取り分け、何の切欠もなかったと思う。
何かの拍子で会話する機会を得られ、そこでの印象が多分よくて。
そこから、擦れ違えば会釈をし。時間が合えば共に過ごし。
そうして触れ合っていたら、いつしかオレたちは恋人同士になっていた。
それが、オレとあの人が日本に飛ぶ少し前の話。
- 身分違いの恋 -
「オレの隣でいいんですか? 他の愛人のところへ行かれては」
「お前の傍が一番落ち着くんだ」
「リボーンさん…」
そんな嬉しいことを言われて、オレの鼓動が高まらないわけがない。
たくさんの愛人がいる中で、オレを選んでくれてる…その事実がオレの顔をにやけさせる。
「それともお前は、オレに他の女の所に行ってほしいのか?」
「まさか」
そう言ってオレは、膝の上のリボーンさんをぎゅっと抱きしめる。どこにも行ってほしくないから。ここにいてほしいから。
オレは幸せだった。リボーンさんもきっと同じ気持ちだったと思う。
リボーンさんから教えて頂くことは何でも楽しかった。リボーンさんに褒めてもらえれば嬉しかった。
オレはリボーンさんと一緒にいられればそれでよかった。それだけで幸せだった。それ以上は望んでなんていなかった。
それなのに…
オレのことを、快く思わない奴もいた。
オレではあの人とは不釣合いだと。
悪童ごときががあの伝説のヒットマンの隣に立っていいわけがないと。
あの人の傍にいるときは、聞こえないふりをしていればよかった。それで済んだ。
…だけど、それはあの人がいないとき。
お前は、分かっているのかと問われた。
自分が、どれほど凄い人間と付き合っているのか。
そして、自分がどれだけ下らない人間なのか。
オレはあの人に何も出来ないと。
オレはあの人の足枷でしかないのだと。
あの人は大きな仕事だって抱えているのに、お前のせいでそれに集中出来ないのだと。
あの人は目指せばそれこそどこへだって行けるのに、それをお前は邪魔しているのだと。
それは…確かに。その通りだと思った。
オレはあの人に、何も出来ない。
オレはあの人に与えてもらうだけで、オレからは何も出来ない。
あの人が仕事で呼び出されているとき、オレはあの人の手伝いなど何も出来ない。
むしろ……
獄寺。
え…リボーンさん、どうしてここに? 今日は仕事って…
たまたま近くを通りかかったから、顔見せとこうと思ってな。
でもリボーンさん…お疲れでは……
気にすんな。オレがお前に会いたくて勝手に来たんだ。
リボーンさん…
ああ、でもサボってるって知られたら怒られるんだ。だからお前とここで会ったことは誰にも内緒だぞ?
オレはあの人の、負担になっている。
他の誰になんと言われても、耐えることは出来たけど。
あの人の負担になるぐらいなら、オレは…
「獄寺。なにボーっとしてんだ?」
「あ、いえ……その、」
「? …なんだ? そんなにオレといるのは退屈か?」
「退屈と言いますか、その…」
「…? 調子でも悪いのか? ごくで…」
「オレたち…別れましょう」
「……………」
「……………」
「…獄寺。冗談でもそういうことは…」
「冗談なんかじゃ…ない、です……」
「…獄寺」
「オレは…貴方に、相応しくありません…」
「誰に言われたんだ?」
「違う、オレがそう思って…!」
「オレたちのことをそう言う奴がいるのは知ってる。けどな、」
「オレと別れて下さい、リボーンさん!!」
「嫌だぞ」
「リボーンさん…」
「オレはお前が好きなんだ。それにお前、オレがいなかったらこれから困るぞ? これから先誰がお前を指導する。銃の腕だってまだまだじゃないか。それに…」
「…オレが貴方に抱いていた感情は、恋ではありませんでした」
「………」
「オレって、結構自分勝手で酷い奴なんですよ? リボーンさんみたいに凄い人と付き合って、そんな凄い人と付き合ってる自分も凄いだなんて…そう思ってるだけなんです」
「………」
「…大丈夫です。オレは貴方がいなくても…ひとりでも、ちゃんとやっていけます。…貴方と知り合う前も、やっていけたのですから」
「………そうか」
「……、」
「分かった獄寺。別れよう」
「…はい……」
「獄寺。今までオレと付き合ってくれて、有り難う」
「………、」
そう言って、リボーンさんは去って行きました。
オレは何も答えることが出来なかった。
最後のあの人の言葉は、とても冷たかったから。
…だけど、これでいい。これでいいんだ。
これであの人からオレという足枷は取れる。あの人の負担は消える。
それはとても喜ばしいこと。
なのに……
オレはあの人と別れてから、微動だに出来ずそのままその場所に座っていた。恐らく最後の、あの人との思い出の場所に。
どれだけの時間が経ったのかも分からなかった。ただあの人と別れたときは明るかったはずの外は暗くなっていた。
あの人は来ない。
当たり前の事実。
それだけのことが…とても悲しくて。オレはその場で声を殺して泣いた。
あの人に抱いていた感情が恋じゃないなんて、そんなわけがない。そう声を大にして叫びたかった。
オレはあの人が好きだ。誰になんと言われようと、誰になんと思われようと。
…その気持ちを、もう表に出してはいけないのだとしても。
次の日から、オレとあの人は他人になった。
道すがら擦れ違っても目も合わせない。当然会話もない。
とても辛かった。
そしてあの人は日本へと飛んだ。次期10代目の指導役として。
もうあの人と会うこともないのだろう。そう、諦めを持っていたある日。あの人から呼び出しが来た。
不覚にも鼓動が高まったのは、誰にも内緒だ。昔、あの人が仕事をサボってオレに会いに来てくれたときのように。
日本に飛ぶ寸前に、また呼び出されて「初対面のように振舞え」と言われた。
…分かってる。そんなこと、言われなくとも。
オレはもう、あの人の足枷になりたくはないのだから。
言われた通りに、まるで初めて会ったかのように振舞った。
そうしたら…あの人は。
「ああ、オレも会うのは初めてだな」
正直に言いましょう。
泣くかと思いました。
酷い奴ですよねオレは。
貴方に勝手に別れを告げておいて。なのにまだ好きなんです。
…むしろ、別れを告げたときよりも一層好きになっているような。
日本に呼ばれて、身体の距離は縮まったけれど。心は遠ざかった気がしました。
だって貴方は、オレを見ないのですから。
だって貴方は、オレに冷たいのですから。
けれどオレも、貴方を頼りにするわけにはいきません。
オレはひとりで頑張りました。
それが…貴方と恋人だったときのオレが、貴方と最後に約束したことなのですから。
とても辛い日々でした。それが10年続きました。
そして…
「…獄寺」
「リボーンさん…こんばんは。どうなさったんですか?」
「お前を待ってた。報告したいことがあってな」
「…なんでしょう」
「ツナが、さっき正式にボンゴレを継いだ」
「知ってます。オレもその場にいましたから」
「そうだったな。………長かった」
「ええ。本当に」
「ツナの指導は9代目直々の命だ。オレも無碍には出来ず、全力を尽くす必要があった」
「ご苦労様でした」
「ああ。苦労した甲斐があってツナは無事に育て上げれた。だがその分犠牲も大きかった」
「犠牲?」
「好きな奴と過ごせるはずだった、10年という時間だ」
「………」
「獄寺。オレは今でもお前が好きだ。お前はどうだ?」
「…今更ですよリボーンさん。まともな会話だって、あの日からしてないじゃないですか」
「そうだな。だけど、オレはずっとお前を見ていた」
「え……?」
「お前は宣言した通り、本当にひとりで何とかやってたな。毎日、頑張っていた」
「…結局駄目なところは駄目でしたけどね」
「だけど、頑張っていた」
「………貴方はオレに甘いですね」
「惚れた弱みだ」
「…でも、駄目ですよ。リボーンさん」
「どうしてだ? お前はオレが嫌いか?」
「オレがいると…貴方の足枷になる」
「誰だそんなことを言ったのは」
「オレがそう思いました。貴方は望めばどこへだって行けるのに…オレが止めてしまってる」
「…獄寺」
「オレは…貴方の負担には……なりたくないんです」
「獄寺!」
「、リボーンさん…」
「まったく、お前は本当に馬鹿だな」
「な…! ……酷いですリボーンさん。あんまりです」
「あんまりなのはお前だ獄寺。どうしてお前はそう見当違いに物事を考える」
「…はい?」
「オレが望む、オレが行きたいところはお前の隣なんだ。獄寺」
「…オレなんかの、隣では…」
「―――獄寺」
「は、はい?」
「お前は勘違いをしているな。言っておくが、お前は"なんか"なんかじゃない。そこんとこ勘違いしてたら、オレだって怒るからな」
「リボーンさん…」
「お前はオレの恋人だった奴なんだからな。そしてオレにとっては今でも好きな奴だ」
「……………、」
「馬鹿。泣く奴があるか」
「……リボーンさん」
「…なんだ?」
「オレは…あなたを好きでいて、いいんですか…?」
「当たり前だ」
「オレが傍にいたら、あなたの負担になりませんか? オレはあなたのお手伝いが何も出来ない、役立たずなのに」
「…オレはお前をそんな風に思ったことは一度もない」
「………」
「むしろ、逆だ」
「え…?」
「お前が傍にいない方が、オレにとっては負担で、辛い」
「リボーンさん……」
「…なあ、獄寺」
「はい」
「結局オレたち、まだお互いに好きなんだよな?」
「……そう、みたいです」
「…両想いなら、また恋人になっても。いいよな?」
「………」
「いいよな?」
「…はい。いいと思います。……また、よろしくお願いします。リボーンさん……」
「…と、そういうことがあったわけなんですよ。昨日」
「あったわけなんだ。ツナ」
「…それが朝っぱらから二人して乳繰り合ってる理由?」
「10年振りなんですよ10代目!! 少しは大目に見て下さい!!」
「いや、大目って…」
「そもそもオレたちの関係が戻るのに時間掛かったのは10代目になるまでに時間の掛かったツナにも責任があるんだぞ」
「それなんか違くない!?」
「もう! なんですか10代目さっきから文句ばかり! 10年間ずっとリボーンさんと一緒で一体何が不満なんだってんですか!!」
「いや不満て…しかも10年ずっとリボーンと一緒ってスパルタに鍛えられてた思い出ばかりで結構不満ばかりだけど」
「惚気ですか10代目?」
「獄寺くん正気に返って!?」
「獄寺、落ち着け」
「はい!」
「というわけで暫くオレは獄寺と組むからな」
「むしろ一生組んでいたいです」
「そうか。じゃあ籍入れるか」
「そうしましょう! オレ婚姻届けもらってきます!!」
「ああ、さり気にリボーンも暴走してるし…止められる人がいない……」
そんな10代目の声が聞こえてきたような気がしないでもなかったけど、今のオレにはリボーンさんと記入する婚姻届けで頭いっぱい夢いっぱいだったので、無視しました。
すいません10代目☆
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これから始まるときめき夢の生活に乾杯!!
某智代アフターアニメパロ。