「リボーン、さん」


名前を呼ばれる。よく知った奴の声だ。


振り返れば、そこには思った通りの人物。そいつはじっとオレを見ている。


「…好きです」


そいつは真っ直ぐに、オレの目を見てそう言った。強い意志を感じる。


「…そうか」


オレはそれだけ言って、その場から立ち去った。





その夜、オレは後悔に打ちひしがれていた。


なぁああああにが「そうか」だ!! 質問に答えてねぇじゃねぇか!!!


どうしてオレはあの時「オレもだ」とか何か気の利いたことのひとつも言えなかったんだ!! オレの馬鹿!!!


オレが自己嫌悪のあまり床をごろごろ転がっていると、誰かが部屋に入ってきた。


獄寺か!?


オレは慌てて転がるのをやめた。しかし勢いがついているオレの身体は急に止まれず壁に激突する。


大きな音を立てて部屋が揺れた。本棚から本が崩れ落ちオレが埋まる。


「…どうしたのさ。リボーン」


「なんだ、ツナか」


部屋に入ってきたのはツナだった。よく考えたらこんな時間に部屋に来るのはこいつしかいない。オレがいるのはこいつの部屋だ。


オレは被った本を払い落としながらツナに向き合う。こんな奴でも獄寺はツナに懐いている。これを利用しない手はない。


「ツナ。オレはどうすればいい?」


「いきなり何の話だよ…」


察しの悪い奴だ。これだからダメツナは。


「今馬鹿にした?」


「いや? 別に」


それはそうと、とオレは話題を切り替える。そう、オレはこんな話をしている場合じゃないんだ。


「獄寺に告られた」


「え………っああ、そう、なるほど」


どうやらツナには心当たりがあるらしい。


「獄寺は何か言ってたか?」


「………その前に、獄寺くんになんて答えたのさ」


「………そうか。って」


「へたれ」


「何だと!?」


ツナにそう言われるのは心外だ。


「そうかって何だよそうかって……ありがとうなりごめんなり他にも返答あるだろ」


「オレも丁度今そのことを悔やんでいたところだ」


「悔やんでたって…ああ、あの床をごろごろ転がってたのって…」


オレは手近にあった本をツナに分投げた。ツナの顔面に本が突き刺さる。ツナが背中から倒れる。


…いかんいかん。ここでツナを気絶させたら意味がないんだった。


オレはツナに近付き、気付けする。ツナが目を覚ます。


「で、獄寺は何と言ってたんだ?」


「………」


「答えろ」


「いででででででで!!」


だんまりを決め込むツナの腕を決める。ツナが悶絶する。


「獄寺は何と言っていた?」


「………10代目!! これは脈有りですかね!! だってさ」


「…そうか」


獄寺め。可愛い奴だ。


「で、なんて答えるの?」


「そりゃあお前…」


………。


どうしよう。


なんて答えよう。


「考えてなかったのかよ」


ツナの突っ込みはとりあえず無視する。


まぁ待て。落ち着け。オレ。


どうする。なんて答える。オレ。


「獄寺くんのこと嫌いなの?」


「んなわけねーだろ」


だとしたら告られた時に断っている。そうしてないと言うことは…


「…相思相愛かー…参ったねこりゃ」


ツナがため息を吐く。参ったって、どういうことだ?


「本人は知らないんだけど、獄寺くんは色んな人に好かれてるんだよ…周りは牽制しまくっててさー…」


「なるほど。お前もその一人か」


「う…」


ツナが呻く。


「………その通りだよ。悪い?」


ツナが開き直った。


「オレと獄寺の仲を邪魔するか?」


「………リボーンは正直どうでもいいけど、獄寺くんの恋は応援する」


「そうか」


オレがどうでもいいとか。後で絞めてやる。こう、きゅっと。


オレがそう心に誓うと、ツナがぶるりと身を震わせた。風邪か? 大変だな。


「…で、返事はいつするの?」


返事………


「やっぱしなきゃダメか?」


「駄目に決まってるだろ!!」


そうか……


「じゃあ………明日」


「本当に明日するの?」


「す、する…」


「本当に本当?」


「本当に……ほんと…」


………。


「すまん。やっぱ無理」


ツナは盛大にため息を吐いた。


「この、へたれ」


「何だとこの野郎」


振り返ると、ツナはいつの間にかオレの携帯を開き何か操作していた。


「…お前、何をしている」


「獄寺くんに電話」


「なんだと!?」


驚くオレに、ツナが携帯を突き付ける。画面に映る文字は確かに獄寺に電話を掛けていることを告げていた。


「今返事しなよ」


「無理に決まってるだろ!!」


「大丈夫大丈夫。いけるいける」


「こんな夜中に迷惑だろ!!」


「それほど遅い時間でもないし。いつもリボーンがすること考えたらこの程度迷惑にも入らないよ」


「もし寝てたらどうする!!」


「そんときゃそんとき」


ぎゃーぎゃー言い合っている間にもコールは続く。寝ているのか? 寝ているんだな? よし寝ていてくれ。と願うも無情にも電話は繋がった。誰とだ? 獄寺とだ。


『リボーンさん?』


ツナに無理やり電話を押し付けられれば、耳に入ってくる獄寺の声。


「…獄寺か」


『こ、こんばんは…どうなされたんですか? こんな時間に』


「迷惑なら、切るが」


『とんでもないです!!』


「そうか………。獄寺」


『はい!!』


「昼のお前の告白だが…」


『は、はい…』


………。


「オレも、お前が好きだ」


『―――――っ』


獄寺の息を呑む音が聞こえた。


「オレと、付き合ってくれ」


『はい…はい…っ』





それから少し話をして、オレは通話を切った。


身体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。


「ほら、上手くいったじゃん」


ツナの声が頭上で響く。その声色はほれ見たことか。と言っている。


攻撃してやりたいが、それだけの体力すらなかった。気力が枯渇していた。


「お前…オレが内心どれほど切羽詰ったと……」


「大丈夫。聞いてる限りそんなこと全然分からなかったから。いつもどおりの子憎たらしい生意気な態度のリボーンだったよ」


オレはいつもそんな風に見られているのか…


「でも、よかったじゃん」


「なにが」


「デートの約束出来て」


「デート!?」


「覚えてないの!?」


全然覚えてない。というか正直何を話したかも覚えてない。


ツナは顔を手で覆う。あっちゃーという呟きが口から漏れた。


「…ここは、オレが一肌脱ぐしかないようだね…」


「あ?」


「獄寺くんには幸せになってもらいたいし、リボーンも……今の見た限り、獄寺くんを泣かすようなことはしないだろうし……うん、オレ、二人を応援するよ!!」


獄寺のみの応援からオレ含めての応援になった。単純な奴だ。


「何思ってるか知らないけど、まずはその身体の震えを止めなよ」


そういえばオレの身体は電話しているときの緊張が解けたせいかぷるぷると痙攣していた。電話でこれか。実際会ったらどうなるんだオレは。


「じゃあ、とりあえずデートの計画立てようか!!」


「待て。まずそのデートというのは何日後の話だ?」


「明日」


「!?」





つづく?





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リクエスト「獄の前ではカッコつけようと頑張るリボ様v」
リクエストありがとうございました。