「獄寺くん、今日は何の日か知ってる?」


「ええと……」


不意に、ツナにそう問われ獄寺は考えた。ちなみに心当たりはまったくない。


「誰かの誕生日ですか?」


確か雲雀はこないだが誕生日だったな、とか思いながら言ってみる。そういえばハルも誕生日を迎えたはずだ。


「んーん。違うよ。誕生日とかじゃない」


違うらしい。じゃあなんだろう。


「祭日祝日とかじゃ…ないんですよね」


「うん。そういうものでもない」


確認するまでもなく、今日は平日だ。カレンダーの数字も黒い。


「あれですか? 2月22日は猫の日とか、11月22日はいい夫婦の日とか、そういう奴ですか?」


「うん、近くなった」


となると語呂合わせ的なものだろうか。あれこれ色々考えてみる。


「それって、オレに関係あるものですか?」


「うん。関係ある」


関係あるらしい。なんとなく5歳の日が思い浮かんだがそれなら違うだろう。


「…分かりませんね……6月9日なら知ってるんですけど」


「6月9日?」


ツナが聞き返す。そっちはツナが知らない。


「それは何の日なの?」


「ネッシーの日です」


真面目な顔で、しかしどこか得意気に獄寺は答えた。


「ね…ネッシーの日?」


「ええ。1933年6月9日。イギリス・スコットランドのネス湖に強大な怪獣が棲むという記事が写真とともに新聞に掲載されたんです。なので6月9日はネッシーの日なんです」


流石に専門…と言っていいのか、得意分野なだけあってその手の情報には獄寺は詳しかった。


「並盛湖にもいませんかね。怪獣。いたらナッシーと名付けるんですけど」


「…いないんじゃないかな」


いたとしてもそれ多分水被ったエンツィオとか水浴びしているスカルのタコとか水浴びしているしとぴっちゃんとかそういう奴だよ獄寺くん。とツナは内心で思った。


「…って、話が脱線してるよ獄寺くん。今は今日の話だよ。今日は何の日?」


「ああそうでした…結局何の日なんですか?」


聞きながら、獄寺はなんとなく煙草を取り出す。無意識の行動。手慣れた手付き。


その煙草をツナはひょいっと取り上げた。思わぬ主の行動に獄寺は驚き、固まり……ツナを見遣る。


視線の先には、爽やかに笑う我らがボンゴレ10代目。


「今日はね、世界禁煙デーなんだよ獄寺くん」


「へ?」


思わぬ言葉に間抜けな声が出る。禁煙。禁煙デー。ということは。その笑みの真意は。


「だから獄寺くん」


ツナは獄寺の煙草を鞄に仕舞う。煙草が視界から消える。見えなくなる。いなくなる。


「禁煙してね」


状況に着いていけない獄寺に、ツナは笑顔のまま無情に告げた。





「というわけなんです」


「そうか…」


所変わって、時間も変わって現在。


煙草を取られたままツナと別れ、道すがらリボーンと会った獄寺。


どこか微妙にそわそわし、落ち着きを見せない獄寺に何があったのかとリボーンが尋ね、理由を話したところだ。


「だけどお前、少し前からあまり煙草吸ってないじゃないか」


「ええ。だからオレも大丈夫だって思ってたんですけど…」


イタリアにいた頃は、日本に来たばかりの頃は。獄寺はしょっちゅう煙草を吸っていた。無駄に、意味もなく。


けれど…シャマルに修行をつけてもらった辺りからだろうか。獄寺の煙草の数は少なくなっていった。


最近では本当に嗜む程度、吸わない日だってあるぐらいだ。といっても常に携帯はしていたが。


「…駄目なんですよね。なんだか、手元にあるのとないのじゃ全然安心感が違うといいますか……」


好きにしていいと言われればがっつかないのに、駄目と言われれば何故かしたくなる人間の心理。


ついいつも煙草がある場所に手をやっては、ないと知って落胆する。落ち着かなくて、そわそわする。


「そんなに口寂しいなら指でもしゃぶってろ」


「幼子ですか、オレは」


「ならアイスキャンディーとか」


「すぐなくなりますよ」


「飴玉」


「悪くないですけど、なんか違うんですよね」


「煙草チョコ」


「虚しくなると思います」


「葉巻」


「いや、それでは意味がないかと…」


「煙管」


「いえ、それも……」


「ああもう面倒臭いな。なら―――」


と、リボーンは獄寺の肩に乗り顔を引き寄せる。突然のことに驚く獄寺の唇に、自分のそれを押し付けた。





「―――――」





長い沈黙。止まる時間。動かない二人。


暫くして、リボーンは離れた。固まっている獄寺が見える。


リボーンは悪戯っ子のような顔をして、


「まだ煙草が恋しいか?」


なんて言って。


獄寺は顔を赤くさせ、何かを言おうとして、けれど何も言えず、されどどうにかして意思を伝えねばと思ったのか首を横にぶんぶんと振った。


リボーンは笑い、道の先を歩く。獄寺は挙動不審な動きをしつつついて行く。


その脳内にはもう煙草なんて気にする余裕なんてどこにもなくて。


だけど煙草とは別の理由で落ち着きをなくし、そわそわしだすのであった。





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「ちなみに獄寺。日本の喫煙デーは今日から一週間続くからな」

「え!!」


リクエスト「5/31は禁煙の日らしいので、そんな感じの話で!」
リクエストありがとうございました。