ここにしかいない貴方
―――朝。
ぱたぱたぱたぱた。何かが誰かが走って来る音がする。その音はだんだん近付いてきて。獄寺はその方を見る。
ばたん! と大きな音を立てて扉が開いて。現れた人物に獄寺は目を丸くする。
「…どうなさったんですか? 10代目?」
そこにいたのはゴットファザーことブラットオブボンゴレこと沢田綱吉10代目で。急いできたのか肩で息をしていて。
ツナはつかつかと獄寺に近付き。その肩を思いっきり掴んで。
「獄寺くん!!」
「は、はいっ!?」
そのツナの様子に獄寺は緊張する。何か重大なミスでも犯してしまったのだろうか。
「大好きだよ!!」
「…はい?」
しかしツナが叫んだのはもう10年ほど前から延々と告白し続けている言葉で。
しかしツナはこれでもかというほど真剣で。どうすれば良いのか獄寺は分からなくなる。
「…獄寺くんは?」
ツナが聴いてくる。獄寺の目を見て。合わせて。
「だ。大好きですよ…?」
今更ながらの告白に獄寺の顔が少し赤くなる。…本当、今更だ。何だというのだろうか。
しかしツナはそんな獄寺の返答に満足出来たものがあったのか。肩に伸ばしていた手をそのまま背に伸ばして。抱きついて。
「うん。…なら。良かった」
「???」
しかし獄寺にはまったく分からない。何事なのだろうか。
「じゃあオレ今から会議があるから。またあとでね獄寺くん」
ツナはそう言って。獄寺の頬に軽いキスをして部屋を後にした。
「…ていうか10代目。まさかその為だけに来たんですか…?」
少し頭痛がしてきた獄寺であった。
時が過ぎて。昼。
昼食を取り終わり、腹ごなしに廊下を歩いていると向こう側から雲雀が歩いてきて。
「―――ちょっと」
「ん?」
そのまますれ違いになりかけた所で。雲雀に腕を掴まれた。
「なんだよ」
「………」
しかし雲雀は何も言わない。獄寺の眉間に皺が寄る。
「――おい、何も用がねぇんだったら――…」
「あのさ」
唐突に。雲雀が口を開く。獄寺の声を遮るように。
「…キミは僕の物なんだっていう自覚。あるの?」
「お前のじゃねぇよ」
「そこは物扱いを否定しようよ」
なんだかいつもの雲雀ではない。何かあったのだろうか。獄寺の顔が怒りから不審に変わる。
「…何でも良いから。なんだよ」
「―――僕はキミを手放す気なんて。ないんだからね?」
「はぁ…?」
「分かってる?」
「――納得はしてねぇけど。お前がそういう奴だってことは理解してる」
お前我侭で自分勝手だし。とそう言う獄寺に、雲雀は掴んでいた腕を離して。
「…なら、良いよ」
そう言い放ってはさっさとその場を立ち去ってしまった。
「…なんなんだ? 一体…」
時は更に過ぎて夕刻。
ピッと。獄寺は今まで使っていた携帯を切る。無感傷に何となしにそれを見ていると。
「獄寺氏ー!!」
泣き声が獄寺の元へと素っ飛んできた。獄寺は携帯を仕舞う。
やれやれ。なんてうざい喚き声だ。10年前の今日あいつに何かしただろうか。思い出せないが。
声はそのまま獄寺の背に引っ付いて。その実体を知らしめる。
「うぜぇぞランボ。どうした。10年前のオレがなんかしたか。時候だ許せ」
「今日はその件じゃありませんー!」
「そうか。じゃあ転んで近くにたまたまオレがいたんだな。悪い。飴玉持ってねぇ」
「それも違いますー!」
てか子供扱いしないで下さいー! と叫び声が聞こえる。正直うるさい。
「あー…悪いが今から10代目に用があるんだ。それが終わったら遊んでやるから」
獄寺はランボを引っぺがして。ツナの部屋をノックして「失礼します」いつもの言葉。そして入る。
「10代目。ご報告が………って」
部屋の中にはツナともう一人。―――雲雀がいて。二人分の視線が獄寺を貫く。獄寺は少し怯む。
「…お邪魔でしたか?」
「いや。良いよ。丁度獄寺くんの話をしていたところ」
「オレの…ですか?」
はて。一体なんのことなのだろう。そういえば今日は二人とも様子がおかしかったが。
「獄寺くん…あのさ」
「はい」
ツナは何か言いづらそうに。けれどやがて意を決してツナは獄寺に向き合って。
「オレは…獄寺くんが決めた道なら。それで良いと思うんだ」
「はぁ」
横で僕は反対だけどね。と雲雀が茶々を入れてくる。ツナは無視した。
「確かに悪い話じゃないし…けど相談はして欲しかったかな。ま、そんなことされたらオレ絶対反対すると思うけど」
「はぁ」
獄寺は暫し考えて―――
「―――あの、すいませんが何のお話ですか?」
「いや、だからさ…」
「キミがボンゴレを抜けるって話。何。キミわざとはぐらかしてるの?」
ボンゴレを抜ける。なるほどそれは一大事だ。10代目が真剣に言うのも分かる―――って。
「へ? 何でオレがボンゴレを抜けるんですか?」
きょとん顔で言ってくる獄寺に流石にツナと雲雀も表情を変える。何かがどこかで食い違っている。
「その情報の出所はどこなんですか?」
「キミの机の中」
そう言ってはぴらりと雲雀が一通の手紙を寄越してくる。机の中。はて。確かこの間鍵を変えたはずなのに。
というかそれは普通に犯罪なのだが。マフィアがそんな事を拘るなということだろうか。色んなことが獄寺の頭を駆け巡る。
とにかくその手紙を受け取って。…ああ、と獄寺はようやく理解する。
「―――人の手紙をあまり見るものではありませんよ?」
獄寺は苦笑しながら二人を嗜める。手紙を受け取って、その書き手と内容を思い出す。
ボンゴレ9代目が、直々に名指しで。…獄寺隼人を傍に置きたいという。
「ええ、実はこのことで10代目の元へ来たんです。…9代目からこんな手紙が来たのですけど、断りましたって」
「そう、ことわ…―――え?」
獄寺の返答があまりにも意外だったのか。ツナはもちろん雲雀でさえも驚いて獄寺を見る。
「まぁ、確かに良い話ではありますけど。9代目には借りもありますし…でも」
獄寺は手紙を破って。
「9代目の所にはいなくて。ボンゴレにしかいない大切な人がここにいますから」
9代目もその人の名を出したら許してくれました。なんて少しばかり犯罪的な笑顔でそう言って。
「ご―――」
「獄寺氏ー!!!」
ツナが思わず抱きつこうとした時。外で待っていたはずのランボが我慢出来なくなったのか部屋に入ってきて。獄寺に飛びついた。
「…ランボ。いてぇ」
「えぐ…ぅぁあああああああん!! や…ですっ獄寺氏! ボンゴレ辞めないでください!!」
「辞めねぇ。だからどけ。重い」
不意打ちのランボのタックルに獄寺はランボの下敷きになっていた。言ってしまえば押し倒されていた。
つーかお前もオレの机ん中見たのかよ。と獄寺は毒付く。鍵の意味がまったくない。
「ご、獄寺くん…」
「あ、はい?」
ツナは獄寺が牛に押し倒されていることにも気付かないのかそれともどうでも良いのか。獄寺に声をかける。
「さっき言ってたボンゴレにしかいない大切な人って、その……」
それってオレだよねとツナの目がときめいている。更に名前出して納得されるだなんて雲雀じゃ無理だしねと勝ち誇っている。
「ああ、それは…」
「牛。てめぇ誰に断ってオレの獄寺を押し倒してやがるんだ?」
蹴りが一発入って。獄寺の背の重みが消える。遠くの壁際からぐえっとちょっと可哀相な声が聞こえてきたりした。
「リボーン・・・! 何でここにいるんだよ!」
「何でも何も。今日は獄寺と食事の約束をしていたからな。その迎えだ」
「え…あ! もうこんな時間ですか!? すいませんリボーンさん!」
「構わん。腹いせは牛にするから」
「酷!」
「ていうか名前呼んであげなよ」
口々に言う二人をまるで知らぬとリボーンは獄寺を立たせて。…少し思案して。見せ付けるように獄寺に口付けをした。
「な―――――!?」
「ちょっと。なんてことしてるの」
「お前らが無駄なことをやらないように牽制。どうせオレが勝つが、そんなことで無駄な時間を過ごしたくねぇしな」
言いたいことだけを言いたいだけ言って。リボーンは獄寺の手を取り部屋を後にした。
残された三人は三様に。
「くっそー…リボーンめ…10年前はあんなに獄寺くんに素っ気無かったから油断してた・・・!」
「ツンデレか…これがツンデレって奴なのか…」
「リボーン…いつか殺す。絶対……」
―――とまぁ好きなことをほざいていた。
なお、その部屋の外ではまだ二人はいて。…ついでに三人の言葉も筒抜けであった。
「リボーンさん。ツンデレってなんですか?」
「お前は知らないでもいい」
「はぁ…」
どうやらその意味を知っているらしいリボーン。末恐ろしい11歳であった。
「それよりも獄寺。お前9代目に何て断りの電話入れたんだ?」
「リボーンさんまでオレの机見たんですか…?」
「馬鹿言うな。オレは9代目から聞いたんだ」
「あ、なるほど。すいません…えっとですね、リボーンさんと一緒にいたいですから駄目ですって」
「ほう」
珍しくちょっと嬉しそうな顔をするリボーンだった。
「あと10代目と雲雀とランボと山本と笹川もいるから嫌ですって」
「………獄寺」
「はい?」
「その事実。誰にも言うなよ?」
「へ? 何でですか?」
「―――無意味に競争率を上げたくないからな」
そう言って、今度こそリボーンは獄寺の手を引いて。アジトをあとにした。
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さ、行くぞ。
リクエスト「獄寺くん総受け」
柳暗炎様へ捧げさせて頂きます。
リクエストありがとうございました。