雨が、降っていた。
風が、吹いていた。
冷たい雨。
冷たい風。
それらは獄寺の体力を次々と奪っていく。
獄寺の腹からは、血が流れていた。
降り注ぐ雨のように止まることを知らない血。
獄寺は傷口を抑えながら、歩き続ける。
雨に打たれ、風に吹かれ、壁に手を付き、血を流しながら。
けれど、やがて限界が訪れる。
視界が歪み、足を縺れさせ、躓いて、転んだ。
ドサッと、獄寺の身体が地面に転がる。
痛みはなく、それどころか横になったことでいくばか楽になった。
しかし、獄寺にはもう立ち上がる力も残ってはいなかった。
このまま死ぬのだ。
ここで死ぬのだ。
獄寺はそうだと理解した。
誰にも知られることなく、一人で。
死ぬことなど、怖くはない。
いつ死んでも、おかしくない世界で暮らしていたのだから。
だから、死ぬことなどなんともないだろうと思っていた。
けれど。
力の入らぬ身体で、獄寺は不意に思った。
寂しいものだと。
―――と。
雨が、やんだ。
獄寺の、周りだけ。
頑張って空を見上げれば、そこにあったのは雲天の空…ではなく、大きな蝙蝠傘。
それを持っているのは―――
………。
獄寺はその人を見て。
ふっと、思わず自分が頬を緩めたことに気付きもせず。
その生涯の幕を閉じた。
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最後の最後にあなたと二人。だから寂しくない。