決定された未来



気が付くと、目の前には見慣れぬ景色が広がっていた。


見たところ公園…だろうか。人気のない広場。気温と日の高さから時間は正午前、といった所か。


この場所には見に覚えがある。ボンゴレの庭園。ただオレが最初見たときよりも何年も経過しているように年季が入っているように見えるが。


…というかまず間違いなく経っているだろう。ここにオレがいる理由を考えれば。


オレは別にイタリアに、ボンゴレに帰ってきたわけではない。ついさっきまで日本に。10代目の自室にいたのだ。


夕方になり、そろそろ帰ろうかとしていたときだった。


聞きなれた子供の喚き声。その声が10代目の家庭教師、オレの憧れる人の名を呼んで何事かと振り返ったら…ここに来ていた。


奇襲のつもりで撃ったのだろうか。しかしターゲットへの確認が取れてない所はマイナスだな、と自己採点。いやどうでもいいが。


何故いつものように手榴弾や拳銃ではないのかが疑問に残るが…まぁいつものように遊んでいるうちに使い果たしたのだろう。更に減点。


…とまぁ、そんな下らないことを一分もしないうちに考え終わる。現実逃避終了。


―――10年後のオレはどうやらベンチに座っていたようで。まぁそれは別に構わないのだが。


「……………」


オレの膝の上で、なんだか黒尽くめでオレより幾許か年下と思われる少年が眠っていた。


というか、こんな独特な雰囲気を持つ少年の心当たりは一人しかいなかった。



―――どうしてオレの膝の上でリボーンさんが寝ていらっしゃるのでしょうか。



緊張で身体が凍る。一体未来のオレに何が起きたというのか。


そっと下を覗き見る。…はて。何かが違う気がする。何か違和感を感じる。何故だろう。


―――――…ああ、そうか。


何かがいつもと違うと思ったら。なんだそうか。この人…



目蓋を閉じているのか。



オレの知っているリボーンさんはただの一度だって瞬きすらしない人だったから、なんだか新鮮だ。


…この人も、こうして眠っていればただの人なのにな…


思って、無意識のうちにその頬に手を這わせようとして―――


「お前オレの寝込み襲おうとはいい度胸だな」


その手を、軽く掴まれた。


パチッと目を開けて漆黒の視線がオレを貫く。…オレの頬を一筋の冷や汗が流れる。


「い、いえ…寝こみを襲うだなんて、そんな滅相も…」


何とかそう言葉を紡ぐがきっと言い訳にすらならなくて。泣きたくなる。


―――…と、リボーンさんは掴んでいたオレの手を離して、オレの髪に触れて。…つられてリボーンさんの方へ顔を向けると目と目が合って。


その整えられた綺麗な顔に正直どきどきする。そういえばこの人の顔をこんなに見るなんて初めてかもしれない。


「リ、リボーンさん…? あの…?」


「お前…あの時はよくもやってくれたな」


は?


あの時…どのときだろうか。この人にそんな台詞を言わせるようなことなんてしただろうか。


「あの…、リボーンさん? 何のお話ですか?」


「10年前の話だ。…まさかこのお前がなぁ」


くくくっと、喉の奥から笑うリボーンさん。…いやあの。ですから何のお話ですか?


「そうだな。あの時の借り…今ここで返してやる」


「へ? って、わ…!?」


リボーンさんの言葉の意味を理解するよりも先に、オレは制服のネクタイをグイッと引っ張られて…


―――…っ


それに気付くか否かといったところでオレは煙に包まれて。見覚えのある景色が戻る。それは夕暮れの10代目のお部屋。


戻ってきたと認識して…―――思わず、へたり込んでしまう。


少し落ち着くと先ほどの事を思い出して…かっと顔が熱くなる。そしてその中でも特にあの人にふれられたところが熱い。


「ご、獄寺くん…?」


と、恐る恐るというような口調の10代目の声が聞こえて。顔を上げるとそこには何故か顔が赤い10代目がいて…


「あ、10代目…えと、」


「いや、いいから! 向こうで何があったかなんて言わないでいいから!!」


…いえ、オレが聞こうとしたのはここに来たオレのことなんですけど…


けれどこの10代目の反応を見た限り聞かない方がいい…のだろうか?


「オレは知りてーがな。向こうで何があったのか」


―――――。


オレの耳に聞きなれた…声が届いた。それはもちろんリボーンさんの声で。


いやリボーンさんがこの部屋にいることに何にも不思議はない。ただ一つの問題は…その声がとてつもなく近くから聞こえてきたと言うこと。


オレはぎぎぎ、とそんな音を立てて。ゆっくりと、その声がした方を見る。


―――何故かオレがリボーンさんをぎゅっと抱きしめていた。


「わ―――――!? すすすすすすすす、すいませんすいませんリボーンさん!!」


「構わん。オレが許したからな」


許した。何のことかよく分からないが未来のオレに怒りを覚える。リボーンさんになんて働きをしているのか。


「…で? 未来はどうだったんだ?」


リボーンさんの言葉に、オレは先程までの体験を思い出す。未来…未来は…


「なんてこと聞いてくるんですか貴方は!」


「どんなことされてきたのさキミは!!」


オレの発言に10代目が突っ込む。ああそうですね、なんてことされてるのでしょうねオレは!


「―――ま、いいがな別に。10年経てば分かるだろうし」


ぴょん、とリボーンさんはオレの腕から逃れて。部屋を出ようと思ったのかドアの前まで来て…そして振り返る。


「お前、10年で中々面白い奴になるんだな。気に入ったぞ」


「へ?」


「ちょ、リボーン!?」


気に入った。その言葉の意味を聞こうとも言いたいことを言い終わったリボーンさんはさっさと部屋から出てしまって。


「おい…待て、考え直せってば!!」


10代目もまた、リボーンさんを追い掛けていってしまって。…部屋にはオレ一人となって。


はぁっと小さく、ため息を吐く。…緊張が溶けて、力が抜ける。


「…一体、オレがなにをするって言うんですか…?」


誰に言ってるのかすら分からない問いを呟いて。オレはあの人と触れ合わさった所―――唇へと手をやって。


「変な期待、しちゃうじゃないですか…」


そう呟いて。オレは何言ってるんだと一人赤くなっていた。





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本当にもう―――何を言ってるんだ。オレは。


雨宮おねーさまへ捧げさせて頂きます。