爆発音と銃声。


悲鳴と怒号。


崩れ落ちる家具。


増える死体。


とあるマフィアのアジト。そこは今戦場だった。


戦場の中心にいるのは銀髪の青年。


右手には銃を。左手にはダイナマイトを。口元には煙草を。


それらを駆使しながら。疾走しながら。主のために敵をひとりひとり屠っていく。


人の数が減ると共に音も少しずつ消えていく。


すっかり静かになった屋敷の中を青年は調べていく。


主の命令は敵の殲滅。


一人たりとも生き残りは許さない。


見つけた死体の頭に銃を撃つ。


死体は一度痙攣して今度こそ動かなくなる。


それを続けていくうちに、場違いな部屋に訪れた。


小さな可愛い子供部屋。動物のぬいぐるみや可愛らしい小物で溢れている。


その部屋を青年は土足で踏み込む。


その部屋の中に小さな気配を感じたから。


迷わずクローゼットを開く。


そこには洋服に隠れて一人の少女が。


怯え、震え。瞳には涙を。口には懇願を。


「た、助け…」


無力な少女の眼前に青年は無骨な拳銃を突きつける。


主の命令は敵の殲滅。


一人たりとも生き残りは許さない。


銃声が鳴り響き、少女は倒れ、屋敷の人間は一人もいなくなった。










マフィア同士の抗争とはまったくもって迷惑なものだ。と警察官のリボーンは思った。


深夜のうちに行われた殺し合い。その音に住民は怯え、流れ弾で死者も出た。


そして。


「………」


リボーンは子供部屋で少女の死体を見つける。


無力な子供の死体。その表情は恐怖に彩られ、瞳には涙がまだ乾かないまま残っていた。


リボーンは少女の瞳を手で閉じてやる。そして。


今ここにいない、しかしここで少女の命を奪ったマフィアに憎しみの思いを抱いた。










「最近動き辛い」


「動き辛いですか」


「動き辛くて仕方がない」


と、主綱吉が右腕獄寺に話している。


「警察に優秀な人がいるみたい。あちこちに網張られてるし。部下も何人か捕まっちゃったし」


「先日の敵対ファミリー殲滅以来警察の警戒網が広がったように感じます」


「あー、あれね。獄寺くん大活躍だったね」


「お褒めに預かり光栄です」


獄寺は大袈裟と言っていいほど頭を下げる。


獄寺について知られていることは少ない。


一見して判ることは、まず獄寺には感情と言うものがない。


少なくとも部下はそう思っているし、感情を露にしたことはない。いつも淡々としている。


獄寺の出生は一切不明だ。


綱吉がボンゴレを継ぐ前からの付き合いらしい。程度の情報しか周りは知らない。


どんな繋がりなのか分からない。


ただ、獄寺は綱吉に対して絶対服従を誓っている。


それだけは間違いない。


なので。


「ねぇ、獄寺くん」


「はい」


「情報部に調べさせたんだけど…警察を動かしているのはリボーンっていうとても優秀な人なんだって」


「はい」


「潰してきて」


「仰せのままに」


獄寺は深々と頭を下げた。


主人の命令は絶対。


獄寺の心にはそう刻まれている。


だから獄寺は綱吉のどんな願いでも叶えてみせる。










リボーンは獄寺を探していた。


獄寺もリボーンを探していた。


だから二人が出会うのは必然だったのかもしれない。


例え顔を知らなくとも。


例え声を知らなくとも。


例え相手のことを何一つ知らなくとも。


リボーンは捕らえたマフィアから。獄寺は情報部から。少しずつ調べていく。


相手の情報。


そしてその時は訪れる。





「獄寺隼人だな」


「………?」


獄寺が振り返ると、そこには警官が。


その警官には見覚えがあった。


情報部が寄越してきた写真。


リボーンの写真。


「リボーンさん…ですね」


「オレを知っているとは驚きだな」


「あなたを殺すよう言われているので」


「ほお…」


リボーンの目が細くなる。


「それにしても意外に穏やかな口調だな」


「あなたは優秀な方と聞いたので」


「何?」


「あなたに対する10代目の評価に敬意を評して、リボーンさんには敬語を使おうと思います」


「…そりゃどーも」


「それでは、さようなら」


言って、気付けば獄寺の手には拳銃が。


銃声。


リボーンの頬に血筋が走る。


「…避けますか」


「当たり前だ」


「大抵の奴はこれで片付くのですが」


「最近の警察はあれくらい軽く避けるぞ」


「それは怖い」


言って二人は銃を撃つ。転がる。銃を撃つ。物陰に隠れる。銃を撃つ。銃撃戦が始まる。


暫く続けてリボーンは違和感を覚える。


攻撃が単調過ぎる。


入手した情報によると獄寺隼人という人物はもっと賢く戦略的で…


と、リボーンの足元にころころと何かが転がってきた。


何か嫌な予感がして確認する前にそれを蹴り上げ、その場から離れた。


爆発音が響く。


煙が辺りを包む。


だがそれを気に止める間もなく、リボーンは銃を腹の位置まで持っていく。


ギィン!! と音が響いた。


リボーンの手が痺れる。


しかし銃を落とすことなく、眼前に銃を向ける。


その先には獄寺隼人がいた。


獄寺も銃をリボーンに向けている。


お互い、至近距離で。





獄寺とリボーンは銃撃戦をしていた。


獄寺は銃を撃ちながら、ダイナマイトに火を点けリボーンの所へと転がす。


リボーンは当然のように避ける。獄寺はリボーンの動きを先読みしてリボーンの腹にナイフを刺そうとする。


しかしそれはリボーンが銃を盾に防いだ。


獄寺はナイフを捨て、素早く銃を持ちリボーンの眼前に突きつけた。


撃とうとして、しかし気付いた。


自身の眼前にも銃口が突きつけられていることに。





煙が晴れる。


二人は対峙していた。


お互いの眼前に銃を向けて。





「お強い方ですね」


「お前もな。だがとっ捕まえた連中から聞き出した情報通りの動きだ。おかげで動きを先読み出来て助かった」


「やれやれ…あいつらは一体どこまで情報を吐き出したのやら。あとできっちり殺しておかなければなりませんね」


「怖いな」


「マフィアですから」


「なるほど」


「本当にあなたはお強い。警察においておくのはもったいないほど」


「そりゃどーも」


「どうですか? ボンゴレに入りませんか?」


「意外な言葉だな。オレを殺すよう言われてんじゃなかったのか?」


「…言ってみただけです」


言いながら獄寺自身も意外だった。自分は主の言うことを聞いておけばいいのに。


そんなことも露知らず、リボーンはこの状況をどうするか考えていた。


どう避けるか。右か。下か。腕で弾くか。撃つか。


と、獄寺の引き金に掛けられた指に少しずつ力が入っていることに気付いた。


獄寺は避けるつもりはなく、撃つつもりらしい。


リボーンの計算が吹っ飛ぶ。


リボーンは少しだけ顔を俯かせる。


「…先月、この街の屋敷でマフィア同士の抗争があったな」


「ありましたね」


「お前はそこにいたか?」


「いましたね」


「殺した奴のことを覚えているか?」


「覚えていませんね」


「屋敷の中には子供がいた。そいつを殺したのはお前か?」


「覚えてませんが、仮に子供がいたとしたら」


「いたとしたら?」


「殺していたでしょうね」


「そうか。最低だな」


リボーンが顔を上げる。


目を細める。


「死ね」


引き金に力を入れる。


そして。


二つの、重なった銃声。


落ちる空薬莢。


転がる二人の身体。


流れる血液。


あとに残るものは何もなく。


その日の空は憎たらしいほど晴れていた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その空の下、赤く濡れた死体が二つ。


リクエスト「警察リボ×マフィア獄」
リクエストありがとうございました。