仕事を終わらせたのが、日付の変わる少し前。


アジトに戻ると呼んでもないのに連絡も入れてないのにあいつは当然のようにそこにいて。


「お帰りなさいリボーンさん。ご無事で何よりです」


「ああ。…今戻ったぞ」


そう言うと同時に、鐘の音が鳴り日付が変わった。


オレも目の前にいる獄寺も、今からオフになった。





隣の花は赤い





「お疲れ様です。お休みになられますか?」


「眼が冴えてんだ。少し付き合え」


「それは構いませんが…」


「ん?」


「子供は寝る時間ですよ?」


「…寝る前にお前と構ってやるっつってんだ。それともお前は嫌か?」


「とんでもない。そういうことでしたら喜んで御付き合いさせていただきます」


獄寺は柔らかく微笑んで飲み物を取りにいった。


少しぐらい照れてほしかったんだが。





「そういえばリボーンさん、怪我とか負ってませんよね」


「お前オレを誰だと思ってんだ? んなもんするわけねーだろ」


「…リボーンさんなら気紛れでわざと攻撃に当たって「ハンデだ」とか言いそうです」


「今回はしてねぇよ」


「…つまり前してたときがあったんですね…」


頭を抱えられてしまった。


「もう少しご自分の身体を大事にして下さい。困るのはオレなんですから」


「困るのか?」


「ええ。まず10代目がお怒りになります。それとボンゴレの士気にも影響が出ます。周りを整えるのはオレです」


「なんだ。悲しんだりはしてくれねーんだな」


「もちろん悲しいですよ? 当たり前じゃないですか」


「ならそれだけ言えばいい。他のことなぞ興味ねーよ」


「?」



獄寺は首を傾げた。


意味分かってねーのかよ。



「…ったくお前可愛くねーな」


「男ですから」


「そういう意味じゃない」


「どんな意味であっても男に可愛いはないと思いますが…」


「本当に可愛くねーな」


「…どうも」



…そこは礼を言うポイントじゃねーよ。



「―――そういえば、あれからもうすぐ10年ですね」


「あれ?」


「ええ。…覚えてませんか? ほら、オレが10代目の…」



そういう獄寺の言葉は急に途切れた。


ついでに姿も消えた。


替わりに現れたのは、白い煙とそれから―――



「……………けほ、けふっ」



手軽でお手頃サイズに縮んだ…獄寺の姿。


…ああ、そういえばそんなこともあったな。懐かしい。


「…大丈夫か?」


涙目でこちらを見上げてくる幼い獄寺に、思わず笑みが零れた。


こんなにも無防備な獄寺、今では見れない代物だ。


声を掛けられた獄寺はぴくりと震えて。


「リボーン…さん?」


獄寺はオレの姿を見ると固まった。


はて。今日は返り血は付いてないはずだが。


「どうした獄寺。そんなにオレを見つめて…オレの顔に何か付いているか?」


「え!? あ、すいませんリボーンさん! その、ちょっと見惚れてたって言うか…」


「見惚れてた?」


また笑みが零れた。今の獄寺と違い、昔の獄寺は随分と可愛いことを言ってくれる。


言動を訂正しようとしどろもどろになる獄寺もまた可愛い。


今の獄寺にも分け与えたいぐらいだ。五割ほど。


「…育て方を間違えたな…今のお前のままで成長させるべきだった」


結構本気でそう思って言ったら、獄寺は自分の未来に興味を覚えたようで。


「…知りたいか?」


頷く獄寺。しかしさて、なんて説明してやろうか。


オレは可愛くはないが、なんだかんだでオレの隣に立っているあいつを思い出しながら。


「そうだな…今の―――10年後のお前は…」





やがて時間と共に幼い獄寺は消えて。代わりに元の獄寺が戻ってくる。


…で、なんでこいつはさっきの獄寺顔負けなぐらいに無防備に笑顔なんだ…?


「あ…リボーンさん」


その声は嬉しさで彩られていて。…普段のように感情を抑えきれてなかった。


…いつもの冷静なあいつはどこにいった…?


「リボーンさん聞いて下さいよ! さっきまでオレ10年前にいて…」


「ああ」


知ってる。オレだってさっきまで10年前の獄寺と話をしていたのだから。


「それで…それで、小さなリボーンさんと会ってたんです、けど…!」


「…あぁ」


覚えてる。だがオレの昔の記憶にある獄寺は、もっと静かな奴だったはずだ。


「とっても…! とっても可愛かったです…!」


あのときの…つか、さっきまでのあいつはどこいった。


「はぁあ…緊張した…! あの時リボーンさんに教えて頂いた10年後のオレをずっと目指しててですね。どうでしたリボーンさん。ちゃんとオレ10年後のオレになれてました?」


「…実はあのバズーカの故障か何かで頭だけ昔のまま…なんてオチか?」


「もう、何言ってるんですかリボーンさん。オレはオレです。ちゃんとこの世界のオレですよ」


「そうか…」


頭を抱えたくなった。つか実際抱えた。


「わ。その反応ちょっと酷くないですか? なんですか幻滅ですかリボーンさん」


「いいからお前黙ってろ」



つーか…これはあれか。



あの獄寺はさっき…オレが幼い獄寺に言ってやったのを参考に…つまりは演じていたわけで。


でも根っこの部分はまるで変わってなかったと。


その証拠にこの獄寺だ。さっきまでの獄寺はどこだ。あいつどこだ。


「…返せ」


「え? 何をですか? なんの話ですか?」


「いや…なんでもない。………なんか急に疲れたぞ。寝る」


「あれ? もうお休みですか? リボーンさん」


「ガキは寝る時間だ」


「…構ってくれるんじゃなかったんですか?」


「どうしてもってんならベッドの中だ。それか起きた後」


「ではお付き合いさせて頂きます」


「…お前のことだから深読みしてねぇんだろうな…」


「はい?」


「なんでもねぇ。じゃ、行くぞ」


「はい」



まったく、10年前の獄寺といい10年前に行く前の獄寺といい、今手元にないものは全部手惜しく見えるものだ。


隣の花は赤いと。先人はよく言ったものだな。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

何はともあれ今日は疲れた。もう寝よう。


「10年後リボ様と中坊獄の一日」と「ヤキモチを妬くリボーンさん」in リボ様編
風下様へ捧げさせて頂きます。
リクエストありがとうございました。