「10代目…」
獄寺くんが死にそうな声を掛けてきて、オレは思わず身構えた。
今までの経験上…明るい獄寺くんよりも暗い獄寺くんの方が、厄介事を運んでくる。
「な…なに? 獄寺くん」
「オレ…実はリボーンさんに嫌われた…みたいなんですよ」
言うと同時に獄寺くんは涙を流し鼻を啜る。更に嫌われた、の所で自分で言ってショックを受けたのか肩を震わせた。
「………嫌われた?」
…って、言ったら悪いけど……獄寺くん…その、
「10代目の仰りたいことは分かります。オレは最初からリボーンさんに然程好かれてもいない…そう言いたいんですね?」
うん。悪いけど。
「でもリボーンさんは今まではオレにも稀に声を掛けてくれる日もあったし、オレが挨拶すれば受け応えだってしてくれました! ………二割ぐらいの確率で!!」
「低!!」
「でもそれなのに………この間日本に帰ってきてからオレリボーンさんと会えてすらないんですよ!? 避けられてる感がひしひしとするんですけどオレ!!」
「日本に帰ってから…? ああ、そういえば先日までイタリアに飛んでたんだったね…忘れてた」
そして忘れてたオレは獄寺くんとの勉強会が出来なくてうっかり補修を受ける羽目になったんだった。忘れよう。
「ところで、イタリアで何してたの? リボーンも一緒だったんだよね」
「あ、はい…軽い抗争があってそれに呼び出されてました。そしてそのあと軽い祝杯が挙げられてみんな飲めや歌えの大騒ぎでした」
キミはオレが補習を受けてるときになに楽しんでたのかな。いや自業自得だけどさ!!
「とっても楽しかったです」
この野郎。
「はぁ…その祝杯のときはまだリボーンは優しかった?」
「そこなんですよ」
「はい?」
「オレ…そこで多少の酒が入ったらしくて、途中から記憶が抜けててですね…もう何があったのか何が起こったのかさっぱりぱったり。全てが不明です」
「…もしかして、祝杯のあとからリボーンと会えてないの?」
「ええ…日本に戻ってきて早三日。こうして毎日10代目のお宅にお邪魔しているというのに欠片もリボーンさんと会えません!!」
最近やけに長く家にいるなと思ったら理由はそれか。
「でも確かに…獄寺くんが来たなと思うとリボーン消えてるな」
「でしょう!? って、そうなんですか!?」
獄寺くん落ち着いて。
「やっぱり…オレ、あのときリボーンさんに何か粗相をしでかしたんでしょうか…」
「さぁ…それはオレには分からないけどって、獄寺くんなにをそんな期待するような縋るような目をしているのかな?」
「あの…10代目、お願いが……」
うーん嫌な予感。
「あの…10代目からリボーンさんに、それとなく聞いて頂けませんか……?」
予感的中って言うかうわん上目遣い可愛いなぁ獄寺くん! オレその目に弱いんだけど!!
「いや、でもオレ補習の宿題あるし…直接会って話せないなら電話で聞いてみれば?」
「だったら10代目オレにリボーンさんの番号教えて下さいよ!!!」
って獄寺くんが切れたー!!
「そりゃオレだって出来るなら自分で真相を確かめたいですよ! でも何も手立てがないんです! あと仮にリボーンさんの番号知って電話掛けてもなんとなく無視される予感がします!!」
そして獄寺くん被害妄想入ってるー!!
「はぁ……リボーンさん………」
「あああ獄寺くん落ち込まないで、ほら、部屋の隅で体育座りになって泣きながらのの字とか書かないで!! オレ調べてみるから!!」
「ぐす…10代目、本当ですか…?」
「う、うん……本当」
「ありがとうございます10代目! もしも真相が辛辣なものだったら七重ぐらいのオブラートで包んで教えて下さいね!!」
分厚! それ事実が霞んで見えないんじゃないかな!!
獄寺くんは「じゃあオレがいるとリボーンさんが来ないみたいなんで一度帰りますね!」となんだか何故だか切なくなってくる台詞を元気に言って帰った。
やれやれ…面倒なことを頼まれてしまった。
部屋に戻ると、いつの間に戻ってきたのか…リボーンがいた。
「ツナ…獄寺は帰ったか?」
うわぁ…こいつ獄寺くんが聞いたらその場で自殺しそうなことを……
「帰ったけど…なに? どうしたのリボーン。イタリアから戻ってから獄寺くんと会ってないって?」
「…まぁ、そうだな」
…? 珍しく歯切れの悪いリボーンだな……
「獄寺くん寂しがってたよ。リボーンに嫌われたー、リボーンに今以上に嫌われたーって」
「………そうか」
……なんか…リボーンの様子がおかしいな…
「…イタリアで何かあったわけ? 獄寺くん祝杯の途中から記憶がないらしくてかなり慌ててたよ」
「…記憶がないだと…!?」
リボーンが食いついた。
…って、やっぱり獄寺くん何かしちゃったわけ……?
「…獄寺くん何したか知らないけど必死に謝ってたから、さ…許してあげれば…?」
「……………」
リボーンが難しい顔をして黙り込んでいる…何を考えているのかなどとオレに分かるはずもない。
そう、分かるわけがない。
ただ、リボーンは憎たらしいぐらい頭が良いから何か考えがあるんだろうとは、思う。
そう、きっとなにか。考えが。
リボーンの考えなど、ダメツナと呼ばれるオレに分かるはずもない。
「・・・・・・・・・」
そう、たとえリボーンが今オレのベッドの上でごろごろごろごろもんどりうちながら転がり周っていようとも。
「オレは…!! オレは一体どうすれば…!!」
などと今だかつて聞いたこのないほど切羽詰った声を出していようとも。
きっと何か考えがあるに………
ごろごろごろ〜
ごろごろごろ〜
ごろごろごろg(ゴン!!!)
「………」
「い、痛い…orz」
あ、やっぱないかも。
ていうか、どうした。
リボーン、どうした。
あのいつもの冷静で沈着なリボーンはどこいった。
なんでなんか、こんな…おたおたしてるんだこいつ!!
一体本当に何があった!!
「それについてはオレから説明しよう」
と、背後から聞こえてきた声に目をやれば。何故かそこにはディーノさんが。
「ディ、ディーノさん! どうしたんですか!? 何か御用ですか!?」
「暇だから遊びに来た!!」
この教師にしてこの兄弟子有りか!!
「ま、まぁいいです…今は何より情報がほしい。ディーノさん何か知ってるんですか?」
「ああ。あれは忘れもしない一つ前の抗争終わりの祝宴の最中…Dr.シャマルに注がれてスモーキンは酒を飲んだ」
「そこまでは知ってます…問題はそのあと! 獄寺くんはリボーンに何を仕出かしたんですか!?」
「スモーキンに注がれた酒が強かったのかスモーキンが酒に弱かったのか…一杯でスモーキンの顔は赤くなった。そこでリボーンが来て横になったほうがいいって言いに来たんだが…」
「……来たんだが?」
「そしたらスモーキンはこう返したんだ」
リボーンさん…オレを心配してくれてるんですね! ありがとうございます!! 大好きです!!
「そして熱い抱擁!!」
「………は?」
「抱擁。ハグ。抱き付き。むぎゅーって奴だな。それを思いっきりリボーンにやったわけだ」
「いやあの………それで?」
「それで終わり。そのあとすぐスモーキンは酔いが回ったのか寝ちまったからな」
「………」
「………」
「それで?」
「いや、それでって……」
「え…なんでそれでリボーンが獄寺くんを避けるんですか? そりゃオレぐらい獄寺くんが好きなら照れくさくて…ってのも分かるんですけど…リボーンは獄寺くん嫌ってるし…いてぇ!!」
ガン、と何かに思いっきり殴られた。
見れば、それはリボーンだった。
「な…」
何するんだよ! と言おうとしたのだが、言えなかった。
「誰が獄寺を嫌ってるんだよ!!!」
と、リボーンに遮られたから。
………。
え?
今…リボーン、なんて言った?
誰が? 獄寺くんを? 嫌っているか…って?
いやあの…それは……
オレはリボーンを指差した。
その指を殴られた。
突き指になった。
物凄く、痛かった。
「うぐぉぉおおおおおおお…!!!」
オレはもんどりうった。
ごろごろと床を転がる。
「唸るな馬鹿者!! 誰が誰を嫌ってんだ!?」
「いや、…だ、だから…リボーンが獄寺くんぐぉおおお!!!」
リボーンに蹴られた。
脇腹を蹴られた。
思いっきり、痛かった。
「嫌ってねーよ馬鹿!!」
………はぁ?
「…いや、嫌ってるだろおま…がは!!」
銃の柄で殴られた。
頭を。
痛い………orz
「ツナ…悪いことは言わないから、リボーン相手にそういうことは言わない方がいいぞ」
「ディーノさん…」
言わない方がいいのは身に滲みて分かりましたからせめてもう少し早く言ってほしかったです。
「オレもさ、日本に来てスモーキン初めて見て可愛くて粉掛けようとしたらうっかりリボーンに半殺しにされてよ。ハハッ」
それ明るく言うことじゃないですディーノさん。
てかそうか…リボーン…獄寺くんのこと好きだったのか……今までさっぱり分からなかった。
「そんな大好きな獄寺くんにリボーンは抱きつかれてしまった、と」
「うぐおおおおおおおお・・・!!!」
オレの発言にそのときのことでも思い出したのだろうか。リボーンがそこら中をごろごろごろごろ転がっている。
な、なんという豹変…!!
これがあのリボーンなのか!?
リボーンをここまで変えるとは…獄寺くん、恐るべし!!
「はぁ…まぁ、獄寺くんを避けてる理由は分かったよ…」
オレにとっては大変つまらない理由だったけど。
でもまぁ、これで獄寺くんにも笑顔が戻るでしょう。
今はそれで……よしとしておこう。うん。
そして翌日。
オレは獄寺くんに事情を説明した。
獄寺くんが酔った勢いでリボーンに抱きついてしまったということ。
リボーンは実は獄寺くんのことが好きなのだということ。
だから照れくさくて、獄寺くんの顔がまともに見れないということ。
リボーンの想いまでは言わなくてもよかったかもしれないが、まぁいいや。
だけど…リボーンの本音を聞いても獄寺くんの顔は晴れないままだった。
むしろ、前よりも暗くなってるような…?
「獄寺くん…? どうしたの?」
「10代目…オレとの約束……守ってくれたんですね。ありがとうございます…」
約束?
オレ獄寺くんと何か約束したっけ?
えーと……
はぁ……リボーンさん………
あああ獄寺くん落ち込まないで、ほら、部屋の隅で体育座りになって泣きながらのの字とか書かないで!! オレ調べてみるから!!
ぐす…10代目、本当ですか…?
う、うん……本当。
ありがとうございます10代目!
もしも真相が辛辣なものだったら七重ぐらいのオブラートで包んで教えて下さいね!!
あれかーーー!!!
獄寺くんにとってあまりにも嬉しい報告結果だったからそっちと勘違いしたわけか!!
「ぐす…そうですか、リボーンさん………ははっ」
「獄寺くんそんな、渇いた笑いしないで! 人生諦めた顔しないで!!」
「いいんです10代目。分かってます…分かってますから!!」
「この子欠片も分かってねー!!」
「それじゃあ10代目…オレ、これから用事がありますから…失礼しますね!!」
「あ、獄寺くん…!!」
事情を説明しようと逃げる獄寺くんをオレも追おうとする…と、
ズキリ。とリボーンに殴られた指が痛んだ。
リボーンに蹴られた、脇腹も痛んだ。
リボーンに銃の柄で殴られた、頭も痛んだ。
………。
そこまでしてやる義理もないか…
一応オレは獄寺くんに頼まれたことはやったし、嘘だって言ってない。
それをどう解釈するかは本人の自由ってことで…それに分かり辛い反応しかしないリボーンだって悪い。
つまりここからは本人たちの問題であって、オレには関係のないことだ。
そういうことにしよう。
ということでオレは獄寺くんの誤解を解くこともなく走り去る獄寺くんを見送った。
………のだが。
それから、家に帰れば勘違いしっぱなしの獄寺くんに何か言われたのか見るからに暗いリボーンがいて。
学校に行けばなんか、常にめそめそめそめそめそめそめそめそしている獄寺くんがいて。
しかもそんな二人から日々相談を受ける破目になるのだから、やっぱりあの時多少面倒でも説明をしておくんだった…とオレは後悔した。
…ていうか、オレだって一応獄寺くんが好きなんだぞ。
ちくしょうと、オレの涙目に気付かないまま今日も二人はオレに悩める恋の相談してくるのだった。
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早く解放されたいなあ。