オレはあなたを尊敬している。
そうに決まってます。
- 掠れ行く世界 -
それは、春の日。
桜の花びらが舞い、青空に流れていました。
あなたと初めて会った時も、この季節でしたね。
出会った当時は、ただただあなたに圧倒されました。
いや、10代目曰くオレも中々のものだったらしいですが。
でも、飛び抜けていたのはやっぱりあなたでした。
それは、夏の日。
蝉が生を謳歌し、大声で鳴いていました。
それを聞きながら、海に行ったり、花火を見たり。
まさかオレが、こんな表の世界を過ごすことが出来るだなんて。
想像すらしてなくて、驚きました。
オレでもこんな日々を送ることが出来るんですね。
それは、秋の日。
色鮮やかに染まった落ち葉。夜に鳴く虫の声。
昼とまるで違う賑やかさ。耳障りのいい夜の音。
日本が平和な国だって実感して。こんなところに長くいて、心が鈍らないかって少し心配して。
だから、時折依頼される仕事をこなせると安心して。
実はオレは裏と表の間で揺れていました。
それは、冬の日。
雪が降って、積もって。とても寒かった。
夏はあんなに暑いのに、同じ場所でも時期が違うだけでこうも違うなんてと驚きました。
何より驚いたのは、この平和な国の住人はその寒ささえ楽しんでいたということですけど。
向こうじゃ…あの世界では、寒さを楽しむなんて考えられなかった。
そして、それに順応していく自分にも驚きました。
―――そして、また春が来て。
あっという間に一年が過ぎました。
周りの奴らとも、少しずつ打ち解けて。
気付けば10年経っていました。
それだけ長い時間が過ぎても、あなたとの距離だけは変わりませんでしたけど。
オレは出来れば、あなたとも少しぐらいは打ち解けたかった。
何故ならオレは、あなたを尊敬してたから。
…胸の奥に湧き踊る、この感情。
これは、尊敬ですよね?
…ええ、尊敬です。そうに決まってます。
オレはあなたをずっと前から、尊敬してました。
言ったことはありませんでしたし、告げる気もありませんでしたけどね。
一度ぐらい、あなたと他愛のない話をしたり、洒落た店で食事ぐらいしてみたかった。
そんな夢も、夢のままに終わるのですね。
こんなことになるなら、不審に思われても少しぐらい強引に誘ってみればよかったです。
そんなの思ってみても、今更で。
―――ぼろぼろの身体で、偶然視界に入ったあなたを見つめる。
次の瞬間、オレの身体に銃弾が撃ち込まれ、視界は赤く染まり心は地に沈んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あなたを思う気持ちが掠れ行く。世界はこんなに色付いていただろうか?