「獄寺。お前美味そうな匂いがするな」


「はい?」


リボーンが唐突にそんなことを言ったかと思ったら。


「ひああああ!?」


べろりと、獄寺くんの首筋を舐めやがった。





 - 蜜柑の香水 -





「ちょ…おま、いきなり獄寺くんに何してくれてるんだよ!!」


「び…っくりしました…」


オレの批判の声にもリボーンは怯みもせず。今口の中に入れたものをぺっと出した。


「不味いぞ獄寺」


「へ…? えぇ!? す…すいません…」


「いやいや謝らないでいいよ獄寺くん! てかなに言ってるんだよリボーン! こんなに美味しそうな獄寺くんが不味いわけないだろう!!」



「10代目こそなに言ってるんですか!?」



「そんなこと言われても不味いものは不味い。獄寺。お前なに付けてんだ?」


「え…あ、そういえば香水を…」


「香水?」


そういえば確かに獄寺くんから柑橘類の甘い香りがする…


…今みんなで蜜柑を食べてたからそれのせいかと思ってたけど。


「…ってリボーンさん…もしかしてお腹空いてます?」


「無性にな」


言った途端くぅっとお腹が鳴るリボーン。獄寺くんはくすくすと笑って…


「オレの蜜柑で宜しければ食べます?」


「貰うぞ」


あむあむとリボーンは蜜柑を頬張っていく。



…獄寺くんの手から。



「…ってちょっと獄寺くん! リボーンを甘やかせ過ぎじゃない!?」


「え…? そうですか?」


ああもう相変わらず分かってないなこの子は!!


「そうだよ! ていうかリボーンは蜜柑ぐらい放っておいても勝手に食べるから! そこまで甲斐甲斐しくする必要とかないから!!」


「うーん、でも…これがオレがしたくてしていることですから」


と、えへへと苦笑い獄寺くん。


くっそう可愛いな…とか思っていたらいきなり獄寺くんの表情が固まった。



「痛ぁ!? リ、リボーンさん!?」


見てみると、リボーンは獄寺くんの指に喰いついていた。


ちなみに蜜柑は獄寺くんの手の中から消えていた。


「リ…ボーンさん、オレの指まで食べないで下さい…」


「腹減ったんだ」


さっさと次の蜜柑を寄越せとばかりにリボーン。じゃないとおめーを喰っちまうぞ。


少し獄寺くんがまた固まって。暫しお待ちをと蜜柑を取りに走る。ぱたぱたぱた…


…うん。そりゃ焦るよね。リボーンは嘘言わないもんね。特に食べ物に関しては。


食べるって言えば本当に食べるもんね。ちなみにそのままの意味で。


「10年後は意味が変わるかも分かんねーけどな」


おや。怖いお言葉。ご忠告をドウモアリガトウ。


「…でも10年後なら、オレにだって勝機はあると思うけど?」


「未来の自分に期待しているようじゃ、オレには勝てねーぞ」


む…腹立たしいけどその通り…



「――お待たせ致しましたリボーンさん! 獄寺隼人、ただいま帰還致しました!!」



と、獄寺くんが両腕に大量の蜜柑を持って帰ってきた。オレとの話は終わりとばかりにぴょんとリボーンが獄寺くんに飛び移る。


…む。


「腹減ったぞ獄寺。さっさと喰わせろ」


「はい、お任せ下さい!」



仲良くしている二人に少しいらっときたので。



「…獄寺くんっ」


「はい? なんですか10代目、寄りかかってきて」


「オレも蜜柑食べたい」


「あ、はい、どうぞ」


「じゃなくて。獄寺くんが剥いた蜜柑が食べたい」


「へ?」


「駄目?」


「そんなことはありません! 勿論大歓迎です!!」


「獄寺。オレを忘れるなよ」


「あ、は、はい!! すいませんリボーンさん!!」



オレとリボーンに挟まれわたわた慌ててる獄寺くん。


でもまあ、たまにはいいよね? こんな日も。


…近くに香る獄寺くんの髪からは、甘くて美味しそうな蜜柑の匂いがした。





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そんな彼らの10年後の様子はこちら