ある日突然。
獄寺くんが、リボーンの愛人になりました。
「愛人じゃなくて正妻な」
なにナチュラルにオレの思考を訂正してるんだよお前。
本日の教訓
「え、いやその………どういうこと?」
「どうもこうもそのままだが」
……………えーと…
「いやいやいやいや。だから待って。少し待って」
「相変わらず頭の回転が遅いな。そんなんだから獄寺をオレに取られるんだよ」
「な――――!! ちょ…このやろ! 今の聞き捨てならねぇ! ていうかまずオレが言いたいのは!!」
オレはびしぃ! っとリボーンを指差して。一番の疑問点をぶつけてやる。
「なんでお前獄寺くんの膝の上に座ってるんだよ!!!」
「あ、オレのことはお気になさらず10代目」
いやいや気にするよ。そんなにっこり笑顔でもこれは無視出来ないよ。
ていうかキミ当事者の一人じゃん! なに普通に無関係装ってんの!!
「が――――!!!」
「じ、10代目どうしましたか!? リボーンさんどうしましょう! 10代目がご乱心!?」
「気にするな獄寺。これはツナの不治の病なんだ」
なんつー嘘を付いてるんだよリボーン。不治の病て。ただ世の動きについていけなくて叫んじゃっただけだよ。
「そうだったんですか…オレ、今まで気付かないで…… ―――あの、シャマルを紹介しましょうか…?」
ほら獄寺くん信じちゃったー! これだからこの子はー!!
「―――じゃなくて。話がどんどんずれていく。えーと…そう、獄寺くんいきなりリボーンの正妻だなんて…一体、何があったの…?」
「…え? 何って、なにって…―――その」(かぁぁぁぁぁっ)
え? なんで獄寺くん顔赤くなるの? 何を思い出したの? リボーンは獄寺くんに何をしてくれちまいやがったの?
「まさかリボーン、断れない獄寺くんに無理矢理既成事実を…!?」
「なに言ってんのお前」
「10代目。きせーじじつってなんですか?」
ワオ! オレ墓穴掘っちゃった!
ていうか獄寺くん既成事実知らないのかよ! そんなところも可愛いなぁおい!!
「が―――――!!!!!」
「じじじじじじ10代目ー!? リボーンさんどうしましょう! やっぱりシャマルに相談した方が!」
「落ち着け獄寺。暫くすると治まるからここは気長に待つんだ」
くそう流石はリボーン。対処法が間違っちゃないからなんとも言えねぇ。
「―――ってだからそうじゃなくて! ああもう話が進まねぇ!」
「原因の10割はお前な」
オールオレのせい!?
「…リボーンさん、やっぱり10代目の様子がおかしいです。もしかしてオレたちのことに反対なのでしょうか…」
もしかしてもなにも最初から反対です大反対です。お父さんは許しません。
「誰が誰の親父だ」
だからお前は思考にまで突っ込むな!!
「え? 一体何のお話ですか?」
いやもう気にしないで獄寺くん! そんな無垢な表情でオレを見ないで!!
「まぁどうだっていいがな。ツナが反対だろうと賛成だろうとこれ決定事項だし」
えー
「そうですね、10代目にはご報告をと思って言いに来たんですけど…」
しゅん、と目に見えて沈む獄寺くん。え、いやそんな落ち込ませるつもりは…
「ツナは独占欲が激しいからなー。少し好意の目を向けられただけですぐこれだ」
んな!? 確かに否定は出来ないけどなんだよその言いようは!!
「? オレは今まで通り10代目のことも好きですよ?」
「ボスとしてな。ああ、好きな女に「ずっと友達でいようね」って言われた心境とはまさにこれか」
オレもそうだと思うけどそれを分かった上で言うなんて相変わらず性根悪いなお前。
「しかしまぁお前の夢はボンゴレ10代目の右腕だからな。オレよりもそっちを優先していいぞ」
「あ、ありがとうございます! 流石はリボーンさんです!!」
リボーンの言葉ににぱーっと微笑む獄寺くん…え、なにこのらぶらぶな雰囲気。なんか空気とか甘いんですけど。
なに、もしかしてオレ当てられてる? 惚気られてる? えー?
「え…ということは獄寺くんオレの右腕とリボーンの愛人…正妻を両立?」
「どちらも大役ですね! 頑張ります!!」
ぐっと拳を握る獄寺くん。やる気は充分のようだった。
―――…はぁ、確かに先に手を出さなかったオレの負けか……
「ん…分かったよ獄寺くん。でもリボーンに耐え切れなくなったらオレの所においでね? コスプレとか強制されそうになっても従っちゃ駄目だよ?」
「お前オレを何だと思ってるんだ」
無視。
「10代目…お気遣いありがとうございます! でも大丈夫です! オレ、リボーンさんの望みならコスプレプレイにも耐えて見せます!!」
耐えちゃうのかよ。
「お前ら…」
ちょっと悲しそうなリボーンだった。
「―――まぁいい。獄寺。そろそろ次に行くぞ」
「あ、はい」
「え? なに? どこ行くの?」
オレの問いに獄寺くんはにっこりと(…可愛いなぁくそう)笑って。
「やっぱり身内には話しておいた方がいいだろうって。まずはシャマルと姉貴に」
それが終わったら両親にも会いに行くんですよーって何故か嬉しそうに言う獄寺くん。
…聞いた話だと彼は家を飛び出したんじゃなかっただろうか。戻ることに抵抗とかは―――ないみたいだね。その幸せそうな顔を見る限り。
てか挨拶回りとか…抜かりねぇなリボーン。
「ん…? あれ? てかビアンキにも会うの? 大丈夫?」
「姉貴に会うのは…やっぱり怖いですけど、でも」
きゅっと、獄寺くんはリボーンを抱きしめて。…ああ、リボーンが羨ましい。そして怨めしい。
「―――リボーンさんがいて下されば、きっと大丈夫です」
また惚気やがったー! ああもうこの幸せオーラとか見せ付けないで! 当てないで!!
「―――…そ。うんまぁ……いってらっしゃい」
「はい、行って来ます10代目」
最後にオレにも微笑んで。獄寺くんは席を立つ。
………リボーンを抱きしめたまま。
「って、ちょっと待ったー!!!」
「はわっ!? は、はいなんですか10代目!?」
いやなんですかじゃないよ! こっちこそなんですかそれはですよー!!
「なんでリボーン抱きかかえたままの移動なの獄寺くんー!」
「え? なんでって10代目。もうオレたち夫と妻なんですよ?」
言った途端ぼっと顔を赤くさせる獄寺くん。
…どうやら自分の言った台詞で照れたようだ。
「なんか…夫婦って照れますね」
「なに、すぐに慣れるさ」
くっそー…いいなぁリボーン。なんでオレは、オレは…!!
「―――っていや、夫婦だからって抱きかかえての移動は理由にならないかと…」
「そうだな。夫が妻に抱きしめられての移動だなんて少し格好がつかないな」
でもな、とリボーンは続ける。
「オレがある程度成長したら今度はお前を姫抱っこで移動してやるからな。覚悟しておけ」
「もーリボーンさんってばなに言ってますかー」
いや、獄寺くん。そんな嬉しそうに顔を赤らめている場合じゃない。
リボーンは本気だよ。あいつのあの目はマジだ。
―――なんだかんだで獄寺くんはやっぱりリボーンを抱きかかえたままとんとんと階下へ降りていった。
そして後日。やっぱり心配だったらしい獄寺くんの紹介で来たというシャマルと一緒に自棄酒をこれでもかというほど煽ることになるのだが―――
そんなことを未だ知らぬオレは、好きな子にはさっさと告っておけという教訓を覚えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
気付いたときには、後悔してももう遅い。