目が覚めると、そこは暗闇だった。



「………?」



ここは……


どこかぼんやりとした頭で、何とか状況を整理しようとしていると、



「起きたのか?」



静かな声が聞こえた。


それはリボーンさんの声。


少しだけ顔を傾けて視線を延ばせば、そこには闇に溶けるようにリボーンさんがいた。



「………?」



オレ…? と、声を出したつもりだった。けど、出なかった。


リボーンさんは開いていた本を畳んで、その手をオレの瞼の上に置いた。



「まだ、寝ていろ。身体に障る」


「………、」



分かりました、と、そう声を出したつもりだった。だけど、出なかった。


でも、きっとリボーンさんには伝わってる。リボーンさんは、そういう人だ。



…瞼の上に感じる、リボーンさんの手のぬくもり。


それに、なんだかオレは安心して。


そのままオレは、再度眠りに落ちていった。





次に目が覚めると、そこは明るかった。


そこで、どうやらオレは病院のベッドで眠らかされていたのだと知った。


あと、身体に巻かれている包帯やらガーゼやら、腕に刺されたチューブの先の点滴とかで自分は怪我してるんだ、とか。


ぼんやりとしながら記憶を遡らせると、大体思い出した。



オレはある任務に就いていて。


そこで怪我をして。



……ああ、オレ、生きて帰れたんだ。



今更ながらにそのことに気付いて、苦笑する。



どれだけ眠っていたんだろう。


任務はどうなったんだろう。



あの時リボーンさんに聞いとけばよかった。





―――って、リボーンさん?





はて、とオレは首を傾げた。


そういえば、どうしてリボーンさんがいたんだろう?


わざわざ見舞いに来るような人じゃないのに。


しかも、あんな時間に。


分からないので、リボーンさんに直接聞くことにした。


だけど。





「いないんですか?」


「ついさっき任務に出て行ったよ。…緊急の用なら連絡するけど?」


「いえ、それほどの用じゃないんです」



リボーンさんは少し前に任務に出たらしい。


まぁ、なら、帰ってきてから聞けばいいか。



そのときは、そう思った。



だけど、リボーンさんはなかなか帰ってこなかった。


仕方がないので、思い切って10代目に聞いてみた。





「10代目」


「ん?」


「前、オレが怪我して帰ってきたときがあったじゃないですか」


「怪我っていうか、重傷ね」


「あの時オレ、リボーンさんに会ったんですけど」


「え? いつ」


「オレが起きる前の日の、深夜です」


「リボーンを見たの?」


「見ました。声も掛けてもらいまいた」


「………ああ、」



10代目が納得した風に頷いた。何か知ってるみたいだ。



「…リボーンさんは、どうしてあんな時間にオレのところにいたんでしょう」


「獄寺くんが心配だったんだよ」


「まさか」



10代目の意見を否定するなんて恐れ多いことなのだけど、オレは思わず声に出していた。


だって、それは、流石にないでしょう。いくらオレが騙されやすくてもそれには引っかかりませんて。



「いや、リボーンはいつも獄寺くんを心配しているよ」


「そうですか…?」



オレは記憶を遡らせてみる。


リボーンさんには、正直罵倒されたりとか、怒られたりとか。そんな記憶しかない。



「リボーンは外見と同じく精神年齢子供だから。好きな子には冷たくしちゃうの。…本当仕方ないよね。実際は馬鹿みたいに年食ってるくせに」


「…好きな子って、10代目…」


「あ、ごめん口が滑った」


「………」



どうにもこんなときの10代目の言葉は飄々としていて、本気なのか冗談なのか判断に困る。


いや、間違いなく冗談なのだと思うのだけれど。



「冗談なのだと思うのなら、リボーンに聞いてみたら?」


「…そうですね」



オレは10代目からリボーンさんの番号を聞いて、電話を掛けた。


どうせ「馬鹿かお前は」とか何とか言われるのがオチだ。そうとも、それが現実。



あの日のあの夜も、きっとオレの願望が夢に出ただけなんだ。そうに決まってる。


夢を見てるままで終わらせておけばよかった。分かりきった現実を見なければよかった。



オレの夢の中だけに、都合のいいあの人がいてくれればよかった。



そんなことを思っていたら、誰かが出た。誰かなんて決まってる。リボーンさんだ。さぁオレの夢を壊しに行こう。



『………誰だ?』


「オレです、リボーンさん」


『獄寺?』


「10代目から聞いたんですけど、リボーンさんオレのこと好きなんですか?」



ブツッ



切れた。



…流石リボーンさん…



「10代目、切れましたけど」


「照れてるんだって」


「呆れただけだと思いますが……」



と、今度は10代目の携帯に電話が掛かってきた。席を外そうすると、手で制された。同席してもいいらしい。



「リボーンから電話が掛かってきた」


「リボーンさんから?」



仕事の電話かな、とそう思った。


10代目はニヤニヤと笑いながら通話ボタンを押した。



『―――ツナてめぇ!!! 一体獄寺に何を吹き込みやがった!!!』



今まで聞いたことのない、リボーンさんの取り乱した声が大音量で聞こえた。


………リボーンさん?


10代目は相変わらずニヤニヤと笑っている。



「…いや、別に? 話の流れでそういう会話になったんだよ」


『オレが自分で言うから黙ってろって言ってただろうが!!!』


「そう言ってもう何年だよ。リボーンに任せてたら軽く500年は掛かりそう。オレたちはそう長生き出来ないの。早くしないリボーンが悪い」


『だからって…お前なぁ!!』



リボーンさんと10代目の会話が聞こえる。


けど、それはあまりオレの耳に入ってこない。


今の、リボーンさんの言葉を、整理するのに頭がいっぱいで。


…今、リボーンさん…なんて言った?


オレが自分の都合のいい幻聴を聞いていないとするならば、今……



「…から」


「え?」



気が付けば、10代目は携帯を仕舞っていた。いつしか会話は終わってたみたいだ。



「というわけで、一ヶ月内に獄寺くんはリボーンに告白されるから」


「え…えぇ!?」


「あれ? 聞いてなかった?」


「お恥ずかしながら…」


「…そういえば放心してたもんね獄寺くん。…まず、あのね、さっき言った、リボーンが獄寺くん好きって言ったのは冗談だから」


「え?」


「…そう言う代わりに、リボーンが帰ってきてから一ヶ月以内に獄寺くんにマジ告白をするよう言ったから。…言わなかったら、リボーンがどれだけ獄寺くんを今まで想っていたか全部ばらすって脅してね」



脅すって…10代目……



「だから、一ヶ月以内に獄寺くんはリボーンから想いを告げられるよ」


「……………」



10代目の言葉の意味を…考えれば考えるほど、分からなくなる。


たった数十分、10代目と話しただけなのに一気に状況が変わってしまった。


この状況に、オレの心がついていけない。



「…10代目」


「なに?」


「…何かいい任務はありません? 出来れば遠い地に出て、長く帰って来れないのが理想なんですが」


「だめ」



笑顔で言われてしまった。



「ていうかね、ないの。そういう任務は現在リボーンが絶賛片付け中」



…道理でなかなか帰ってこないと。



「だから、獄寺くんはただ待ってて」


「………きゅう…」



どうにもこうにもいかなくなって、思わず意味不明な鳴き声すら喉から出てくる。


リボーンさんが任務から戻ってくるまで、どれだけ長く見積もってもあと数週間。


とりあえずオレは、それまでに覚悟を決めて、あとこの顔をどうにか治すことにした。





こんな真っ赤な顔、リボーンさんには見せられない。





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あなたにもオレにも、時間が必要みたいです。