年末まで掛かると思われた任務が思ったより短く終わり、獄寺は一週間程予定より早く日本へと戻ってきていた。


久々の日本。硬いアスファルト。白い息。


…はて。いつも通りのはずの景色が、どこか違って見える。なんだか、どこか、煌びやかに。


その理由は探すまでもなく目に見えた。小さなもみの木に飾られたイルミネーション。玄関には飾られたリーフ。少し視界を上げて見える窓には、赤い服を着た人形。





     ああ、そうか。


          今日はクリスマスか。





すっかり忘れていた。頭から外して考えていた。


獄寺はふと足を止める。


進んでいた足が向かっていた場所は敬愛なる10代目ことツナの家。


けれど今日がクリスマスというのであれば、お邪魔だろう。


今年から家光も自宅でクリスマスを過ごすらしいし。親子水入らずで過ごさせるべきだ。


そう判断した獄寺は来た道を引き返す。


帰国した旨を伝えようと、携帯電話へ伸ばしていた手も降ろす。連絡したらお優しい主は気を遣い家へ招いてくれるだろうから。


さてはて、これからどうするか。


急に時間が出来てしまった。イベントや祭り事を好む日本では、知り合いも予定を入れているだろう。







          …まあ、いいか。


          たまには、一人で。







帰宅する。誰もいない部屋に入る。


冷たい空気。暗い部屋。明かりを点けても変わらない。


荷物を適当に置き、ソファに身を任せる。無音が耳に痛い。


とはいえ、特にやることもない。ピアノ…も今は気分ではない。





     …ああ、そういえば、





立ち上がり、獄寺は荷物の一つを漁る。


袋の中から取り出すはコーヒー豆。


何となく、とある方が喜ぶかも知れぬと思わず買ってしまった一品。


獄寺は暫しそれを見つめ、思考を巡らせる。










          …味も知らぬまま渡すのは失礼ではなかろうか。



   味見ぐらいしておいた方がいいのではないか。



                                   丁度ミルも買ってきたし。



          いや、ほら、デザインがな、よかったんだよ。うん。










そんなわけで早速用意を始める獄寺。


とある方の好むエスプレッソは極細挽き、という一番細かい形状になるまで挽くらしい。砂糖に例えると上白糖くらいだとか。


ミルに豆を入れ、ハンドルを回す。


豆が砕ける感触。砕かれ、削られ、粉となっていく。


暫くして、豆が完全に粉と化した。これを今度は抽出器に移す。


上のバスケットに粉、下のバスケットに水を入れて火にかける。水が湯となり上がってくれば…





     …おお、出来た。


          これをいつもあの方は飲んでいるのか…





目の前にあるカップに注がれたコーヒーを見つめ、何故かどこか感慨深く感じる獄寺。


実はビスコッティなども用意していたりして。





     おお、完璧ではないか。





どことなくワクワクしながらカップに手を伸ばす獄寺。


しかしその手が届くよりも前に音が辺りに鳴り響いた。この家のチャイムの音が。


はて、一体誰だろうと玄関へと向かう獄寺。


ドアを開けた先にいた人物を見て獄寺は驚いた。


そこには、ずっと頭で思い描いていた人物が立っていたのだから。





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「よぉ獄寺。いいもん飲んでんじゃねーか。オレにも飲ませろよ」

「…ええ、まあ、構いませんけど」