そこは、暗いくらい。闇の底。
上も下も、前も後ろも分からないような、そんな空間。
そんな場所に、オレはいた。
…ここはどこだ…?
ぼんやりとする頭。定まらない思考。それらを抱えて前を見る。
………ここは……
暗い視界の向こうで、誰かが手招きしているような気がした。
…そっちに行けばいいのか……?
何が正しいのかも分からない中で、気配のする方に足を運ぶ。
パシャっと、足が水の中に入った。足首までの深さ。浅い川のような。
バシャバシャと音を立てて進んでいく。…川の深さがだんだん大きくなっていく気がした。
足首までが臑までに。臑までが膝までに。
構わず進んでいく。
だって。こっちで。正しいはずなんだ。
確証はないけれど、そんな気がするんだ。
ザバザバと、進んでいく。
…と。
―――そっちじゃねぇぞ。
声が。
声が、聞こえた。
…誰?
誰だっけ。誰の声だっけ。
思い出せない。
オレの足が止まる。
水音が止まる。
………。
進むべき道が増えて、オレは戸惑う。
こっちに進めばいいのか、あっちに進めばいいのか。
今進んでいる道は、もう少しで終わりが見える。それが分かる。
だが、聞こえた声はこちらではないという。
………。
ふと、風が吹く。髪がなびく。
その方に顔を向けば、そちらはさきほど声のした方。
………。
…声のした方に足を運ぶ。
ぱしゃ、ぱしゃと水音がした。
水辺を抜け出し、声のした方へ。
声はもう聞こえない。
けれど、風はまだ吹いている。かすかにだが、髪もなびいている。
その方へ、その方へ歩いていく。
暗い、くらい闇の中。
闇に慣れてきた目に、薄らと道が見える。
曲がりくねった道、分かれ道。様々な扉。
どの道が正しいのかは分からなかった。
ただ、風の吹く方に、薄らと気配のする方に、声のした方に進んでいく。
そして、やがて…
道の終わりに、光が―――
目覚めは、眩しかった。
気付くと、オレは天井に向けて手を伸ばしていた。
「………」
少し遅れて、痛みが走った。
思わず腕を下ろす。
その拍子にも痛みが走る。
「―――――っ」
なんだっけ。なんだっけ。どうしたんだっけ。どうなったんだっけ。オレは。
思い出せない。何も、何も―――
痛む、痛む。身体が痛む。頭も。腕も。
白いベッドの中で一人痙攣していると、室内に一人分の気配が増えた。
「…獄寺くん…?」
10代目…?
「獄寺くん…おき、起きたんだ…!!」
なにやら慌てている10代目に、オレは何の言葉も返せないでいた。
10代目…一体何が……
言葉を出そうとするも、それは声として出ない。
「あ…ま、待ってて!! 今シャマルを―――」
ドタバタと遠ざかる足音。けれどオレの意識は痛みの方に向いていた。
身体中が痛い…
頭が熱い…
意識が……遠のく…
後に聞いた話によると、どうやらオレはかなり危ない状態だったらしい。
生死の境で、三途の川に片足突っ込んでいたとか。なんとか。
…ああ、そういえば川あったな。あれか。
話を聞いてだんだん思い出してきた。
そうだ。オレはある任務に就いてて……爆破を受けて…
………天下のスモーキン・ボムが爆破でやられちゃ世話ねーぜ…
傷は少しずつ癒えていき、見舞い客も増えた。
…その中に、あの人はいなかったけれど。
…会いたい、な……
それからも時間は過ぎ、やっと出歩けるようになった。
オレの目的地は決まっている。
あの人のところへ。
「リボーンさん」
「獄寺か」
いつもと変わらぬ態度。いつもと変わらぬ温度。
いつもとまったく変わらないあの人が、ここにいた。
「もう傷はいいのか?」
「ええ。お陰様で」
「オレは何もしてないぞ」
苦笑するその人に、オレは澄まし顔で答える。
「いいえ。今オレがここにいるのはあなたのおかげですよ」
「オレが何かしたか?」
「ええ。…あの時、オレを呼び止めたの、リボーンさんですよね?」
「………」
あの時聞こえた声。
あの時吹いた風。
きっと、この人だ。
「ありがとうございます。…おかげで助かりました」
「…そうか」
「はい」
そこまで言って、疲れてへたり込みそうになる。
…まだまだ体力が回復してないな…
「…じゃあ、オレは戻りますね」
あなたに会えたし、お礼も言えた。
オレのやりたいことは、全部出来た。
「ああ、待て」
と、リボーンさんがオレを抱きかかえた。
「へ? え?」
「送っていこう」
「リボーンさん!?」
突然のことに、思わず顔が熱くなる。
リボーンさんはまったく気にせずずかずかと歩いている。
「お前まだ本調子じゃねーだろ。途中でぶっ倒られたら面倒だから送っていってやる」
「だ、大丈夫ですよ!!」
「お前の大丈夫はあてになんねー」
「リボーンさん!!」
そう叫ぶもリボーンさんに何の効果もあるはずがなく。
オレの顔の熱さはリボーンさんに病室まで連れて行かれるまで消えることはなかった。
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嬉しいけど、恥ずかしいですリボーンさん!
リクエスト「かっこいい、リボーン是非vvv」
リクエストありがとうございました。