オレは早口にそう言って退室しました。

ドア越しにリボーンさんの笑い声が響いてくることを期待しましたが、それもありませんでした。誰か冗談だと言って下さい。


身体が熱いのは何故でしょう。

動悸が激しいのは何故でしょう。

硝子に映ったオレの顔が―――とても嬉しそうなのは何故なのでしょう。


リボーンさんなんて嫌いです。

だけど、リボーンさんはオレが好きだと言います。


迷惑です。

迷惑に決まってます。


当たり前じゃないですか、嫌いな人に好かれて嬉しい人なんていません。

なのにどうして心が弾むように気持ちが高ぶっているのでしょう。


分かりません。本当に。


オレは訳の分からぬまま、その日を終えました。そして全てが終わりました。





     オレは愚かでした。





それこそリボーンさんの言う通り。

このときのオレは、理由も分かってなかったくせに浮かれていました。自分の気持ちを抑えるので手一杯だったのです。言い訳にもなりません。


翌日、オレは宣言した通りにリボーンさんの病室へと向かいました。人集りが出来ていました。何事でしょう。

人波をかき分けようとすると、10代目が見えました。10代目もオレに気付きました。


「獄寺、く…っ」


10代目がオレに抱きつきます。

10代目は声も身体も震えていて、オレは10代目は泣いているのだと知りました。一体なにがあったのでしょう。


周りの人間たちを見ても、皆一様に辛そうに何かに耐えているようでした。中には泣いてる人もいます。

そういえば、集まっているのはみなリボーンさんと何かしら縁のある人たちでした。姉貴もいます。跳ね馬もいます。


…その、皆が皆。辛そうなのは何故でしょう。


オレのスーツをぎゅっと握り締めていた10代目がやがて俯かせていた顔を上げました。

10代目は状態に着いていけてないオレに一言、


「リボーンが…!」


リボーンさん? リボーンさんがどうしたんですか?





そしてオレは、リボーンさんが亡くなったことを知らされました。

昨日のことでした。


それはオレが部屋を出てからほんの数時間後のことでした。

リボーンさんが亡くなったのだと知って、オレは胸に見えない穴が空いたような感覚を味わいました。それはとてつもなく大きな虚無感でした。


そして愚かなオレは、それでやっと自分の気持ちに気付けたのです。

オレはリボーンさんを尊敬している以上に、リボーンさんが好きでした。

自分の気持ちに気付くと同時に、これが恋なのだと知りました。



そして恋を知るのと同時に、

オレは失恋を味わいました。



今更この想いに気付いても、もうどうしようもありません。

気付いたときには、遅すぎました。

オレがあの人にこの気持ちを伝える術は、もうどこにもありません。





- 数年後 -



今日はリボーンさんの回忌です。

最強のヒットマンであり、皆の先生でもあったリボーンさんを悼む人は多く、今年もたくさんの人間がお墓参りをします。


オレもその中のひとりです。


オレは毎年変わらず同じ花を供えます。この時期に咲く、小さな花です。

…と、気付けば10代目がオレの隣に立っていました。


「綺麗な花だね」

「ええ。好きな花なんです」


オレは微笑んでそう言いました。

…オレの気持ちはあの人に届くでしょうか。





オレの想いも気持ちも全部この花に詰め込んで。

オレは今日もあなたを想います。

届かぬあなたを想います。





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オレの恋を知って下さい。