突然だが、リボーンは恋をしていた。
しかし、その思いはその相手はもちろん誰にも告げるつもりはなかった。
呪われた身である自分が、恋だの愛だの、する資格はないと思っていた。
誰も寄せ付けず、距離を置き、興味を持たれないようにしてきた。
一人で生きるつもりだった。一人で生きていけるはずだった。
だが……
リボーンさん。
彼に心を奪われた。
否定しても、拒絶しても意味はなく、彼は難なく心の中に滑り込んできた。
彼に対し愛おしさと慈しみの思いが募り、恋に落ち愛に目覚めるのにはさほど時間は必要としなかった。
リボーンは、恋をしていた。
しかし、その思いはその相手はもちろん誰にも告げるつもりはなかった。
呪われた身である自分が誰かと繋がりを持って。その相手を不幸にしてしまうわけにはいかない。
それでも、好きな相手が出来た。
その思いに、自分の気持ちに。嘘は付けない。
だから、ならば。せめて、見守ろうと。そう思った。
誰にも気付かれず。無論相手に悟られず。独りよがりの自己満足。
そして今日も一日が始まる―――
「おはようリボーン。今日も獄寺くんのストーカーするの?」
「………」
なんか速効でバレてた。
「……何のことだ?」
リボーンは努めて冷静に、極めて何もないようにそう言うが、実は内心でどきどきしていた。
何故、バレた。
いや、と言うか、別にリボーンとしてはストーカーをしているつもりはまったくない。
「…え。いや、何のこともなにも、傍から見るとあれバレバレ……」
「変なことを言うんじゃねえ。殺すぞ」
リボーンは9代目から受けた任務も忘れて本当にツナを殺そうと銃を構える。
ツナは慌てて逃げ出した。
誰もいなくなり、リボーンはひとり考える。
先ほどツナは、気になることを言っていた。傍から見るとバレバレとかなんとか……
………。
まさか。
何をするにも完璧。文句無し。パーフェクトなリボーンがツナごときに行動を悟られるわけがない。
リボーンはそう自身を納得させて出掛けることにした。
今日も獄寺を見守るのだ。
「やぁ赤ん坊。今日も獄寺隼人をストーキングするの?」
「………」
またも速効でバレてた。
「……何のことだ?」
リボーンは努めて冷静に、極めて何もないようにそう言うが、実は内心でどきどきしていた。
何故、バレた。
いや、と言うか、別にリボーンとしてはストーキングをしているつもりはまったくない。
「…え? まさかあれで隠しているつもりだったの?」
怪訝そうな、本当に不可解といった顔をしてくる雲雀に、さてどうしてくれようかと思っていると不意に雲雀の目線がずれた。
雲雀の視線の先には煙草を持った改造制服の集団。…ちなみに、獄寺はいない。
雲雀は表情を険しいものに変え、トンファーを取り出し不良集団の方へと向かっていった。
リボーンも意識を切り替えて獄寺のいる教室へと向かった。
「ようリボーン。今日も隼人を付け回すのか?」
「……………」
最早何も言うまい。
リボーンは諦めた。
だが言うべきことは言っておこう。
「…別にオレは獄寺を付け回っているわけじゃない」
「あれで付け回ってないってんなら、一体どんな状態を付け回るっていうのか教えてもらいたいぜ」
「…………………」
色々と言いたいことはあったが、うまく言葉にすることは出来なかった。
それに付け回っているのではない。見守っているのだ。と言ったところで特別何も変わらないような気もした。
それでもやっぱり腹が立つものは腹が立つ。というわけで半ば八つ当たり気味にシャマルに何かしらの制裁を加えようとする。
しかし、今回に限って言えばシャマルの方が一枚上手だった。迷わずリボーンのアキレス腱を切りにくる。
「あ。隼人」
「!!」
リボーンの身体が一瞬だけ硬直する。
硬直が解けたあとの行動は早かった。シャマルが指差す先からの視界範囲に入らぬよう素早く近くの教室まで滑り込む。
物陰に隠れ、獄寺が通りすぎるのを待つが……何故か獄寺は姿を現さない。
少しだけ考えて、先ほどのシャマルの発言はその場をやり過ごすためだけのその場限りの嘘なのだと気付いた。
よし。あとで保健室爆破しとこう。と、リボーンは固く心に誓った。
その時。
「おはようございますリボーンさん」
「!?」
背後から急に声を掛けられた。
リボーンは驚きのあまりに思わず近くの壁に正拳突きをぶちかました。腰を深く落とし放たれた小さな拳が壁を粉砕する。
「「………」」
暫しの沈黙。そして。
「………アグレッシブですね。リボーンさん」
フォローなのか率直な感想なのか判断のつかない口調で、獄寺はそう言った。
リボーンは務めてなんでもないかのように姿勢を正し、埃を払い、さり気に教室をチェックした。獄寺の教室だった。
「ああ、いや、何でもない。ただその、なんだ。そう、虫がいたんだ。虫が」
言いつつ振り返る。すると獄寺の顔が飛び込んできた。
獄寺は身を屈め、リボーンに目線を合わせていた。その顔はどこか納得したように、「なるほど、虫ですか」と頷いていた。
獄寺は鈍感で天然だった。
対してリボーンは慌てて獄寺と距離を取ろうとしてすぐ後ろの壁に激突していた。
痛い。だが顔には出さない。何故ならリボーンは最強のヒットマンだからだ。
「ところで、こんなところで一体何をなさっているんですか?」
何も知らず、にっこりスマイルで訪ねてくる獄寺。
「……………」
何と言えばいいものか、リボーンは悩んだ。
そもそも、ターゲットである獄寺に存在を認知されただけで既に失態なのだ。
いっそのこと鈍器で殴って気絶させてうやむやにさせてしまおうか。などと本末転倒なことを考えていると、急に獄寺がハッとした表情を作った。
「あ! もしかしてリボーンさん……」
「な、なんだ?」
リボーンの頬に冷や汗が流れる。
まさか、獄寺にすらバレてしまったのだろうか。だとしたら不味い。非常に不味い。
「何も知らないで…オレ……すみません!!」
そう言うが早いが、獄寺はダダダと距離を置き何食わぬ顔で席に着いた。
リボーンが唖然としつつ見ていると獄寺は笑って親指を立ててみせる。声が聞こえるなら「分かってますから!」だろうか。
断言出来るが、絶対分かってない。
大方、いつもどおりの勘違いだろう。獄寺の得意技早とちり。リボーンが今何かの任務中だとか思い込んでいるのだろう。
馬鹿だ。だが助かった。
リボーンは教室を抜け出し、誰の視界にも入らない位置に着く。やっと一息つけた。
―――落ち着こう。ひとまずは落ち着こう。
朝から予想外のことが多すぎてペースが狂っている。いかん。こんなことでは。
リボーンは精神を集中させ落ち着きを取り戻した。
…よし、これで大丈夫だ。
リボーンは今度こそ誰にも気付かれないように教室を覗き見る。
ターゲットである獄寺はツナと何やら雑談していた。
どんな話をしているのだろうか。
少しだけ意識を集中させると二人の会話が聞こえてくる。
「獄寺くんてさ、リボーンのことどう思ってるの?」
「え?」
リボーンは教室の入口まで入り、近くにあった机を持ち上げてツナに向けてぶん投げた。
椅子はツナを巻き込み窓の外まで吹っ飛んだ。
「ギャーーーーー!!!」
「10代目ーーーーー!!!」
慌てて窓に駆け寄る獄寺を見て、リボーンは先ほどのツナからの質問など頭から吹っ飛んだだろうと安堵した。
それからは特に(ツナも普通に授業を受けるほど)問題なく時間が過ぎていった。
やがて下校の時間になり生徒たちは夕日を浴びながら帰路に着く。獄寺も然り。
今日も無事に、何事もなく終わりそうだ。いいことだ。
しかしそう思ったのも束の間で、あらぬ場所から薄い殺気を感じる。
そしてそれは自分に向けられているものではなく獄寺に向かれているのだと気付いて、
リボーンは懐に仕舞ってある銃に手を伸ばした。
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オレの獄寺に手を出すな。
リクエスト「リボ→→→→天然獄。周りにはバレバレ」
リクエストありがとうございました。