突然別れを告げられた。


そしてあなたはいってしまった。





- 口付けと共に・・・ -





重い目蓋を開けてみれば、そこは見知らぬ部屋の中。


はて。


ここは…一体?


身を起こそうとして、状況を確認しようとするも身体はぴくりとも動かなかった。


それこそ指一本。自由に出来るのは精々が眼球程度か。


目に見えるのは白い部屋。それから点滴の袋とチューブ。


…病室、か?


なんで?


疑問を持ち、記憶を遡るよりも前に…空気が揺れるのを感じた。


思わず眼で確認を取ればそこには。


そこには…息を切らした様子の。10代目の姿が。


どうしたんだろう。


どうしたんですか? 10代目。


そんなに思いつめた顔をして。


疑問を声に出そうとする前に、10代目がオレの眼の上に手を乗せる。


多分、オレに顔を見せたくなかったんだろうな。


そう思い、オレは眼を閉じた。


すると何故だかすぐに睡魔が襲ってきて。


抗うことも出来ず、オレはまた眠りに着いた。


それまでの間に、思ったことは二つ。


どうして10代目は泣いていたんだろう。ということと。


今日はやけに静かだな。ということ。





単にオレの耳がいかれてただけだと気付いたのは、次に目覚めてから割りとすぐ。


そのときにはオレの目も見えなくなっていたんだが。





暗い世界で、考えるのは思うのは…たったひとりのあの人のこと。


あの人はどこだろう。


暫くの時が経ち。何人もの人間がここを訪れたけど。


あの人はまだ来ない。


何も見えずとも。何も聞こえずとも。あの人は分かる。でも来ない。


………いや…


もしかして、来たのか?


10代目が来るよりも前。誰かに会ったような気がした。


あれは夢だと思っていたけど。もしかして?


…あれは夢じゃなかったのか。


それはちょっと嫌だった。


だって哀しかった。


あの人に別れを告げられるなんて。


じゃああの人はもう来ないのだろうか。


オレの前から姿を消したあの人は。


どこにいってしまったのだろう。


出来ることなら追いかけたいけど、オレの身体はどうしても動かない。


最後に口付けと共に去ったあの人と再び出会うことはとうとう叶わず。


今日もまた、身体の節々が訴える痛みに耐える一日が始まった。





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身体が動かないのもそのはずで、オレには下半身がなかった。

オレが痛みに耐えるのは少しで済んで、オレは三日後に死んだ。