ねぇ。獄寺くん。


はい? なんでしょう。


…―――いつになったら、リボーンに言うの?


………。そうですね。…あのですね、10代目。


うん?


オレ、リボーンさんと今度食事をしようって。約束をしてるんですよ。


へぇ。そうなんだ。


ええ。…そのときに………と。思ってます。


…そっか。頑張ってね。


ええ。ありがとうございます。…って、その前に任務があるんですけどね。


そっちも頑張ってね。


ええ。ありがとうございます。




































思えば、いつから獄寺くんはリボーンが好きだったんだろう。


オレが気付いたときには、もう好きだったんだよね。


付け入る隙がないほど。


どうしようもないほど。


笑うしかないほど。


獄寺くんは、自分の気持ちをリボーンに伝えようとはしなかった。


獄寺くんはリボーンの隣にいれるだけで、リボーンと話せるだけで、それだけで…幸せって感じだったから。


だけど、そんなの事情を知ってるこっちの身からすればもどかしいのなんのって。


だから、ちょくちょく、いつになったらリボーンに言うのと聞いていた。


その度獄寺くんはちょっと困ったような顔をして、いつの日か。って言っていた。


そして、今回の、この言葉。


自分で聞いておいてなんだけど、少し驚いて。


だけど、そのときの獄寺くんの嬉しそうな恥ずかしそうな顔を見て、何故だかオレも嬉しくなっちゃったりして。





もし。…といいますか絶対だと思うんですけど。振られたら自棄酒に付き合ってくださいね?


いいよ。でも、そうならないように祈ってる。





…自棄酒になった方がオレとしては嬉しいはずなのに、何でそう言っちゃったんだろうね。


結局…どうだったんだろう。


リボーンは、獄寺くんをどう思ってたんだろう。


聞きたいけど、獄寺くんでもないオレがそれを聞くわけにはいかないしね。


一生謎のままか。





…あの日。獄寺くんが任務に行った日。


獄寺くんは帰らぬ人となった。


抗争中に流れ弾が当たって。


そのまま。それっきり。


その日はとても寒くて。


街中に雪が降ってて。


白い絨毯の上に獄寺くんが大の字で…腕が一つなかったそうだけど、とにかく倒れていたらしい。


獄寺くんの死に、多くの人が傷付いたけど。


リボーンは、顔色一つ変えてなかったっけ。


報告を受けても「そうか」なんて、まるで何でもないことのように。大したことではないように受け取っていて。



…獄寺くん。


…やっぱり、告白しても、駄目だったかもね。





リボーン、誰に対してもそうだけど、冷たいや。




































気が付けば、オレの身体は地に伏していた。


空が見える。


視界いっぱいに。


分厚い雲と、そこから振ってくる白い雪。


それを遮る、無粋な線と、煙。


………ああ、そうだった。


今は任務中だった。


くっそ一瞬頭飛んだか。本当に忘れていた。


起きないと。


起きて、身を隠して、敵を撃って。


帰らないと。


帰らないと…いけないのに。


………。


身体が…動かない。


つーか…いつの間にか腕吹っ飛んでるし……


ああ、もう。


帰ったら、リボーンさんと食事が待ってるのに、これじゃあ格好が付かない。


帰ったら片腕で出来るテーブルマナー習得しないと……


……………。


無理か。


帰れないか。


寒くない。


雪の日なのに。


寒さに慣れたわけじゃない。


感覚が消えている。


なのに背中が温かい。


血が流れている。


身体が軽くなる。


…天にも昇る気持ちってか?


オレみたいな人殺しでも、天国ってところに行けたりするのか?


それとも、上から地獄ってところにまで叩きつけられたりするのかもな。


…どちらでも、そうは変わらないか。


どちらにしろ、そこにはリボーンさんはいない。



オレは、ボンゴレに、帰ることが出来ない。



ああ―――結局、リボーンさんにこの気持ちを伝えることは出来なかったな。


結果を10代目に報告することも。


そのあと自棄酒に付き合ってもらうことも。


リボーンさんは、オレなんかにそういう感情は持ってない。知ってる。分かってる。


そもそも、それ以前にリボーンさんは中立の身で…特別な誰かを持つことすら許されぬ身。


だけど、だからこそ……リボーンさんと…たとえ他愛のないことであったとしても、約束を結ぶことが出来て嬉しかった。


………守ることは、出来なかったけど。


ああ、もう、一体いつの間に夜になったんだ?


もう、何も見えない。


何も聞こえない。


背に流れる血の、温かさも消えた。



―――――眠い。



…リボーンさん。


あなたと交わせた、最初で…最後になってしまった約束。果たせませんでした。


それが。


それがなによりも……心残りです。



…………………………。



……………。



………。




































………ん?




































あれ?




































なんで……




































なんでリボーンさんが、目の前に?




































周りが、どこかいつもと静かだ。


どうしてだ?



……………。



ああ、そうか。


獄寺がいないのか。


どこにいるんだ?


いつも気が付けば、すぐ傍にいるのに。


今日はどこにも見かけない。



…………………………。



ああ、そうか。


獄寺はもう、いないのか。


死んだんだったな。あいつは。





よくある話だ。


マフィアの一人が、抗争中に命を落とした。


それだけだ。


それだけで、いつもと同じ。


昨日と何も変わらない、いつも通りの日々。


そのはずだが…





ねぇ、リボーンさん―――――





…………………。



あいつがいないと…静かだな。


…そういえば…生前のあいつと約束していたか。







「…ん? リボーン、どこ行くのさ」


「飯」




































座る向き席には、無論誰もいない。
…………………………。

あいつのために予約した席なのに、そのあいつがいないとはなんとも皮肉な話だ。
……………。

予約の時間は七時だったが、それよりだいぶ早く着いた。
………。

別に今から食事を始めてもいいのだが、予約の時間まで待つことにした。
………ん?

意味などない。
あれ?

ただそういう気分だった。それだけだ。
なんで……

時間が規則正しく進み、やがて予約の時間になる。ウェイターがやってくる。
なんでリボーンさんが、目の前に?


「お連れ様は……」
え? え? なんだ? あれ? オレ?


そいつの目が言ってる。すっぽかされたのかこいつ。違うわ。
オレ…抗争で……倒れて…そう、腕が……って、あるし。


「連れか? 連れならほら、そこにいるじゃねーか」
リボーンさんがオレを見る。ここは…リボーンさんと約束したレストラン? これは夢か?

「え?」
それとも…まさか抗争に行っていたのが夢? やべオレ夢と現実の区別がつかねぇ!!


ウェイターの身体が強張る。オレはクックと笑いながら、
ってリボーンさん…なに笑って……


「ああ、悪い。あいつは少し前に死んだんだ。だからこねーよ」
…………………………。

「そ、それは…失礼を、」
…そう…ですよね。流石にあれは夢じゃないですよね。

「ああ。…でもあいつのことだから、自分が死んだのを忘れて約束だけ覚えてて本当にそこにいるかも知れねーから…精々粗相のないようにな? 祟られても知らねーぞ?」
祟りません!! リボーンさんオレのこと一体なんだと………


ウェイターはぎこちない笑みのまま去った。
ああ、冗談ですか。

まさか、今のオレの言葉を信じたのか?
そうですよね。

いるわけがないのに。
さっきからリボーンさん、オレの方は見ても、オレは見ませんからね。

………。
オレは…死んだんですね。

そう。あいつは死んだのだから、もうこの世界にいるわけがない。
あの日、あの場所で……

だと言うのに…なんでオレはここに来ているのか。
なら、なのに、どうしてオレはここにいるのでしょう?

……………。
……………。

ああ、そうか。
なんで……


「―――――獄寺」
―――――え?


小さく。あいつの名を呟く。
リボーン、さん?


「お前は、オレのことをどう思っていたか知らねーけど」
……………?


いつもいつも、何かと理由をつけて…オレの傍に来て、オレの隣にいたお前。


それは居心地の悪い空間ではなかった。


落ち着けた。



「オレは、お前のこと……気に入っていたぞ」
―――――!?


ウェイターが来て、グラスに酒を注ぐ。気を使ってか、向かいの席。誰もいない席。
お、オレ…オレは!!

…あいつのグラスにも。
オレは…あなたのこと……好きでした。本当に…―――好きでした。


「……………」
……………。


グラスを持つ。向かいのグラスは動かない。波すら立たない。
リボーンさんがグラスを持つ。オレも、掴めないけれど持つ。

構わず、オレはグラスを向かいの席に向けた。
リボーンさんがオレに向ける。オレも、グラスを掴んだ手をリボーンさんに向けた。




      「 乾 杯 」





それからは、黙って食事をした。
…そういえば、リボーンさん。

そういえば、メニューはオレが勝手に選んだのだが、仮に獄寺がここにいたとしてあいつはこれを気に入っただろうか?
この食事…なんだか、オレの好きなものばかりなんですけど……

一応あいつが好きなものを選んだんだけどな。
もしかして…自惚れていいなら、その……オレのために、気を遣ったり…してくださいましたか?

それが確認出来ないのが、少しばかりの心残りだった。
もし、そうなら嬉しいです。




     ありがとうございます。





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獄「オレ…この戦いが終わったら、リボーンさんに告白するんです」

ツナ「獄寺くんアカン。それ死亡フラグやー」

リボ(節子…?)



反転有り。