いつものように気怠い朝。
その日は学校のない土曜日。けれどオレは朝から身支度を整えて外へ出る。
何故ならば今日は、10代目の家へとお呼ばれしているのだ。
どこか心が浮ついているのは敬愛する10代目に会えるからだろうか?
それとも―――…
隣の芝生は青い
「ごめんね獄寺くん。せっかくの休日に呼び出したりしちゃって…」
「何言ってるんですか! 大歓迎ですよ!!」
笑ってそう言えば、10代目も笑ってくれる。
…けれど、はて。…どこか10代目の顔が赤いような。
「…10代目? 大丈夫ですか?」
「ぇ!? ぁ、うん、大丈夫だよ!?」
じっと10代目を見つめて問い掛ければ、上擦った口調で答えられる。
…心なしかさっきよりも赤くなってるような…?
「オ、オレ! 飲み物用意してから部屋行くから! 先に行ってて獄寺くん!!」
「あ、お構いなく―――…って、」
オレの声が終わらぬうちに、10代目はダッシュで台所へと向かって行ってしまった。
…どうしたんだろう10代目。
ともあれ、オレは10代目に言われた通りに先に部屋へと向かわせてもらうことにした。
「…失礼します」
声と共に扉を開ければ…中は無人の部屋で。
…いや、違う。小さな身体が小さなハンモックの上でゆらゆらと揺れていた。
リボーンさんは…お休みの最中だったか…
オレはリボーンさんを起こさぬよう務めながら静かに移動して…その途中にあの人を見る。
…小さく可愛らしい赤ん坊。
けれどそれは最強のヒットマンで、
姉貴の愛人で、
10代目の家庭教師で、
ボンゴレ9代目の信頼者で、
…そして、オレの―――…
「ガッハッハ、今日こそリボーンを亡き者にしてやるもんね!」
「リボーンさんの安眠を邪魔すんじゃねぇ」
「ぴぃ!?」
窓を外から空けられると同時に飛び出てきた小さな影にそう言ってやる。
ランボは登場一番にいきなり睨まれるとは思ってなかったらしく、見れば既に涙目になっていた。
「ら…ランボさんはおまえなんか怖くないもんね! 馬鹿ー!」
「だから騒ぐんじゃねぇ…っ」
きゅーって締めて大人しくさせてやろうか。
半ば本気でそう思い、行動に移そうと身を動かすと…ランボはいつものように最終兵器を持ち出してきた。…毎度お馴染みの、あれだ。
…今のこいつと10年後のあいつは果たしてどっちが大人しいだろうか…10年後の方はうるさいって言うかうぜぇんだよな…
そう少し思案した所で気付いた。
バズーカがオレに向けられていることに。
はっとした時には既に遅く、身には何かが当たる衝撃。目の前は白い煙で包まれていた。
「……………けほ、けふっ」
多少の煙を吸ってしまい、思わず咽る。
煙が晴れても、まだ器官に変な感触が残っていて暫く咳き込み続けていた。
「…大丈夫か?」
唐突に掛けられた、どこか笑いを含ませながら問い掛けてくるその声の主は…
「リボーン…さん?」
涙目で目の前を見れば、
「ああ、そうだぞ」
ほぼオレと身長の変わらない黒髪で黒目の少年が…そこにいて。
「―――、」
思わず息を呑む。
…10年は凄いのだと、オレは本気で思った。
だってあんなにも小さかった赤ん坊が…こんなにも大きく成長するのだから。
「どうした獄寺。そんなにオレを見つめて…オレの顔に何か付いているか?」
「え!? あ、すいませんリボーンさん! その、ちょっと見惚れてたって言うか…」
「見惚れてた?」
「あ、いえ! そのそうじゃなくて…その、」
オレが言葉に迷っているとリボーンさんはクックと笑みを溢す。
「…お前、10年前はこんなにも可愛げがあったんだな。今のお前にも少し分けてやりたいもんだ」
か、可愛げ!?
思わぬリボーンさんからの言葉に思わず口をぱくぱくしてしまう。するとリボーンさんは更に笑って。
「…育て方を間違えたな…今のお前のままで成長させるべきだった」
育て方って…リボーンさん。
「…10年後のオレ…そんなにも変わるんですか?」
「そうだな。今のお前とじゃ似ても似つかねぇぞ」
一体どれだけ変わってしまってるんだろう…
「…知りたいか?」
「…まぁ」
なんて言ったって未来の自分のことだ。
それに…あのリボーンさんに育て……………指導して頂いた自分自身。
気にはなる。
「そうだな…今の―――10年後のお前は…」
―――数分後。
オレは現代へと戻って来ていた。
そこはオレがいない五分の間に何があったのか…ランボはイーピンと遊びまわり10代目はその後を追っていて。
どこかぼんやりとしながらその光景を見ていたら…
「獄寺」
あの人に声を、掛けられた。
「リボーンさん。…起きてらしたんですか」
「あー…まぁな」
「? どうかなさいましたか? …あ。まさか10年後のオレがリボーンさんに何か粗相をやらかした…とか!?」
「粗相っつーかなんつーか…まぁ、驚かされたな」
「んな…!」
じ、10年後のオレ…! 何をしたかしらないけどリボーンさんになんて働きを!! 許すまじ!!
「お前こそ戻ってきた時ぼけっとしてたが…どうしたんだ?」
「え? …えっと…その、ついさっきまで、10年後のリボーンさんと会っていて…」
「オレと?」
「はい。…で、……成長していたリボーンさんてばとても格好良くて。見惚れてしまい思わずぼんやりとしてしまってたようです」
「………」
「…? リボーンさん?」
何故かリボーンさんはいきなり黙ってしまった。
…しかも…もしかしてオレ…リボーンさんに睨まれてます?
「…リボーン、さん…? あの…」
「………なんだ?」
「いえ、その……リボーンさん…どうかかなさいました…?」
「別に」
そうは言うがオレの背には冷や汗が流れる。
だってなんか。リボーンさんの言葉の温度下がってるし。
「まったく…10年後のお前にはびっくりしたが今のお前にはがっかりだ」
リボーンさんはやれやれとため息を吐きながら、短く言葉を吐いた。
「少しは10年後の獄寺を見習え。すっかり見違えたぞ」
「ぅう…すいません。…オレ、10年後のリボーンさんと一緒にいたオレみたいになれるよう努力します!」
「どんな奴かも知らんだろうが」
「大丈夫です! 10年後のリボーンさんから大体聞きましたから!」
「………」
ってなんでまたオレを睨みながら黙りますかリボーンさん!!
「…えっと、リボーンさん」
「…なんだ」
「リボーンさんから見た10年後のオレは…どんな感じでしたか?」
「オレからもう聞いてんだろ? 言う必要はねーな」
リボーンさんはそっぽを向いてしまった。
…取り付く島もない。
「うう…分かりました。オレなりに頑張ってみます」
「ああ」
「………」
「………」
「……………」
「……で、何やってんだ? お前は。オレになんか用か?」
「用っていうか…その、10年後のリボーンさんによると。ですね」
「…ああ」
「10年後のオレは、ずっとリボーンさんとくっついて。離れないそうです」
「………」
…リボーンさん、今なんでちょっと照れたんだろう。
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聞きたいけど、聞いたらなんとなく殴られそうだから聞かないでおこう。
リクエスト「10年後リボ様と中坊獄の一日」と「ヤキモチを妬くリボーンさん」in 獄寺くん編
風下様へ捧げさせて頂きます。
リクエストありがとうございました。