リボーンがアジトを歩いていると、ソファで横になり寝息を立てている獄寺を見つけた。


暖房が効いているとはいえ、まだまだ寒い中。毛布も掛けずに。…いや、それ以前に……


リボーンは呆れの息を吐き、獄寺に近付く。


「獄寺。風邪引くぞ」


そう声を掛けてみるも、獄寺は起きる様子を見せない。


疲れているのは分かるが…無防備極まりない。


一応彼女は自分と恋仲ではあるが、彼女を思う輩は数多く存在する。…というか、そのほとんどが自分の教え子である。彼女も含め。


自分がいる手前、まさか獄寺に手を出そうなどとは思わないだろうが…いや、油断ならん。


ともあれ、今は目の前の獄寺だ。


起こそうと獄寺の肩に手を掛けると…その手を掴まれる。


そしてそのまま引っ張られた。


更に胸元に引き寄せられた。


………苦しい。


「…獄寺。なんの真似だ」


ふくよかな胸から顔を上げて獄寺を睨みつけるが…獄寺はすやすやと寝息を立てている。


………無意識だったのか。


リボーンは更に呆れた。


獄寺の顔はそれはそれは幸せそうで、それはそれでリボーンも心にくるものがあったがそれはふたりっきりの時に味わいたい。


なんていったってここは誰が来るとも分からぬ談話室。こんなところを目撃されて話題の種にされたら堪らない。


「はあ…獄寺。起きろ」


「ん……」


獄寺の目蓋が微かに動く。薄目を開く。


「リボーンさん…?」


「ああ…」


リボーンが顔を上げると獄寺の身に纏う香りが鼻腔を潜り―――…


「くしゅん」


思わずくしゃみをした。


「…リボーンさん? 風邪ですか?」


「くさい」


「え?」


「お前。煙草臭い」


「……………!?」


寝起きの頭の中。時間を掛けて何を言われたのかを理解して、獄寺の顔色が変わった。


あと、ついでに自分がリボーンを抱きしめている事にも気付いた。


「な―――え、えぇ!?」


獄寺は慌ててリボーンを手放し、身を起こしてリボーンと距離を取った。


「り、リボーンさん!? これは一体何事ですか!?」


「…お前が寝てたから起こそうとしたら、寝惚けたお前に抱きしめられただけだ」


「…!? す、すみません!!」


獄寺は顔を赤くして俯かせる。服装は少し乱れ、何故だかどことなく犯罪チックに見えてしまった。


「………眠いんだったら自室に戻って寝ろ。一応お前は女なんだ。身の危険ぐらい感じとけ」


「…身の危険?」


全然分かってなかった。


さっぱり自覚してなかった。


リボーンはため息を吐いた。





それから数日後。


以前と同じ談話室で、何やら真剣な表情をして何かを見つめている獄寺がいた。


「…何見てんだ?」


「はっ!! り、リボーン、さん…」


「…何驚いてんだ…」


あわあわと慌てる獄寺はとりあえず無視してリボーンは獄寺の手元にあるものを掴み取った。


「…香水?」


「り、リボーンさん!!」


「お前が香水なんて珍しいな。今までこういうのに興味なかったのに」


「え、ええ…」


「どうした? 何かあったか?」


「あ、あなたが前…!!」


「オレが? 前? なんだ?」


「……………」


リボーンは以前獄寺に言ったことなど綺麗さっぱり忘れたらしい。


「…なんでもありません」


顔を背けて誤魔化す獄寺。リボーンは手元にある香水を手に取り獄寺に付けてみた。


「…!? な、何するんですか!!」


「何って、付けるために買ったんだろうが」


「そうですけど、これは……いえ、いいです。ど、どうですか?」


「ん?」


「この香水…オレに合います?」


言って、少し緊張した面持ちでリボーンに向き合う獄寺。リボーンは獄寺に近付いてみた。そして。


「くしゅん」


くしゃみした。


「…悪い獄寺。その匂いは、オレは苦手だ」


「え…あ……そうですか…」


獄寺はしょんぼりした。


獄寺はとぼとぼとした足取りで自室に戻っていった。


「…?」


後にはよく分かってないリボーンのみが残った。





リボーンはさておき、獄寺サイド。


先日のリボーンの発言によりショックを受け、試行錯誤の末慣れない上に興味もない香水を悩みながらも購入して玉砕した獄寺サイド。


獄寺はしょんぼりとぼとぼと…犬の尻尾があれば垂れて地面に引きずられているであろうと想像出来るほどしょんぼりとぼとぼしながら歩いていた。


やはり慣れないことはするもんじゃない。しかしあのようなことを言われては…何か対処しないわけにはいかない。


…どうするか。


ひとまずは、この香水の匂いを落とそう。せっかく愛するリボーンに付けてもらってなんだが、しかしリボーンの好みでないのなら付ける意味などないのだ。


シャワーを浴び、匂いが落ちるよう念入りに石鹸で洗い…気分を一新させる。


…うむ。そうだ。もうつべこべ言わず、直接リボーンに聞きに行こうか。あなたはどのような香りが好みなのですか。と。


そうすれば意味もなく行き違いになることもないだろう。


どうしてと聞かれそうだが…理由の根源が自分にあることすらもう覚えてなさそうだが、そう思うとなんだか虚しいが、しかしまた同じことを言われるのだけは耐えられない。


よし、聞きに行こう。なんでもなにも、好きな人の好みを聞いて何が悪いのだ。


そう思って気を奮い立たせて、獄寺は再び談話室へ。こういうのは早い方がいい。


さて、まだいるだろうか…と思いながら扉を開く、と。


「……………」


リボーンは先程まで獄寺が座っていたソファで横になり、眠っていた。


そういえばもう夜も遅い。毎夜九時には床につくお子様気質のリボーンのこと。力尽きてしまったのだろう。


「…はあ。リボーンさん、こんなところで寝たら風邪を引いてしまいますよ」


リボーンに声を掛け、肩に手を掛けるがリボーンはまるで無反応だ。


これが獄寺以外の人間であれば即座に反応し銃口でも突きつけるのだろうが、それは獄寺の知らぬ真実である。


起きぬリボーンを放ってはおけず、獄寺はリボーンを背負いリボーンの部屋へと向かった。


暫く歩いて目的地に着き、獄寺はリボーンに声を掛ける。


「リボーンさん、起きてください」


獄寺は背中に声を掛ける…も、やはり反応はない。


それどころか、首元に顔を埋まらせられた。


「―――!? り、リボーンさん!? く、くすぐったいです、やめてください…!!」


未知の感覚に思わず怯みしゃがみ込む獄寺。その反動で流石にリボーンも目を覚ました。


「………ん?」


「あ…お…おはようございます、リボーンさん……」


「ああ…おはよう、獄寺」


「お休みなられるなら、ベッドの中でお願いします」


「運んでくれたのか…どうせならベッドの中までエスコートしてほしかったな」


「何言ってるんですか……」


夢心地で呟くリボーンに、呆れ顔で答える獄寺。リボーンは未だ眠そうだ。


「…よくお眠りでしたね」


「ああ、なんか知らんが、いい匂いがしたからな」


「え……?」


「じゃあ、おやすみ獄寺。また明日」


言って、リボーンは自室へと消えた。


パタンと閉じられる扉を見ながら、獄寺は暫し固まる。


今の状態は風呂上がり…香水を落とすように念入りに洗い………なるほど。


今日の収穫。リボーンは石鹸の匂いが好み。


目標・指針を見つけ獄寺は嬉々としながら踵を返した。


その後、早風呂だった獄寺が長風呂になり、妙に卵つるつる肌になって魅力が増し、獄寺ファンが更に増える事になるのはまた別のお話。





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最近よく声をかけられるようになったような…? なんでだろう。


リクエスト「女獄hshs」
リクエストありがとうございました。