶いました。己の信じる君主を見つけ、尽くすこと。
一つはまだ叶いません。…リボーンさんに認めてもらうこと。そしてリボーンさんの隣に立つことです。
オレにはそんなに見込みはないのか、リボーンさんはオレの相手をしようとはしません。それこそ10年もの時間です。
周りはいい加減諦めろといいます。しかしどうして諦め切れましょうか。だってオレの夢なのに。
そもそも、10代目の右腕になることだって初めは周りに言われました。無理だ。諦めろ。
ボンゴレに入ったばかりのお前にそんな大役が務まるものかと。大人しく陽動員のひとりとなって捨て駒の一つとなって死ねと言われました。
それでもオレは現在こうして10代目の右腕となり、その日々を過ごせています。無理だと言われた夢は叶ったのです。
だからオレは諦めろと言われても諦めません。無理だと言われても止めません。そもそもどうして自分の夢に、目標について周りにとやかく言われる必要があるのでしょうか?
ましてや周りに反対されたと言う理由でどうして夢を諦めなければならないのでしょうか。オレにはさっぱり理解出来ません。
辛く苦しく苦難で困難な道だというのも充分理解してます。知ってます。その上でオレは言っているのに。
…ああ、リボーンさん。オレの憧れのリボーンさん。
オレはあなたのようになりたい。オレはあなたの隣に立ちたいです。
きっと、まだオレの技量不足なのですね。だからあなたはオレを見てはくださらないのですね。
ならばオレは頑張るだけです。努力あるのみです。あなたの隣に立てるその日まで。
オレは寝る間も惜しんで訓練に励みました。無論普段の業務も完璧にこなします。そんな日々が続きました。
それなのにどうでしょう。オレはあなたを追いかけているはずなのに、あなたに近付いている気がまったくしないんです。
むしろ、どんどん遠ざかっていくような。
…まだ、足りませんか?
まだオレの努力は足りませんか? でしたらオレはもっともっと頑張りましょう。あなたに近付くために。
オレは危険度の高い任務にも次々と志願していきました。そしてその度に成功を収めては帰ってきました。
だけどリボーンさんはオレを見てはくれません。
いつまで経っても。
まだ。まだですね? オレはまだあなたには足りませんね?
ええ、望むところです。
オレは日々腕を磨いていきました。そうしていたら、いつしか周りがオレを見る目が変わっていることに気付きました。畏怖のこもった目です。
そういえばあなたもそんな眼で見られていました。オレはあなたに近付けられたようで嬉しかった。
だけど、駄目です。オレは周りに認められたいんじゃない。他の誰でもない、あなたに認められたいのです。
でも、周りに認められたのならきっとあと少しですね。もう少しですよね。あと、ほんの少し、頑張れば。
…オレはきっと、あなたの隣に―――…
……って、え…? あれ…?
リボーンさん?
オレの右腕であるオレの友人はとてもとても頑張り屋です。
ボンゴレ10代目の右腕になることが長年の夢であった獄寺くんはその夢が叶ったあとも努力を怠ることはありませんでした。
いいえ、むしろオレの右腕になる以上に精進し、その実力を着々と上げていきました。
特に銃を使う姿なんか、あいつの姿を思い出すぐらいに。
きっと彼自身もあいつを元にしていたのでしょう。それからもあいつと獄寺くんとが被って見えるようなことが多々ありました。
彼は恋人を亡くしたというのに、その悲しみをおくびにも出さず。本当に凄いと思います。
…いいえ、少しは堪えていたのでしょう。まるで悲しみを塞ぐかのように、ひとりの時間を作らないかのように訓練に励んでいましたから。
時間が経つにつれ、彼の姿は本当にあいつにそっくりになっていきました。あいつの服を着せたら本当にあいつになってしまうのではないかと思ってしまうぐらいに。
だけれどそんな彼も、死にました。
凶弾に撃たれ、死にました。
けれど不思議なのは、その死に顔でした。
どうして彼は、あんなにも幸せそうに微笑んでいたのでしょうか?
まるで―――…そう。
夢が叶ったかのような。
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一体何が彼をそんな顔にさせたのか。オレには分からない。