お前が死んで、周りは静かになった。
お前が死んで、世界は暗くなった。
- 哀しみの欠片 -
あの日のお前の判断が最善であったとは、オレは思っちゃいない。
だが、オレにはお前を止めることは出来なかった。
それほどお前の決意は固く。
それほどお前の状況は危うかった。
声しか交わせぬあの場では、説得など何の意味も持たず。
オレにはただ、あいつからの伝言を聞くことしか出来なかった。
お前の伝言を聞いたあいつらは一様に顔をしかめ、
お前の伝言を聞いたあいつは涙をこぼし、机に拳を叩きつけた。
お前が死んで、まるであいつらが死んだように周りは静かになり、
お前が死んで、こちらが死後の世界なのかと思うほど世界は暗く、重いものへと変わった。
お前がこの世界を見たら、きっと驚き何があったのだと問うだろう。
この世界がこうなった原因が、まさか自分にあるのだとは露にも思わず。
―――オレはあの日のことを思い出す。
お前が捕らえられたと報告が入り、急いであいつが戻ってきて。
殺気立ってる部屋の中で武具を用意していると電話が振動して。
何故だか、オレにはお前からだと分かって。
オレはこっそり部屋を出て、電話を取った。
お前の名を言うと、お前はオレの名を言って。
その声を聞いた時には、もう分かった。
お前の決意と、覚悟が。
それには気付かないふりをして、強い風の音を聞きながらオレは今の状況をお前に伝える。
お前は笑って、でも声から感じられるは変わらぬ決意。
お前は伝言をオレに告げる。
お前は遺言をオレに告げる。
電話越しから大きな音。追っ手が来たのだろうと、察しが付いた
お前は少しだけ早口で、己が世界から消えることを告げる。
これから自殺をするのだと、その声が言う。
オレには止めることが出来ない。
銃声が聞こえる。そんな中、お前はまたオレの名を呼んだ。
もうじき消え去るその声で。
オレを尊敬していたと。
オレを敬愛していたと。
そして―――
………。
どうして、最後の最後にそんなことを言ったのか。
一瞬言葉を失ったオレに、お前はもう一度オレの名を呼んで。
別れの言葉を告げた。
数秒経ち、何かが地面に叩きつけられたような音がして―――
「リボーン?」
ふと、声が聞こえ、オレは回想から戻ってくる。
目の前には、ツナがいた。
「…どうしたの? ボーっとして」
「なんでもない」
そう答えると、ツナはそう、と小さく言って業務に戻った。
………。
今でこそだいぶ落ち着いたが、あの日の…お前が死んだと告げた時の、ツナの荒れ様は酷かった。
血の気を失い、取り乱し、何故止めなかったのだとオレに掴みかかってきた。
その後怒りはオレよりお前を捕らえたファミリーに向かい、速やかに容赦なく報復が行われた。
…お前の亡骸も見つけ、持ち帰り埋葬した。
一区切りがついたが、世界は元に戻らない。
皆少しずつ落ち着きを取り戻しているが、まだ万全には程遠い。
世界は色褪せ、世界は静まり、お前の言葉だけが残った。
―――オレ、貴方のこと、きっと…
知らなかった。
気付かなかった。
お前がオレを思っているなどと。
お前自身も気付いてなかった…気付いても、自信の持てなかった思いだのだろう。
オレはお前のことをただの教え子の一人だと思っていたけど。
あの言葉を聞いてから、お前が死んでから。オレはお前を意識するようになったよ。
―――獄寺。
お前に言われて、お前のことを考えて、思ったんだが。
もしかしたら、オレも、自分でも気付かないほどの感情だったけど。
お前のことが、好きだった……のかも、知れないな。
今更気付いても遅すぎて。
思いを告げれる相手はどこにもいなくて。
オレは帽子を真深く被り直し。
今日も過ぎ去った日々を思い返す。
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それは切なくとも哀しい思い出の欠片。
お前の言葉に、気付いた感情に。返せるものは何もない。