リボーンは、以前自分に強さの秘訣を聞いてきた教え子の一人のことを思い出していた。
あの時は答えられなかった。今も答えられないが。
考えたことすらなかったし、考えても分からない。
というか…なんと言うか……
リボーンから言わせれば、どうして周りがそんなに弱いのか、聞きたいぐらいなのだが。
無論、流石に聞いたことはないがそれがリボーンの率直な思いだった。
昔から何でも出来たし、やったことがないことでも少し齧るだけですぐにこなせた。
自分が少し本気を出すだけで、周りの一手も二手も先を行く。
成長する程、リボーンは孤立していった。
神童と呼ばれることもあった。神童は時が経てば常人になるというジンクスがあるらしいが、リボーンの場合はますます拍車がかかるばかりだった。
リボーンの隣に立つものなど、誰もいなかった。
周りは畏怖と畏敬の目で遠くから見るばかり。
けれど、それでもいいと、思っていた。
与えられる仕事をこなし、得られる報酬を手に気ままに生きようと思っていた。
後にアルコバレーノとなる仲間と会い、その時の仕事は本当に楽しかった。あの後呪われたのは、置いといて。
しかし呪われても、リボーンはすぐに受け入れた。赤子の姿になったときは流石に驚きはしたが。
何が起きるか分からぬ身体になって、無残な死を身に受けるだろうと予感があっても、受け入れた。
むしろこれまでの知り合いにアルコバレーノになったことを説明している内、更に有名になって依頼が殺到した。赤子の姿をしているからこそ来る依頼もあった。
初めは赤子の外見からか舐められることもあったが、それもすぐに終わりまた敬遠される日々が戻った。
そして…リボーンが呪いに掛かる前から怖じ気ずに、呪いに掛かってからも対等に接してくれる数少ない知人から依頼が来た。
孫の面倒を見てほしいと。
それから日本に飛び、家庭教師と身分を偽って。
生活が一転した。
平和な国の住人だからか、誰も自分から離れない。みんな好意的な笑顔を見せ、接してくる。
裏の世界のイメージが掴めなかったのかも知れない。まさかそんなことがある訳ないと思ったのかも知れない。赤子の姿であったことも一役買ったらしい。
(特に、あいつらは)
生徒となった彼らは、いつまで経っても自分を恐れなかった。
面白いと朗らかに笑われ、興味深いと注視され―――そして、ただひたむきに、憧れの視線を向けられた。
呪われる前ならともかく、赤子の姿になってからその目を向けられるのは初めてだった。
最強の称号を得るアルコバレーノだからといっても、外見だけで軽視されがちなのに。
(なのに、あいつは…)
裏の世界にいたくせに、こちらの異常なまでの実力を見たはずなのに、彼は遠巻きに眺めたりはしなかった。
恐れず、怯まず。しかし敬意を持って彼は近付いてきた。
…ああ、そう、彼だ。自分に強さの秘訣を聞いてきたのは。
仕事から帰ってきたら、指導する約束をしていた。
それを告げられた時の、彼の顔といったらもう。
惚けたような、驚いたような顔をしていて。
…そして、嬉しそうな顔をしていて。
一体何がそんなに嬉しいのだろうか。
まさか自分に指導されるのがそんなに嬉しいのだろうか。
他にすることがあって、彼への指導はいつも後回しにしていたのだが…実は待ち侘びていたりしていたのだろうか。
事実はともかく、リボーンはリボーンで楽しみにしていた。
気を抜けば彼との特訓のことを考えてしまっている。
実は帰って彼に指導するのを、楽しみにしていた。
楽しみにしていた…のだが。
(………)
―――リボーンは、立っていた。
ある亡骸の上に、立っていた。
その亡骸を、無表情に、無感情に見つめている。
子供の亡骸だ。まだ若い…というよりも幼く見える。
その子供は黒いスーツを着込んでおり、
その子供は手に拳銃を握っていた。
その子供は、自分だった。
リボーンは、死んでいた。
油断していた、とか、調子が悪かった、とか、いろいろ理由は思いつくが、何を言ったところで何も変わらず。
ただ、まあ、一つだけ言えることは、
(こりゃ獄寺に指導してやるのは無理だな)
約束は、永遠に果たせないということ。
リボーンは自分の亡骸を見ているうち、帽子がないことに気付いた。
あれお気に入りだったのに、とリボーンはため息を吐いた。
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やれやれ、一体いつの間に失くしたんだか。