そう言って、オレはまるでゼンマイ仕掛けのオモチャのように椅子に戻りました。



「………? どうしたんだ? お前」


リボーンさんが怪訝顔で聞いてきます。

オレはなんでもありませんと返しました。


「…なんでもなくはないと思うが…」


そう言われたってなんでもないと言ったらなんでもないんです。

ただ何故だか分かりませんが、オレは今とても嬉しいみたいです。理由は不明です。


それからオレは、高ぶる気持ちも抑えないままリボーンさんと話をしました。

いえ、どちらかというとオレがリボーンさんに一方的に喋っていただけかも知れません。

そのことに気付いたのは結構な時間が経ってからでしたが、リボーンさんは多少呆れ顔ながらも微笑んでいましたので大丈夫だということにします。


たくさん喋りました。

こんなに喋ったのは……ましてやリボーンさんと二人きりで会話したのは。これがきっと初めてでした。


楽しかった。

嬉しかった。

これだけは事実です。


…誰にも、知られることはないだろうけど。





初めに反応したのはリボーンさんでした。

リボーンさんに続いて、遅れてオレも気付きました。


遠くから―――やってくる何か。

オレが身を動かした時にはそれは既にすぐそこまで来ていました。


病室のドアが打ち破られます。

外から男が入って来ました。見知らぬ男です。

リボーンさんの見舞い客でないことは明らかです。


だって手に抜き身の銃を持っていたのですから。


銃は真っ直ぐにリボーンさんへと伸ばされてました。

あのまま引き金が引かれれば凶弾がリボーンさんに当たってしまいます。

オレに考えるだけの時間はありませんでした。



「リボーンさん!!!」



オレはリボーンさんの身に覆い被さりました。

リボーンさんはオレより小さな子供なのだと、初めて実感しました。


リボーンさんの目が見開かれます。


―――ああ、こんなに間近でリボーンさんの顔を見たのはもしかしないでも初めてです。

…と、リボーンさんの口が動きました。

続いて、声が漏れました。


それは懐かしい、昔の発音の声でした。





- 数年後 -



今日は彼の回忌です。

彼の墓にはたくさんの人が訪れてます。彼は慕われてましたから。

様々な人間が集う中、オレは彼を思い出します。


…あの日。彼は、獄寺くんは帰らぬ人となりました。

リボーンの命を狙う刺客から、身を挺して守って。

刺客はリボーンの手で始末されました。


襲撃があってからすぐに人が駆けつけましたが…獄寺くんは既に息絶えていました。たった一発の弾が彼の命を奪ってしまったのです。

…そしてそれから、獄寺くんの話題を出す者はいなくなりました。

もちろん獄寺くんのことを忘れているリボーンからも彼の話は出てきません。ただ、毎年必ず墓参りには来ますが。

リボーンは今獄寺くんの墓標に赤い花を添えてます。


…あれ?


ふと、オレは思いました。

あの花…確か、去年もリボーンは添えていたように思えたのです。

いいえ、去年どころでなく…その前も、もしかしたら更にその前も。同じ花を添えていたように思えるのです。気のせいでしょうか?


そして………あのような花は、生前の獄寺くんが好きそうな花だったと思うのです。

獄寺くんのことを覚えてないリボーンが、どうして獄寺くんの好みの花を添えれるのでしょうか。

これは偶然でしょうか? それとも………


オレはリボーンの隣に立ちました。



「綺麗な花だね」



オレはそう言いますが、リボーンは無言です。


「…きっと、獄寺くんこういう花好きだと思うよ」

「―――そうか」


そう言うリボーンは、とても哀しそうでした。そしてオレの中の憶測が確信へとなっていきます。

オレは言葉を放とうと口を開きました。だけどリボーンはそれを制するように、帽子を深く被り直して立ち去りました。

リボーンが去って、オレひとりになりました。オレは獄寺くんの墓標の前に向き直ります。


「綺麗な花だね」


オレは獄寺くんに語りかけるように、そう言いました。

オレは彼が目の前にいたらどんな顔をするのか、どんなことを言うのか想像してみました。

きっと彼は照れくさそうに、でも幸せそうに…笑って。



ええ。オレもこの花、大好きなんですよ。



そう言ってくれると、思うのです。





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お前との思い出。