オレはあなたを尊敬している。


…そのはずです。





- 偽りの園 -





世界は変わらずいつも通り。


昨日も今日も明日も明後日も、それは変わらず続いていく。


何も変わらない。変わるはずがない。


…そのはず、なのに。


………。


何かが、違う。


何が、どう違うのか、分からないけど。


いつも通りの…今まで通りの、オレではない気がする。


尊敬する10代目。日本で知り合った仲間。腐れ縁に、同盟ファミリー。


変わらない。何一つ。


変わったのは、たった一つの事柄。


あなたを視界に収めた、その時だけ。


あなたを見て、感じるこの思い。


これは…この思いは、なんなのだろう。


当たり前だけど、あなたはオレにいつも通り。


オレも、変わったといっても大したものではないから表面上はいつも通り。


ただ、内面が。心が。どこかが。何かが違う。


自分でもよく気付いたなと思える程の、小さな変化。


自分でもよく分からないから誰にも言えず、考えても分からず。


答えが出ぬまま、気付けば10年経っていた。


オレの、あなたに対するこの感情はなんなのだろう。


オレはあなたを尊敬している。


あなたのことをどう思っているんだと他人に聞かれたら、オレはそう即答する。


…だけど。


「尊敬」とは、果たしてこんな感情だっただろうか。


たとえば、同じく尊敬している10代目にもあなたと同じ感情を抱いているのだろうか。


その答えは………


………。


混乱する思考。纏まらない頭。


それでも表面上はいつも通りを装って。


裏ではあなたの思いに戸惑ってました。


…この思いが尊敬ではないのなら。


オレはあなたをどう思っているのでしょう。


自分のことなのに、それが分からなくて。


訳も分からず苦悩して。


それでも任務の間だけは、そんなくだらないことも切り捨てられたのに。


なのに―――


笑ってください。


この戦場で、今日の抗争で、こんな戦いの中で、苦しい死闘の中で、オレはあなたの姿を見つけて。


思わず息を呑んで。止まってしまって。


周りは敵だらけのど真ん中で、オレは固まってしまいました。


その隙を、見逃すような連中のいる任務でもないくせに。


だから次の瞬間、オレの身体が穴だらけになるのも当然のことで。


その時オレを見たあなたの顔が、少し驚いていたのが印象的でした。





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ここは偽りの園。自分の気持ちに気付かぬまま、分からぬまま過ごす偽りの園。