深い深い微睡みの中。


薄く目蓋を開けたらそこには…愛しいあの人の姿があった。




   - 目覚めの先に -




…ああ、これは夢だな。夢に決まってる。


だってあの人はオレなんかに構わないから。


なのに、今オレの目の前にいるあの人は…薄く笑みすら浮かべている。


…あの人はオレには微笑まないのに。



―――好きなのに。



あの人が身を起こすオレを引き寄せて、頭を撫でてくれた。


嗚呼―――嬉しい。


夢だって分かっていながら、それでもあの人の傍にいれるのが…嬉しい。


出来ることなら、もう暫くこうしていたい。


…あの人がオレから身を離し、手を差し伸ばす。


オレはその手を掴もうと、腕を伸ばした。



そこでオレは目が覚めた。


伸ばした腕が、空を掴んだ。



………。


ああ、ほら。夢だった。


分かってる。分かってた。最初からあれは夢だって。知っていた。


だって。ありえないから。あんなこと。


それでもあの時間は幸せだったし、今はそれに比例して…切なかった。



「………」



静かにため息を吐くと、息が白かった。


ああ…道理で寒いと。


と。そう暫く寝具の上でそのままぼんやりしていたら。


何かに引っ張られて。毛布の中に引き込まれた。



「………ぇ?」



思わず声が出た。


なんで…なんでどうして…眠っているリボーンさんがこんなにも間近に?


ていうか、何でオレリボーンさんに抱き締められてるんですか?


…夢の続き…? え? 何オレまだ寝てんの?


てか、これ、オレ…動けないんですけど?


ど、どうしよう…


オレが凄い困っていると、リボーンさんの目蓋が微かに動いて。…開いて。


「………」



目が、合った。



「………」


「………」


何故か二人、そのまま沈黙。


けれどその重みにいつまでもオレが耐え切れるわけもなく…先に静寂を裂いた。


「お…おはようございます。リボーンさん…」


我ながら、小さな声だった。


けれどその声を聞いてか…リボーンさんはゆっくりと身を起こして。


「…悪い獄寺。手違いがあったようだ」


と言って、部屋を出て行った。


訪れる静寂。何をすることも出来ずに耳が痛いほどの沈黙を味わっていると…遠くからリボーンさんと、10代目の声。





…ツナ。てめー…殺す。絶対殺す。


あっはっはっは。その様子だとオレのどっきり成功? どうだったどうだった? 幸せだった?


辞世の句でもあったら今のうちに言っておけ。それぐらいなら聞いてやる。


起きたら目の前に好きな子が寝ていた感想は?


死ね。


ってぉうううああああー! マジで撃ってきたー!


当たり前だろうが。てめーオレが嘘や冗談で銃口向けるような奴だとまさか本気で信じていたのか?


ははははは。それはないね。有り得ないね。伊達に10年の付き合いじゃねっての!!


そーだな。まぁその付き合いも今日で終わりだが。清々するな。


まさかのボンゴレ10代目暗殺! 犯人は最強のヒットマン!? ってか?


売れねぇ見出しだな。


オレもそう思う。


じゃあまぁとりあえず、遠慮なく死ね。


くくくくく。オレが何の準備もなしにこの日を迎えたと―――思ってるのっ!


煙幕程度でこのオレが……って隠し通路…!? …てめーツナ! この意欲を仕事に使わんかボケがーーーーー!!!





…それはオレも同感ですリボーンさん。


またも急に静かになって暫くしてから、今更のように感想を漏らして。…肌寒くなってきたのでオレはまた布団の中に戻って目蓋を閉じた。



―――ところでこの夢は…いつになったら醒めるんだろう。と思いながら。





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醒めない夢。まるで現実。