明かりの消えた夜の家。


その中に一人の少年がいた。


少年は怯え、恐怖していた。


時折聞こえるラップ音。叩かれる窓。硝子に浮く手形。


やがて窓は破られ何かが家の中へ。少年は泣きながら逃げようとするが何かに手を握られ…





「うわあああああああああああああっ」


「10代目、落ち着いて下さい。ただの変質者です」


「ち、違うよ獄寺くん…幽霊とか悪霊とかだよ…」


と、テレビの前で座っているのはツナと獄寺。テレビ画面に映るはホラー映画。


「く…ホラーをよく知らない獄寺くんにホラーもの見せて驚かせる計画が…まさかオレが驚く羽目になるとは!!」


「10代目、小声で何を叫んでいるのかは知りませんが落ち着いて下さい」


「う、うん…獄寺くんはホラーとか大丈夫なの? 怖くない?」


「怖い? 変質者がですか?」


「だから変質者じゃないって! えーと…じゃあたとえば獄寺くんが幽霊に襲われたらどうする?」


「そうですね…実体がないということは攻撃も効かないと推測出来ますが…そこをどう立ち向かうか…あるいは逃げるか…」


ツナに言われたからか結構真面目に考える獄寺。


その時テレビから銃声が聞こえた。


慣れた音に顔を上げてみてみれば幽霊が少年に向けて発泡していた。


「…少なくともあの拳銃を持ってる手は実体でしょうからあれを足掛かりにすれば突破口が開けそうですね」


「幽霊なのに殺害手段が拳銃って新しいなあ…」


テレビ画面の向こうでは少年が殺されていた。血溜りの部屋、少年の腕がアップになり、赤い手形が映った。





そしてテレビ鑑賞も終わり辺りも暗くなった頃獄寺は沢田宅をあとにした。


帰り道に立ち寄ったコンビニの袋を片手に歩く。


夜でも夏は暑い。顔をしかめ、汗を掻きながら進む獄寺。





…その、少し後ろの電柱の影から獄寺を見つめる目玉が二つ。


目玉は獄寺がマンションに入るまで黙ってじっとしており、獄寺の姿が消えるとその姿を闇へと溶かした。





翌日。


「おはよーございます! 10代目!!」


「あ、獄寺くんおはよう」


いつものようにツナを迎えに来た獄寺。朝からでも日差しは強く少し歩くだけで汗を掻かせる。


「今日も暑いですね」


「そうだね。今日の体育とかやだねー」


笑い合いながら日常に浸る二人。と、ふと獄寺がツナに話を振る。


「そういえば、10代目」


「ん? なに獄寺くん」


「リボーンさんは大丈夫ですか? この暑さで参ってたりしてません?」


「リボーン?」


その名を聞くと同時、ツナは顔を変化させる。それは少し気難しい顔で。


「ど…どうなされたんですか?」


「最近…リボーンの姿を見ないんだよね」


「え、ええ!? どういうことですか!?」


「いや…なんか「用が出来た」って言って、それっきり…」


「用、ですか……」


「時々連絡は来るんだよね。それを聞く限りは元気そうなんだけど…」


「そうですか…」


俯き、リボーンの名を呟く獄寺。


そういえば最近…昨日ツナの家に行った時も姿を見せなかった。


てっきり暑さでばてていたとか、眠っていたとか思っていたが…まさか最初からいなかったなんて。


そんなことも今まで知らなかったのかと落ち込む獄寺と、慌てて宥めるツナ。





…そしてそんな、二人の様子を。


遠くで眺める影一つ―――――





それから、数日は一件何事もないかのように時間が過ぎていった。


いつもと違う点があるとすれば、二つ。


一つはリボーンは変わらず姿を見せないということ。どこにいるのか分からないが時折連絡をくれた。それも短いものではあったが。


もう一つは…獄寺の様子が、いつもと少しだけ違うこと。


物音に敏感に反応している気がする。気のせいと思ってしまうような、微かな音にさえ。


ツナが疑問を持って聞いてみるも、獄寺は曖昧な笑みを浮かべて誤魔化すだけだった。





そんな一日は今日も過ぎ。


そして今日も夜が訪れる。





獄寺は本を読んでいた。


…いや、違った。読んでなかった。本を開いてはいるが文字を追うはずの目は瞑られていた。


眠っているわけではない。獄寺の意識は冴えている。


獄寺は…辺りを探っていた。



…聞こえる。



それは微かな物音。


それはたとえば、風が窓にぶつかったかのような。


それはたとえば、猫が気紛れに頭を壁にぶつけたかのような。


それはそんな、僅かな、微かな…小さな音。


そんな音でも、何度も聞こえれば不審に思う。


何でもないで片付ける程獄寺は気楽な性格ではなかった。そんなことが思える職業に就いていない。


今日までも何度か確認しに行った。音の聞こえてきた場所に行き、確認する。


けれど…何もない。いつもと変わらない風景が広がっているだけだった。


けど、そんなはずはないのだ。


音は確かに聞こえた。


ならば…音が聞こえる理由がなくてはならない。


それがないということは…


………。



ガタッ



音が聞こえた。


獄寺は目を開けその音がした方角を見る。


…この音の原因はなんなのか、確認しなければならない。


獄寺は立ち上がり歩き出す。


その足の歩く先。


そこはキッチンで、用もないそこは当然明かりも消されており真っ暗だった。


だが、確かに音はここから聞こえた。


獄寺は気配を探り、しかし辺りからは感じないと知るやキッチンの明かりを付けた。


光明が広がる。見慣れた景色が姿を現す。


…何も変わったことはないように見える。何かが落ちていれば音をそのせいと出来たが何も落ちてない。


水道の蛇口から水滴が落ちる音が、シンクに響いた。


「………」


思考する獄寺の耳に、またも届く音は―――



ガシャン



硝子の割れる音。


思考を中断し、獄寺は窓硝子のある方へ。


目で見る前に風を感じ結果を知る。


開かれた窓枠の中に収まっているはずの、砕けた硝子が廊下に広がっていた。


石などは転がってない。誰かが悪戯で割ったのではない。


生暖かい風が獄寺の頬を触る。熱い夜の熱は外から中へ入り部屋を侵略する。


それに乗り、漂いまとわりつくは―――



(…血の臭い?)



物音がする。これは分かる。窓硝子が割られていた。これもまだ分かる。だが…血の臭い?


恐らくは誰かが自分を殺しにでも来たのだろうが…だが何故既に負傷している?


誰かを殺していてその罪を自分に着せるつもりだろうか。それとも…


考えながら移動する。今この中に不審者がいる。ひとまずはそいつを締め上げる。


進む先、警戒しながら歩く部屋の中。どこからか殺気が放たれる。


それは、真後ろから。



「!」



咄嗟に振り返り、防御の姿勢を取りながら相手の姿を見てやろうと目を凝らす。


その時、黒い小さな影が降ってきて―――


世界が闇に包まれた。



「!?」



ブレーカーでも落ちたのだろうか、明かりが消えた。


同時に銃声。身を伏せる。衝撃は来ない。



「………?」



外したのかと、一瞬そう思うが近くで血の臭いがする。知らぬ間に怪我をしたのかとも思うが痛みは感じない。


なら誰か別人に当たったのか。誰かが狙ったのは自分ではないのか。


考えつつも、ここは移動かと身を起こし立とうとしたその手を―――


誰かに握られた。



「―――――!?」



身体が強ばる。


こんな近くに誰かがいるなんて気付かなかった。


逃げようとするがその手は力強く獄寺の手を握り締め離さない。


焦る獄寺。その獄寺のすぐ横、逃げようとした先に銃弾が放たれた。



「…っ」



この手がなかったら食らってた。そのことを理解すると同時、手が離れる。


前に進もうとしていた勢いを殺せず、バランスを崩す獄寺。床に手を付くその隣を誰かが駆けた。


その大きさは…その小ささは……


考える間にも、すぐ近くで銃声が響く。そして気配がひとつ、また一つと消えていき…


やがて全ての気配が消えた。



「………」



暫く黙り、辺りの様子を伺ってみても…もう何の音も聞こえない。


ゆっくりと立ち上がり、暗い部屋の中を夜目で進む。


ブレーカーを上げて明かりを付ける。


辺りは血で染まっていた。


壁に、床に。血溜りが広がり所々には銃弾が。


ブレーカーが落ちてから一体何が起きたのだろうか。獄寺の知らぬ間、分からぬままに終わってしまった。


ひとまず掃除だろうか、と思いタオルでも取ってこようとして、ふと見えた手首。


そこには赤い、小さな手のひらの痕が付いていた。


それを見た獄寺はそういえばこの状況こないだ10代目のところで見たホラー映画とやらと似ているな、と思った。





「…で、事の真相は?」


「獄寺が狙われているという情報を入手してな…」


「それでストーカーしてたわけ?」


「人聞きの悪いことを言うな。せめて半ストーカーと言え」


いいのかそれで。と思いつつツナは話を促す。


「獄寺くんが気にしてた物音もリボーンなの?」


「馬鹿言え。オレがそんなヘマするかよ。獄寺を狙ってた奴だ」


実は舞台の影で結構壮大な戦いが繰り広げられていたらしい。


敵が獄寺を狙ってはリボーンが撃ち、敵が逃げてはリボーンが追う。その余波が物音として獄寺の耳に届いていたと。


「何? そんなに強い奴だったの?」


「相手が強かったというか、オレが弱くなった。力が上手く入らん。思うよう動けん」


「呪いが解けて何がどうなるかもわからない状況でよくやる…」


「ふ…これがオレの獄寺に対する…あ、あ、愛だ」


「言い淀むぐらいなら言うなよ…」


言いながらツナはリボーンに繋げられたチューブを見る。その中には赤い液体が流れている。


チューブの先にあるのは赤い液体の入ったパック。輸血袋。


「…獄寺くんから聞いた話、かなりの量の血があったらしいけど全部リボーンの?」


「だったらオレは死んでるな。オレの許容量以上の血が飛び散ってただろうから」


大半は獄寺を狙った敵のものらしい。リボーンが傷を負い血を流したのは一回だけ。すなわち…


「今まで隠れて陰から見守ってたのに獄寺くんが撃たれそうになって思わず出てきたって? なら最初から話して傍にいればよかったのに」


「ふ…それが出来れば苦労はしない」


(格好付けて言う台詞か…?)


「窓硝子のところも結構な血溜りが広がってたって聞いたけどそれは全部リボーンのなんでしょ? 大丈夫なの? 赤子って少しの出血でも命の危険に関わるって聞いたことあるけど」


「オレがアルコバレーノじゃなかったら危なかったな」


「もう呪い解けてんじゃんよ」


「呪いの残滓が残ってなかったら死んでたな」


もしかして呪われたままの方がよかったのかな、と思いつつツナは輸血パックの量が減ってきたので交換してもらおうとナースコールを押した。





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リボーンは黙ってろとか言ってるけど、さて獄寺くんになんて言おうかな。


リクエスト「獄が好き過ぎて半ストーカー化したリボ様が獄を庇って大出血サービス☆夏なんでホラー風味でwww」
リクエストありがとうございました。