リボーンたち、アルコバレーノの呪いが解けて数週間。


呪いが解けたとはいえ、見た目に何か変化があるわけではなく、この場を立ち去るわけでもなく。


更に今までの対応も何か変わるわけでもないため、何事もなかったかのように日常が戻ってきた。


…約一名を除いて。


「リボーンさん…ああ、今日もなんて愛らしい」


「獄寺…そう、抱きしめるな。恥ずかしいだろ」


「でも、オレ嬉しくて…リボーンさんの呪いが解けて、これからも生きることが出来るようになって……」


「それは分かるが…」


「…は! もしかして苦しいですか!? す、すみません!!」


「いや、大丈夫だ」


「ああ、よかった…呪いが解けてこれからどんな症状が起きるか分かりませんから、少しでも何か身体に変化があったら仰って下さいね!!」


「分かった分かった」


「……………」


二人の世界に入り、イチャイチャラブラブしている獄寺とリボーン。


その様子を、どこか恨めしそうな目でじっと見ているツナ。


「…獄寺くん……さ、少しばかり、リボーンに構いすぎじゃない?」


「10代目?」


どことなく不機嫌そうな声色を出すツナに、獄寺はきょとんとする。


いつも優しく、困った顔はしても怒ることは滅多にないツナが…今日はどこか、怖い…ような。


「構いすぎ…ですか? ですが10代目。お言葉ですが…今日はまだ、この程度ですよ?」


確かに獄寺がリボーンに構うのはいつものことで、今目の前の光景だっていつものことと言える。ツナだってこれまで何度も見てる。


それを今更…それも目くじら立てて言うことに疑問を覚えずにはいられない。


「10代目…何か、ありましたか?」


「別に……」


ぷいっとそっぽを向くツナに困る顔をする獄寺。


「…少し前までツナに尻尾振ってたのに、今はオレに構いきりだから拗ねてんだろ。子供なんだ、気にすんな」


「え…そ、そうなんですか? ご、ご安心下さい10代目。確かにオレはリボーンさん一途ですが…それと10代目を慕う気持ちは別物ですから」


「なんでお前の方が安心した顔になってんだ」


「いえ…お恥ずかしながら、もしかして10代目もリボーンさんの魅力に気付かれたのかな…なんて思ってしまいまして」


ぴくり。とツナが反応する。


「まさか。ツナはオレに興味ねえよ」


「どうでしょう…でも……そうですね。長く同じ時間を過ごしていながら、まさか今頃になってようやく気付く…なんてことないですよね!!」


ぴくぴく。ツナが反応する。


「ああよかった! オレ、10代目がライバルになっちゃうんじゃないかって心配しちゃいました」


「馬鹿なことを言うな気持ち悪い。ツナがオレを…? 想像しただけで怖気が走るぞ」



「そこまで言うか!?」



二人で会話を続けるリボーンと獄寺に、突如割って入るツナ。


目を丸くして驚く二人。


いち早く察したのは獄寺だった。


「やっぱり…10代目……リボーンさんのことが…」


「う、嘘だろ!?」


珍しく狼狽し、動揺しながらツナを見上げるリボーンに慌ててツナは声を出す。


「ちちち、違う違う!! そんなんじゃないってば!!」


「だ、だよな!」


「………」


「ごご、獄寺くん。なんでそんな怖い顔でオレ見てるの? どうしたの?」


「10代目…目が泳いでます」


獄寺は、相手がツナならば大抵のことを好意的に受け止める。


…が。それもリボーンが絡んでいるのなら例外になるようだ。


「リボーンさん…大丈夫ですか? 何かされてません?」


「オレがツナに何をされるってんだ」


「じゃあ…以前と、何か変わったこととか」


「変わったことか……」


ふむ。と考えこむリボーン。


ツナは何故か緊張しているように固まっている。


「そうだな…そういえば、添い寝を提案されたことがあったな」


「添い寝!?」


キッ!! とツナを睨む獄寺。


「ちちち違うよ獄寺くん!! ほら、呪いが解けて、何が起こるか分からないからさ!! リボーンいつもハンモックで寝てるけど、寝返り打って落ちたら危ないし!!」


「………」


不信感を全て拭えないが…一応納得する獄寺。


「リボーンさん…他には、なにか」


「ふむ…ツナとよく風呂に入ってんだけどな。頭とか身体とか洗おうかと言われるようになったな」


「10代目どういう了見ですか!!」


「だからリボーンの呪いが解けたからさ!! オレも気が気じゃないんだよ!! 何が起きるか分からないから!!」


「……………」


ツナを睨む獄寺。しかし一応納得する。


「それから…」


「まだ何かあるんですか!?」


「あーっと…食事の時にほしいもの取ってくれたり、あと食べさせようとしたり」



「食べさせようと!? それはあれですか!? はい、あーんという奴ですか!?」



「まあ、辞退しているが」


「よかった……」


「ご、誤解だよ獄寺くん。獄寺くんだってさっき言ってたじゃない。呪いが解けてこれからどんな症状が起きるか分からないって。オレも同じ気持ちだから、それで…」


「…そうですか……そうですね。分かりました」


獄寺は目を瞑り、自身を納得させる。


そう。ツナとリボーンはあくまで教え子と教師であり、二人はなんだかんだで認め合っている。


ツナは決して言わないだろうが、様々なものを与えてくれたリボーンに感謝しているし…リボーンも厳しい修行に耐え、目を張るような成果を上げてきたツナを認めている。


そう、二人を繋ぐ強い絆は友愛であり、それが恋愛に変化することなどありえないのだ。


「すみません10代目。取り乱しちゃって…10代目は純粋にリボーンさんを心配して下さっていたのに、オレ…」


「う、ううん。いいんだよ獄寺くん」


「ですがリボーンさん、気を付けて下さい。いやらしい手付きや視線を感じたらすぐ逃げて下さいね!!」


「し、失礼な! 何言ってるんだよ獄寺くん!! 天使をそんな目で見るわけないだろ!!


・・・・・・・・・。


沈黙が、辺りを支配した。


「…10代目? 今、なんと?」


「天使って聞こえたが…それは誰のことを指してるんだ?」



「―――はっ!!」



リボーンに指摘されて初めて気付いたかのように、ツナが狼狽える。


「ち、ちが、ちが…チガウヨ?


「……………」


「……………」


四つの目玉に注視され、ツナが冷や汗を掻く。


「…まさか10代目がリボーンさんを神聖視していたなんて……」


「おいツナ。確かにアルコバレーノは人柱で、人柱は人が神になる儀式と言われているが…オレは人間だぞ」


「だだだだから、そうじゃなくて」


意味もなく手を振りながら弁解をしようとするツナを、もう見向きもしない二人。


「オレの危惧していた不安はなくなりましたが…どうしましょうリボーンさん」


「任せろ。オレにいい案がある。腕のいい医者が知り合いにいてな……」


「頭のですか」


「そう。頭の」



「失礼だなキミたち!!」



思いの内がバレてしまったツナは開き直り、リボーンに胸の思いを語る。


ドン引きし、身体をカタカタと震わせるリボーンを獄寺はそっと抱き寄せた。


「大丈夫です。10代目はリボーンさんに危害を加えるつもりはないようです。純粋にリボーンさんを思ってます。危険はありません」


「だが……気持ち悪いぞ」


顔を青褪めさせ、獄寺にきゅっと抱きつくリボーン。


「…獄寺」


「はい?」


「急な話をするが…今日からお前のところ泊めてはくれないか?」


「喜んで」


微笑みながら了承の旨を伝える獄寺に、リボーンは安堵する。


「い…いいのか?」


「もちろんです。リボーンさんの頼みを、オレが断るはずがありません」


「すまない…獄寺」


「謝らないで下さい。オレ、嬉しいんです。リボーンさんがオレを頼ってくれて」


二人の間だけで話を進める中、ツナは何も言わない。


「…と、言うことにしたいのですが…よろしいですか? 10代目」


拒否されたところで聞くつもりはないが、一応主に確認を取る獄寺。


「ん? いいよ?」


「あ、あっさりですね」




「ふ…オレは天使であるリボーンが無事ならそれでいいからね!! まあ欲を言えばやっぱりオレが見ていたいんだけどさ!!



「10代目嫌に男前ですね!?」



「もうお前死ねよ!!」




ツナを認め直す獄寺と更に引くリボーン。


こうして、一度はツナの魔の手から逃げ、愛する獄寺との日々を手にすることが出来たリボーンであったが…


しかし、それからツナは会うたび慈愛に満ちた瞳でリボーンに接し、気遣ってきて。


そのためリボーンはツナを視界に入れるたびにびくびくし、微妙に腰を引かせてしまったとか、なんとか。





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後日、10代目はハルに「天使を怖がらせるなんて許せません!!」とか言われてデストロイパンチをもらってました。