数年前の話だ。



オレはある任務に発った。そしてそこで死を覚悟した。


けれど、オレは生き帰った。負傷した身で、生き恥を晒して。


オレはアジトに戻れたものの、五体満足とはいえなかった。


片足が完全に死んでいた。前線の任務に出れなくなった。


オレのマフィア人生はそこで終わった。本当に人生を終わらせようとも思った。


…こんな身で。こんな身体で。もう10代目のお役にも立てないのならと。



―――まぁ、結局はこうして生きてるんだけど。


みんなに説得されて。



あの雲雀にすら引き止められたのは意外だったな。むしろあいつは嬉々としてオレを殺しに来るのでは、と思っていんだが。


オレは今戦線から引退し…嵐のリングもベルフェゴールに渡して。書類整理だとか、訓練教訓官だとか、外交交渉役だとかしている。


…オレが弾丸の注文とかしている中、大きな抗争とかにみんなが行くと…行けないオレは留守番で。それが実はものすごく悔しかったりする。


こんな身になってなお死地に赴くのにまったく抵抗がないのは、オレがどこかいかれているからなのかそれとも男ならみんなそうなのか。ともあれ一人お預けってのはとてつもなく欲求不満だ。



あー、オレも行きてーなー。


でもこんな足じゃ陽動も暗殺も出来ねーしなー。


10代目の楯になって死にてーなー。



「なに考えてんだ?」


「10代目の楯になって………え?」



ふと聞こえた声に顔を上げれば、そこにはあの日。オレを助けに来た人が。



「リボーンさん…」


「今なに考えてたんだ?」


「え? えっと……」



リボーンさんは、普段は無表情ポーカーフェイスだ。


そのリボーンさんが、笑っていた。



「………」


オレも10代目ほどではないが、リボーンさんと長い付き合いだ。リボーンさんがどんな顔の時、どんな気持ちかぐらい分かる。


「………」


で、今のリボーンさんなんすけど、


「……………」



なんか知んねーけど、むちゃくちゃ怒っていた。



「今、くだんねーこと考えてたな」


「いえ…あの……その、」


そーいえば前、似たようなことがあったなー…あの時は10代目だったけど。今と同じく「あー、10代目庇って死ねたらなー」とか思ってたらなんか知んないけど笑顔で、





「ねぇ獄寺くん? オレ言ったよね? 獄寺くんに死なれるほうが辛くて迷惑だって、前言ったよね? なのになんでそんなこと思えるわけかなぁ?」





って言われたなぁ…てかなんでみんな普通に思考読めるんだろう。プライベートも何もなくなる気が。


「そんなことはどうでもいい」


マジすか。


「お前そんな死にてーのか?」


「死にたい…と申しますか、」


やっぱ男として生まれたからには華々しく散りたいなぁ、とか、裏方事務で生涯終えるのはつまらないなぁ、とか。思ったり思わなかったりですね。


任務に出れるみんなが羨ましいなぁ、とか、オレも戦いに出たいなぁ、とか、ぶっちゃけこんなの生殺しだなぁ、とか、むしろこんなの死んでるのと同義だ! とか!


「……あー、分かった分かった分かった分かった」


リボーンさんがぽんぽんとオレの頭を撫でる。子供扱いされても腹立たないのはこの人だけだ。


「足の具合はどうなんだ? 獄寺」


「あ……ええ、おかげさまで大分」



リボーンさんがオレの足に目を向ける。


服で隠れているが、そこにあるのはもうオレの肉ではない。


動かない足は取っ払い、今は義足が取り付けられている。


車椅子無しでは移動出来ないだろうと一度言われたオレも、リハビリを重ねて。今では杖有りでだが歩けるようにまでなった。



「そっか。走れるようにはなるのか?」


「努力次第だとシャマルは言ってました」


「そっか」


リボーンさんはまたオレの頭をなでて、



「じゃあ、走れるようになったら、オレが任務に連れてってやるよ」



「え…?」


オレは耳を疑った。


てか、そんな、結構命の危機とか普通にあるようなとこに、今度遊びに行くかぐらいの口調で誘われていいのだろうか?


「オレとじゃ不満か?」


「いいえ決してそんなことは」


てか、オレ、…行っていいんですか?


「任務に出れないのはつまらなくて生殺しで死んでるのと同義なんだろ?」


「まぁ…」


「なら、それをどうにかしてやるのもオレの役目さ」


「リボーンさん…嬉しいですけど、でも後ろから見るだけってのはなしですよ?」


「安心しろ。お前を囮に使ってやる」


「―――重要ポジションですね! 頑張ります!!」


「ああ。じゃあオレはもう出るからな」


「……任務ですか?」


「そうだ。…言っとくが、お前は留守番だからな」


「…言われなくても分かってますよ。…ああ、やっぱり早くこの足をもっと自由に動かせるようになりたいです」


「なんだ、そんなに血が騒ぐのか?」


「まぁ、それもありますけど………」



………。



「…それもありますけど…なんなんだ?」


「あ、いえ…なんでもありません」



…オレはリボーンさんが好きだけど、果たしてリボーンさんはオレのことをどう思っているのだろうか?


以前なんだかとっても甘い言葉を頂いた気もするのだけれど、あれは夢の中の出来事なのかそれとも現実での出来事なのか判断し辛い。確認する度胸もオレにはない。


…いや、オレたちは一応は恋人関係のはずなんだ。そのはずなんだ。リボーンさんがあまりにも素っ気無いから時々忘れかけるけど!


いや、リボーンさんは最初からそういう人だ。そんな人だって分かっているのに過剰な期待をしてしまうオレが悪いのであって…うう、リボーンさんごめんなさい…でももう少し優しくしてほしいです……



「お前は本当に面白いな」


「え、」



リボーンさんがまたオレの頭をぽんぽんと撫でる。見上げればリボーンさんはどこか呆れたかのような顔で、でも笑みを浮かべていて。


面白いって、何がだろう。そう思って思い出す。そうだ、リボーンさんは読心術が出来るのだから、オレが考えていることも全部お見通しなんだ。


で、オレ何考えてたっけ。と思い同時にぐあ、と呻き声を出す。…今すぐ全てをなかったことにしたい。


そんなオレを見てか、クックと、リボーンさんの口から笑みが零れてる。ああ、前にもこんなことがあったような気がする。…いつだっけ、どこだっけ? 思い出せない。



「まぁ、あれだ。出来るだけ早く帰ってきてやる」


「え?」


「で、リハビリとかにも付き合ってやる。緊急時な用事以外、お前の傍にもいてやろう」


「え、え、え、え?」


「ちなみに、今がその緊急時だからな。だからオレは行くんだが、本当はお前といたいんだぞ?」


「リボーンさん、ちょっと、」



オレはなんとか、それだけ声を出す。ちょっと、待って下さい。そうしてくれないとオレの頭がパンクしそうです。



「ん?」


「急に、いきなり……どうしたんですか? やけに………いつもと違いますけど」


「いつもとどう違うんだ?」


いつもよりも優しいです。


「いつもよりも饒舌ですね」


「だろ? オレは口数は少ない方だからな」


「そうですね」



教師や接触任務時等のリボーンさんは、よく喋る。仕事だからだ。


けれど一転してこれがプライベートになると本当に喋らなくなる。口下手、というよりは単に声を発するのが面倒なように見える。


「その通りだ」


そうですか。



「だから結構誤解受けやすいんだよな。仕事をしている方が楽しいんじゃないのか、自分といるのはもしかしたらつまらないんじゃないのか、とか」


分かる気がします。



「でも、そんなことはねーんだぞ」



静かな声が、心地よくオレの耳に入ってくる。


オレは一瞬惚けて。


リボーンさん、と言いながら顔を上げようとした。


けど、それは出来なかった。


「うわ、」


さっきまでぽんぽんと軽く、オレの頭をはたくように撫でていたのに、急にわしわしぐしゃぐしゃと、髪を乱させるように撫でてきて。


「リ、リ、リボーン、さ、」


オレがなんとかリボーンさんの腕をほどいて、少し回った頭を落ち着かせる間に…リボーンさんはいなくなっていた。



………。



まずオレは頬を抓ってみた。普通に痛かった。


…夢…じゃないよな?


さっきまでのリボーンさんは実は今まで寝ていたオレが見た夢だったんじゃないのか…と思ってしまったのだが、幸運なことに現実みたいだ。



「…リボーンさん…照れるぐらいなら言わなければよかったんじゃ、」



言って、気付く。


そうだ。本当ならあの人はそんなこと言わない。それこそ普通にオレをあしらって、からかって。そのまま任務に行くだろう。


…そうじゃなく、あえて饒舌になって。オレに構ってくれたのは…



「オレが、望んだから…」



………。


うわああああああ。


顔が赤くなった。リボーンさんの心遣いが、優しさが嬉しかった。申し訳ない思いもあるがやっぱりそれ以上に嬉しい思いの方が強い。



暫くそうしていたが、やがてオレはよっと一声掛けて。オレは杖を持って立ち上がる。まだ少しふらつく。


…とりあえずシャマルのところに行こう。リハビリに付き合ってもらおう。


リボーンさんが帰ってくるまでに、流石に走り回るまでは無理だろうけど。


でも、もしかしたら頑張れば、杖なしでリボーンさんを迎えることは出来るかも知れない。


もうあそこまでされて、ただ待ってるだけなんてオレには出来ない。


待ってて下さい、リボーンさん!


オレは急いで、医務室まで足を勧めた。







* * *


一方、その頃のリボーンは、



「あれ? リボーン遅かったね」


「ああ。悪い、待たせたな」


「いや、それはいいんだけど………」


「…どうした?」


「…なんで顔赤いの?」


「気のせいだ」


「……………」


「気のせいだ」


「はいはい…」



普段慣れないことして、かなり照れていた。





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気のせいね。はいはいそういうことにしといてあげる。


リクエスト「たとえ傷付き倒れても」続きで、リボ獄甘絡み」
リクエストありがとうございました。