道がある。
道がある。
長い長い道がある。
それは真っ直ぐな時もあり、
それはただひたすら曲がりくねっている時もある。
そこは暗い世界。
そこに、ただ一本の道がある。
そこを、オレは走っている。
その道の、ずっとずっとその奥に、
あの人の後姿が見えるから。
何故だか知らないけど、オレは酷い焦燥感に駆られていた。
一瞬でもあの人の姿を見失ったら最後。
もう、二度と会えないような気がして。
オレはただひたすらに走っている。
あの人は徒歩なのに、何故だか一向に距離は縮まらない。
真っ直ぐな道。曲がりくねった道。
ひたすら走る。
あの人は歩いている。ゆっくりと。
真っ黒な世界。なのにあの人の姿がやけにはっきりと見えるのが印象的だった。
息が切れる。動悸がする。だけど止まるわけにはいかない。
止まる前にあの人に追いついて、そして腕を掴み取らなければ。
やがてあの人が立ち止まった。その前には一つの扉。
あの扉の向こうに行かせてはならない。
せめて行くなら、オレも一緒に。
そう、思ったのに。そう、願ったのに。
なのにあの人に追いつく寸前で、道が砕けた。
その音の、なんとうるさいこと。
落ちる。
墜ちる。
あの人はオレに目もくれず、ドアノブに手を掛けていた。
「―――――――――っ!!」 行かないでくださいっ!!
オレは叫んだ。声にならなかったが、とにかく叫んだ。思いの丈を叫んだ。
あの人はほんの少しだけ、その動きを止めた。
そして。
「 」 お前は、こっちには来るな。
結局振り向かぬまま、ただただ小さな小さな呟きを残して。あの人は扉を開け放った。
がばっと、勢いよくベッドから飛び起きた。
白いシーツ。点滴のチューブ。喜んでいる顔のみんな。やれやれとため息を零すヤブ医者。痛む身体。
オレは周りに、どこかにあの人の姿はないかと探したけれど、どうしても見つからなくて。
理解して。
オレは涙した。
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二人が歩いていたのは死への道。
彼は死への扉を潜り、彼は皆の助けで生き存えた。
反転あり。