同時、闇が消えた。


眩いほどの強い光が彼女の世界と目を焼き付ける。


彼女は悲鳴を上げる。世界の変化についていけなくて。


闇がいない。闇がどこにもいない。彼女の世界にいつもいた、あの闇が。


彼女は心細くなる。闇はいつだって自分の傍にいてくれたのに。闇がいたから自分はひとりじゃなかったのに。


怖くて、寂しくて。―――死んでしまいそう。


身体が震える。世界が壊れて、闇が崩れて、自分を保っていられない。


壊れてしまう―――そう、無意識のうちに感じた瞬間。



ふと、身体を包み込む暗闇。


ふわっと、身体を包むぬくもり。



これは…ああ、これは、この世界は、このぬくもりは。


あの世界だ。先程まで自分がいた、ずっと自分がいた、自分の世界だ。


彼女は必死にぬくもりに縋り付く。これから手を離したら、自分はどうなるかわからない。





   ―――目を開けろ。





声が聞こえた。


目を。開ける。そんなのやり方がわからない。


昔は、出来たような気がした。瞼の開け方を知っていたような気がした。


でも、今はもう分からない。


だって、閉じても開いても、広がる景色は同じなのだから。


だから瞼に。目に。意味なんてなかった。


なのに開けろと、声が言う。


瞼に何かが触れる。くすぐったくて、微かに開く。


途端、眩い光が強い力で目玉を刺し貫く。目の奥から熱い何かが零れる。


目が溶けたんだと、そう思った。


そうだと悟ると怖くなって、瞼を強く閉じ締めた。


目を開けてはいけない。


開けたらきっと、目玉と一緒に闇が溶けてしまう。闇が死んでしまう。


そんなの、耐えられない。





   ―――大丈夫だから。





なのに声は、闇は大丈夫と言う。


彼女はぬくもりをぎゅっと握り締める。逃げてしまわないように。


闇は彼女を安心させるように包み込む。瞼を啄ばむ。


あたたかい。くすぐったい。


闇はずっと自分を待っている。自分が目を開けるのを待っている。


………。


目を、開ける。


ゆっくりと、ゆっくりと。


何度も目を閉じ直す。薄目を開いては、光の眩しさに目を閉じる。


その度に闇に縋り付き、ぬくもりに身を寄せる。そして、また目を開けようとする。


そして―――やがて。


彼女が、目を開ける。


視界に入るのは、黒。


自分を抱きしめてくれている、黒い人がすぐ傍にいる。





「おはよう、獄寺」





低い声。優しい声。


黒い髪。黒い目。黒い服。闇の色。


世界に闇は消え去って、代わりにこの人が現れた。


ああ、この人が、闇。


あの世界を覆っていた闇が一纏めになって、形になったのがこの人だと。獄寺は思った。


獄寺の目からまた熱い、大粒の涙が零れ落ちる。


闇の人はそれを優しく掬い上げ、よく頑張ったなと獄寺の頭を撫でた。





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偉いぞ、獄寺。


リクエスト「男前リボ様×乙女獄」
リクエストありがとうございました。

以前のこの話があまりのもあれだったので書き直し。